皮膚のかゆみに効く!最新の外用薬治療法まとめ
【JAK阻害薬がかゆみを抑える仕組み|サイトカインの働きを抑制】
慢性的な皮膚のかゆみに悩む人にとって、外用薬は重要な治療選択肢の一つです。最近注目されているのが、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬を含む外用薬です。JAKは、サイトカインという炎症を引き起こす物質の信号伝達に関わるタンパク質です。サイトカインは、免疫細胞から分泌され、炎症反応を促進する働きを持ちます。JAK阻害薬は、このJAKの働きを抑制することで、サイトカインの作用を抑え、炎症とかゆみを和らげる効果が期待できます。
ルキソリチニブは、JAK1とJAK2を阻害する外用剤で、アトピー性皮膚炎の治療薬として2021年に米国食品医薬品局(FDA)に承認されました(日本では未承認)。アトピー性皮膚炎は、慢性的な皮膚の炎症とかゆみを特徴とする疾患で、患者さんのQOL(生活の質)を大きく損ねる原因となります。第III相臨床試験では、ルキソリチニブ外用薬を使用した患者さんで、使用開始から12時間以内にかゆみの有意な改善が見られました。8週目には、治療開始時のかゆみスコアが4以上だった患者さんの40~50%で、スコアが臨床的に意味のある程度まで改善しました。
ルキソリチニブは、尋常性乾癬や扁平苔癬、皮膚慢性GVHD(移植片対宿主病)など、他の皮膚疾患に対する有効性も報告されています(本邦未承認)。尋常性乾癬は、皮膚に赤みを帯びた発疹や鱗屑(りんせつ)が現れる慢性の炎症性疾患です。扁平苔癬は、皮膚や粘膜に紫紅色の丘疹(きゅうしん)が多発する病気で、ときに強いかゆみを伴います。皮膚慢性GVHDは、造血幹細胞移植後の合併症の一つで、皮膚の炎症やかゆみなどの症状が現れます。
他にも、デルゴシチニブ(コレクチム軟膏。日本でも使用可能)やブレポシチニブといったJAK阻害薬の外用製剤が開発されており、アトピー性皮膚炎や手湿疹など様々な皮膚疾患に対する有効性が報告されています。手湿疹は、手の皮膚に湿疹が生じる疾患で、かゆみや痛みを伴うことが多いです。デルゴシチニブは、成人の手湿疹患者さんを対象とした臨床試験で、かゆみと痛みを早期から持続的に改善することが示されました。ブレポシチニブは、軽症から中等症のアトピー性皮膚炎患者さんを対象とした第IIb相試験で、かゆみスコアを有意に改善しました。
JAK阻害薬は、炎症性サイトカインの働きを直接抑える新しいアプローチとして期待されています。特に、IL-4やIL-13、IL-31といったTh2サイトカインは、アトピー性皮膚炎の病態に深く関わっていると考えられており、JAK阻害薬はこれらのサイトカインのシグナル伝達を阻害することで、かゆみや炎症を和らげると考えられています。
【PDE4阻害薬も抗炎症作用でかゆみを抑制|アトピーや乾癬に】
PDE4(ホスホジエステラーゼ4)は、細胞内のセカンドメッセンジャーであるサイクリックAMP(cAMP)を分解する酵素です。cAMPは、炎症性サイトカインの産生を抑制する働きを持っています。PDE4阻害薬は、このPDE4の働きを抑えることでcAMP量を増加させ、抗炎症作用を発揮します。その結果、アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの炎症性皮膚疾患に伴うかゆみを和らげることができます。
ロフルミラストは、尋常性乾癬の治療薬として2022年7月に米国FDAに承認されたPDE4阻害薬です(本邦未承認)。第III相臨床試験では、ロフルミラストクリームを2週間使用することで、かゆみが大幅に改善し、8週目にはスコアが10点満点中4点減少しました。また、ロフルミラストは脂漏性皮膚炎や、アトピー性皮膚炎に対しても有効性が示されています。脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が過剰になることで、頭皮や顔面などに赤みやフケを生じる慢性の皮膚疾患です。ロフルミラストを8週間使用した脂漏性皮膚炎患者さんの62.8%で、かゆみスコアが大幅に改善しました。アトピー性皮膚炎に対しても、ロフルミラストは1ヶ月以内にかゆみを有意に改善することが、複数の第III相試験で確認されています。
このほか、ジファミラスト、ロタミラスト、LEO 29102など、様々なPDE4阻害薬の外用製剤が開発中です。ジファミラスト(モイゼルト軟膏)は、日本で2021年9月に成人および2歳以上の小児のアトピー性皮膚炎の治療薬として承認されました。軽症から中等症のアトピー性皮膚炎患者さんを対象とした第II相試験では、ジファミラスト1%軟膏の使用開始1週間以内に、かゆみの自覚的な指標が大幅に改善しました。ロタミラストとLEO 29102についても、アトピー性皮膚炎患者さんを対象とした臨床試験で、かゆみを早期から持続的に改善する効果が確認されています。
【その他の新しい外用薬とそのメカニズム|カンナビノイドやTRPV1拮抗薬など】
TRPV1は、痒みの伝達に関わるイオンチャネルの一種です。イオンチャネルは、細胞膜に存在するタンパク質で、特定のイオンを選択的に通過させる働きを持ちます。TRPV1は、熱や痛み、カプサイシンなどの刺激に反応して活性化し、神経細胞の興奮を引き起こします。TRPV1拮抗薬のアシバトレップは、このイオンチャネルをブロックすることで、アトピー性皮膚炎のかゆみを和らげる効果が期待されています。第III相臨床試験では、アシバトレップ外用薬を使用した患者さんで、かゆみの自覚的な指標が有意に改善しました。
大麻植物由来のカンナビノイドにも、抗炎症作用と抗そう痒作用があることが分かっています。カンナビノイドは、体内で作られるエンドカンナビノイドと似た化学構造を持つ物質群で、カンナビノイド受容体に結合することで様々な生理作用を示します。カンナビジオールは、精神作用を持たない非向精神性カンナビノイドの一種で、近年その医療応用が注目されています。カンナビジオールを含む外用薬を2週間使用した臨床試験では、アトピー性皮膚炎患者さんのかゆみの自覚的な指標が有意に改善しました。また、尿毒症に伴う掻痒感に対しても、カンナビノイドを含む外用薬の有効性が示唆されています。
このほか、アンモニア酸化細菌を利用したB244、α2アドレナリン受容体作動薬のデトミジン、TRPV3阻害薬のKM001、アセトアミノフェンの外用製剤など、様々な新しいタイプの外用薬の開発が進められています。B244は、アンモニアを酸化する細菌Nitrosomonas eutrophaを含む生物製剤で、抗菌作用と抗炎症作用を持つことが期待されています。軽症から中等症のアトピー性皮膚炎患者さんを対象とした第IIb相試験では、B244の外用投与によりかゆみスコアが有意に改善しました。デトミジンは、皮膚のα2アドレナリン受容体を活性化することで、痒みの信号伝達を抑制すると考えられています。TRPV3は、TRPV1と同じTRPチャネルファミリーに属するイオンチャネルで、痒みの伝達への関与が示唆されています。アセトアミノフェンは、解熱鎮痛薬として広く使用されている薬剤ですが、外用製剤の開発も進められており、ヒスタミン依存性および非依存性の痒みに対する効果が期待されています。
皮膚のかゆみは、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、脂漏性皮膚炎など、多くの皮膚疾患に伴って現れる症状です。慢性的なかゆみは、患者さんのQOLを大きく損ない、時に治療に難渋することもあります。今回紹介した新しい作用機序を持つ外用薬は、既存の治療で十分な効果が得られない患者さんに新たな選択肢を提供するものとして期待されます。特に、難治性の痒疹や、全身性疾患に伴う皮膚掻痒症など、様々なタイプのかゆみに対する有効性が期待されます。
一方で、これらの新薬がどのような皮膚疾患のかゆみに最も効果的なのか、既存薬とのベネフィットの違いは何かといった点は、今後のさらなる研究が必要なテーマだと言えるでしょう。副作用や安全性についても、より大規模で長期的な観察が求められます。新薬の登場により、皮膚疾患の痒みに対する治療選択肢が広がることは喜ばしいことですが、それぞれの薬剤の特性をよく理解し、個々の患者さんに最適な治療を提供していくことが重要です。
参考文献:
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