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知事や市長は、なぜランキングに反応するのか

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
群馬県には鉄道ファンに人気の「碓氷峠鉄道文化むら」がある(画像・筆者撮影)

・ランキング批判

 群馬県の山本一太知事が、民間企業が発表した都道府県の魅力度に関するランキングを批判したことが話題になった。47都道府県のうち、44位にランキングされたことに対して、10月12日の記者会見で、この調査に関して、信頼度が低いと批判し、「法的措置を検討する」とまで言及した。

 こうした山本知事の発言に対して、様々な反応が起こり、山本知事はその後、マスコミ各社に真意を問われ、「結構、冷静にコメントしたということは分かっていただければ」と答えた。

・自治体自ら「魅力に乏しい街」ランキング最下位を自称?

 実はこうしたランキング調査や好感度調査については、知事や市長という人たちにとっては、非常に気になることのようだ。今回は、民間企業が実施したランキング調査だが、自治体が自ら実施して炎上したケースもある。

 他にも市長に関しての話題があまりにも豊富過ぎて、すっかり忘れられてしまったが、2018年9月に名古屋市役所が「都市ブランドイメージ調査結果」というものを発表した。2016年に続いて第二回の調査だったのが、これが大きな話題になった。

 この調査が話題になったのは、名古屋市役所が自ら「名古屋市は全国主要8都市(札幌市・東京23区・横浜市・名古屋市・京都市・大阪市・神戸市・福岡市)の中で、最も『魅力に乏しい街』」と発表したからだった。これは、全国主要都市の住民を比較した際に、「住んでいる都市に買い物や遊びで訪れることを友人等に薦めるか」という「推奨度」が、最も低かったことが理由になっている。名古屋市ではロゴマークやPRソングの制作などを行っているとしたが、「魅力に乏しい街」としたことは一部の市民からは強い反発と批判を招いた。

・有名観光地のある都市の知名度や好感度が高いのは当然

 「こうしたランキングが発表されて、低位だと、おもしろがる新聞社やテレビ局から、どう対処するのかと取材が入る。さらに、それを見て、議会では、対応を求める質問が出る。首長も、事務方も、うんざりするが、なんらかの回答をせざるを得ない」と、ある地方自治体の職員は話す。

 別の自治体職員も、「観光地を抱えているのであれば、産業振興の面で問題だが、そうでない場合、別に他から観光客が来なくても、住民にはなんの関係もない。こうした調査の場合、有名観光地のある都市の知名度や好感度が高いのは当然」と話す。

 魅力度や好感度というものの定義は曖昧であるし、さらに住民以外からの評価が、住民にとって何の意味も持たないということもあり得る。名古屋市に居住するある会社員は、「住んでみると、山にも海にも近いし、美術館など文化施設も充実しているし、都市の大きさもちょうど良い感じ。驚かされるのは、名古屋市に生まれ育った知人たちは、それが当たり前に思っていて、他とそんなに変わらないと考えている点」と言う。

 地域外の住民の魅力度や好感度を高めなくても、その地域の住民にとっては、自分たちが日々の生活に満足していれば、それで充分なのだ。

本当に「魅力に乏しい街」?(画像・筆者撮影)
本当に「魅力に乏しい街」?(画像・筆者撮影)

・ランキングをうまく利用した例も

 もちろん、こうした民間企業などが発表するランキングや評価をうまく利用した事例もある。

 東京都北区は、「子育てするなら北区が一番!」をキャッチコピーにしてきた結果、不動産会社などが発表する「住みたい街」などのランキングで上位に選ばれるようになった。

 北区のある中小企業経営者は、「マンションメーカーなどが広告で、そうしたランキング結果などを使って、30歳代から40歳代の子育て世代に良い自治体だと宣伝してくれたおかげで、若い世代の流入が進んで、その意味では成功している」と話す。さらに地元不動産会社の経営者も、「隣接する埼玉県側のマンションなどと比較すると、同じ3LDKから4LDKの新築物件で北区の方が数百万円は高い。しかし、都内で比較すれば手ごろな物件も多く、子育て世代には人気だ」と言う。

 実際に北区のマンションなど不動産物件を検索すると、不動産会社や住宅販売会社のホームページには、「子育て支援制度が手厚く、子育てしやすい街と評判」、「北区は子育てに向いている区」といった文字が躍る。

 民間企業が発表するランキングを直接的ではないにしても、うまく利用できた事例と言えるだろう。

東京都北区の飛鳥山公園には多くの子供たちの声が響く(画像・筆者撮影)
東京都北区の飛鳥山公園には多くの子供たちの声が響く(画像・筆者撮影)

・魅力度、好感度、シビックプライド、シティブランディング、シティプロモーション・・・・

 今回のランキング騒動では、最下位とされた茨城県の大井川和彦知事の「痛くもかゆくもないというのが県民の本音」という発言に対して共感する意見が多く出されている一方、「根拠に乏しいデータで群馬県を低く位置付け」ることで、「県民の誇りを低下させ、経済的損失にもつながる」と強く批判した山本群馬県知事にも賛同する声も強い。

 「魅力度、好感度、シビックプライド、シティブランディング、シティプロモーション、、、ここ20年くらいですかねえ、いろんなコンサルさんやシンクタンクさんが、いろいろ持ち込んできて、自治体として何かに取り組まねばと売り込みに来るのが増えました。正直、もうおなか一杯という感じです」と苦笑するのは、やはりある自治体の幹部職員だ。「一方的に格付けやランキング、評価してきて、コンサルティングやアドバイスが必要だと上から目線で言ってくるケースも多い。財政難が一層厳しくなる中で、高額の経費がかかることもあり、職員の中にも疑問や反発が出てきている。今回の山本群馬県知事の発言に、内心、拍手している自治体職員も多いのではないか」とも言う。

・ランキングも使いよう

 地方自治体の首長である知事や市長が、それぞれの政策、施策を検討する際に、様々な調査データを参考にすることは大切なことだ。

 一方で、民間企業が独自の見方で、その調査結果を発表するのも自由である。そして、自治体側がその調査結果をどのように受け止めるかも、また自由である。

 発表される多くの調査結果について、住民である一人ひとりが、それぞれに正しく判断していくことも求められる。なにかの調査結果で、自身の住む自治体がランキングの低位に評価されているからといって、慌てて自治体に対応を求めたり、批判したりというのは慎重にすべきだろう。

 今回の山本群馬県知事の発言は、「法的措置」など多少過激な表現があるが、巷に溢れる「調査データ」や「ランキング」の取り扱いに対する問題提起の一つだと捉えるべきだろう。

資料

名古屋市役所 都市ブランド・イメージ調査結果報告書

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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