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ブルゾンちえみ、横澤夏子、渡辺直美――なぜ女性ピン芸人が増えているのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家
ブルゾンちえみ(写真:つのだよしお/アフロ)

2月20日、東京・メルパルクホールにて「ひとり芸日本一」を決める『R-1ぐらんぷり2017』準決勝が開催されました。終了後にはファイナリストの発表が行われました。この日出場した39人の中から見事に決勝の舞台に駒を進めたのは、アキラ100%、石出奈々子、ブルゾンちえみ、マツモトクラブ、三浦マイルド、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子、ルシファー吉岡、レイザーラモンRGの9人。この9人に敗者復活者3人を加えた12人によって決勝が争われることになります。

今回のファイナリストの顔ぶれを見て印象的なのは「女性芸人が多い」ということです。なんと、9人中4人が女性。ファイナリストの中でこれだけ女性の割合が大きいというのは、過去の『R-1』でも例がないばかりか、『M-1グランプリ』『キングオブコント』など他のお笑い賞レースの歴史においても異例のことです。

近年のお笑い界では、女性ピン芸人の活躍が目立ちます。昨年の平野ノラ横澤夏子、今年のブルゾンちえみのように、毎年のように爆発的な売れ方をする人が出てきているのです。また、ファッションセンスやキャラクターが評価されて若い女性のカリスマ的存在になっている渡辺直美、演歌歌手の水谷千重子として全国ツアーを行っている友近など、個性を生かして独自の道を進んでいる人も目立ちます。

また、テレビ番組出演本数でトップクラスに位置するのは近藤春菜、大久保佳代子といった人たち。彼女たちは厳密にはピン芸人ではありませんが、単独でテレビに出る機会が目立っています。このような状況を踏まえると、現代は「女性ピン芸人の黄金時代」である、と言ってもいいかもしれません。

『R-1ぐらんぷり2017』決勝進出者9人
『R-1ぐらんぷり2017』決勝進出者9人

なぜこれほどまでに女性ピン芸人が増えてきたのでしょうか? その理由として考えられるのは、女性の社会的地位が向上してきたことでしょう。好奇心が旺盛で購買意欲の強いF1層(20~34歳の女性)は、テレビの作り手が視聴者層として最も強く意識すべき対象になっています。そのため、お笑いの世界でも、女性に支持される芸人、女性に共感される芸人が求められるようになっているのです。

同性に支持されやすい女性ピン芸人には、大きく分けて2つの種類があります。1つは、女性である自分を明るく楽しく肯定するような力強さのある芸人です。渡辺直美、ブルゾンちえみはその典型でしょう。自分の容姿などを決して卑下したりせずに、生き生きとした姿を見せつけることで、彼女たちは世の女性に勇気を与えています。

もう1つは、女性ならではの観察力を生かした「あるあるネタ」や「ものまね」を得意とする芸人です。柳原可奈子、友近、横澤夏子などはこちらのタイプに当てはまります。彼女たちは身のまわりにいる女性の生態をじっくりと観察しながら、それにアレンジを加えて自分のネタとして演じていきます。だからこそ、彼女たちのネタは「あるある」であると同時に「ものまね」でもあるのです。女性同士のコミュニティーの中だけに存在するちょっとクセのある人物を演じることで、メインターゲットとなる女性視聴者は深く共感して、「いるいる、こういう人!」と膝を打つことになります。この2種類の芸人がここ数年増えてきたことで、女性ピン芸人市場はにわかに活気づいているのです。

実は、女性ピン芸人には男性芸人と比べて有利な点が1つあります。それは、上下関係にあまり縛られない、ということです。男性同士の間ではタテ社会があり、後輩が先輩に逆らうことは基本的に許されていません。しかし、女性ピン芸人の場合には、この規律に縛られず、自由にのびのびと行動することが認められています。だからこそ、いったんテレビに出始めた女性ピン芸人は、その芸歴や年齢に関係なく、即戦力となる可能性を秘めているのです。

今年の『R-1』で決勝に上がったうちのブルゾンちえみ、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子はいずれもまだ26歳の若さですが、すでにそれなりの知名度を得ています。男性芸人で20代から全国的な人気を得る人がほとんどいないという現状を考えると、女性ピン芸人がいかに優位であるか分かるのではないでしょうか。

実は『R-1』にはちょっとしたジンクスのようなものがあります。それは「女性は優勝できない」ということ。過去15回の大会のうち、女性で優勝を果たしたのは第1回のだいたひかるしかいません。昨年のアメリカ大統領選で、ヒラリー・クリントン「ガラスの天井(glass ceiling)」に阻まれて敗北を喫してしまいました。『R-1』に臨む女性ピン芸人たちは、このガラスの天井を突き破ることはできるのでしょうか。彼女たちのうちの1人が優勝するようなことがあれば、そのときこそ名実ともに「女性ピン芸人の黄金時代」が到来したと言えるでしょう。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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