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知っておきたい!マダニが媒介する感染症!野外活動で身を守るポイント

有吉立アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当
写真はイメージ(写真:アフロ)

春から秋にかけて、動物や人を吸血しようと森林や草むらに潜んで待っているマダニがいます。これから野外でキャンプやハイキングなどを楽しむシーズンです。これらのイベントを楽しむために、マダニに刺されないようにする対策をご紹介します。

マダニとは何か?

マダニは室内には生息していません。野生動物が生息している野山や森林、河川敷などに生息する大型のダニです。大型と言っても幼虫は0.5〜1mm、成虫は2〜8mmです。ただ、成虫が血を吸って満腹になると、10〜20mmにもなります。

※リンク先にマダニの画像が掲載されています。苦手な方はご注意ください。

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なぜ刺すのか?

マダニは、卵→幼虫→若虫→成虫→飽血ダニという成長の仕方を行います。吸血するのは、幼虫、若虫、成虫の時の1回ずつ、一生の間で3回吸血します。マダニにとって、動物や人の血は、成長に必要な栄養源でもあり、産卵にも必要なのです。

マダニが人を見つける方法

マダニは、野山などの草むらにじっと潜んでいます。そして、動物や人が通るとその熱や二酸化炭素を感知して、葉先に移動し、素早く乗り移ります。本当にマダニが熱や二酸化炭素を感知する能力があるのか、試験管に入ったマダニを使って実験を行ったことがあります。マダニが入った試験管を手で握ったり、試験管の蓋を開けて息を吹きかけると、今まで動かずじっとしていたマダニが手の熱や息の二酸化炭素に反応し、素早く動き始めました。それは本当に素早い動きでとてもびっくりしました。

刺されても痛くない?

マダニは動物や人の皮膚の上で何日も吸血します。痛くて気付くのではないかと思われるかもしれませんが、気付かないことの方が多いようです。それは、マダニが吸血するとき、麻酔のような物質も一緒に注入していると考えられているからです。吸血し始めは小さかったマダニが大きくなって、大きなホクロのように見えて気付くこともあります。背中など自分では見えないところは気付かずに過ごしてしまうこともあるでしょう。

感染症を媒介する場合も

マダニに刺されると、紅斑やかゆみが起こりますが大きく腫れる場合もあるようで、これは個体差によるところがが大きいようです。皮膚の症状だけで済めばいいのですが、マダニに刺されたときに怖いのは、マダニが何らかの病原体を持っている可能性があるということです。日本紅斑熱、Q熱、ライム病などさまざまな感染症を媒介します。中でもSFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、2011年に中国の研究者から報告された新興感染症です。日本では2013年に初めてSFTS患者が出て以来、毎年10名程度の方が亡くなっています。感染すると、高熱、下痢などの症状になります。現時点では有効な治療法やワクチンがないため、対症療法をして自然な回復を待つしかない状況です。最悪の場合死に至ることもあり、人の場合致死率は25~30%です。

イラストはイメージ(提供:いらすとや)
イラストはイメージ(提供:いらすとや)

人から人への感染も確認

SFTSに感染した動物から人に感染することは、2017年に発表され知られていました。しかし、2023年4月、SFTSに感染した患者を診察した医師が、最初に接触してから11日後に発熱し、その後、SFTSと診断されたことから、人から人への感染も報告されています(※)。

医師は患者が入院しているときは感染対策を取っていましたが、診断前の診察時点で手袋をしておらず、その後、患者が死亡して処置をした際もマスクや手袋などはしていたものの、ゴーグルを着けていなかったそうです。

※本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群のヒト−ヒト感染症例(国立感染症研究所)

これから夏に向かうシーズンとなり、野外でのイベントも増えると思います。そんな楽しいときをマダニに悩まされず過ごせるように対策方法をお教えします。

どうしたらマダニから身を守れるのか?

マダニが媒介する感染症から身を守るには、「刺されない」ことがいちばん大切です。それほどの山の奥へ行かなくても、その辺りの草むらにマダニは潜んでいます。野外に行く前と後にチェックするポイントを以下にまとめました。

【野外に行く時】

・長袖、長ズボンを着用する。

・首にはタオルなどを巻く。

・ズボンの裾を靴下の中に入れる。

・マダニを見つけやすいように、白っぽい明るい色の服を着用する。

・マダニに効果のある虫よけ剤を使用する。

・虫よけ剤は日焼け止めの後に塗る(前だと効果が半減します)。

【野外から帰った時】

・上着は家の外で脱ぎ、マダニの付着がないか確認する。

・帰ってすぐにシャワーを浴びるか入浴する(マダニがまだ吸血前なら、皮膚に吸着していないので流すことができます)。

・身体にマダニが付いていないかチェックする(特に、脇の下、足の付け根、首、膝の裏、脇腹、髪の生え際などに付きやすいので、自分では見えないところは家族に見てもらいましょう)。

・ペットを連れていた場合は身体をチェックしてあげる。

以上のようなことを習慣化してマダニに刺されないよう注意してください。

もし、マダニに刺されている場合は、無理に取り除こうとすると、ちぎれた口器が皮膚の中に残る可能性が高いので医療機関に行くことをお勧めします。

写真はイメージ
写真はイメージ写真:イメージマート

最後に…

最後に、マダニは感染症を媒介するだけでなく、刺されすぎると牛肉アレルギーを引き起こすことがあり、牛肉を含む四足動物の肉が食べられなくなることがあります(鶏肉は大丈夫です)。知り合いが山登りが好きで、マダニに刺されすぎて牛肉アレルギーになった例があります。その方は、マダニに刺されると牛肉アレルギーになることを知らなかったため、事前に知っていればと後悔しています。感染症に罹らなかったことは幸いでしたが。

マダニは見えない脅威をもたらす可能性がありますので、私たちの健康を守るためにも、正しい知識と予防策を身につけ、安全に楽しい野外活動を楽しみましょう。

アース製薬(株)研究部で害虫飼育を担当

兵庫県出身。都内の美術学校卒業後、 家具店店員、陶芸教室講師など虫とは全く関係のない職業に就いていたが、1998年に地元・赤穂のアース製薬に入社以来、害虫の飼育を担当している。しかし、現在も虫は好きではない。著書に「きらいになれない害虫図鑑」(幻冬舎)※記事は個人としての発信です。

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