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経験や実績のない人でも、ポテンシャル(潜在能力)をみて採用する「ポテンシャル採用」は理想の採用方針!

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
知らないところにスパイダーマンのような超能力者が潜んでいる。(写真:ロイター/アフロ)

今回は、私が理想の採用と考える「ポテンシャル採用」について述べたいと思います。ここで言う「ポテンシャル採用」とは、過去実績等に明確に表れていないその人の潜在的な能力を見抜いて(あるいは賭けて)採用するという採用方針のことを指します。

しかし、実際には、多くの会社は採用基準に経験や実績を求めます。それなのに、なぜ「ポテンシャル採用」が良い採用なのだと思うのかについて、以下に述べてみたいと思います。

■ブルーオーシャンの市場だから

まず、「ポテンシャル採用」は競争の少ないブルーオーシャン市場であるからです。ポテンシャルを見抜くのは難しいため、多くの企業はリスクを背負わぬよう「明確な実績」によって評価をする採用を行います。そのため、履歴書や職務経歴書上で明らかに良い(と見える)人は奪い合いになります。人気企業であるならその争奪戦に勝てるかもしれませんが、多くはそうではありません。人気企業が採り終えた後の市場で人を確保するしかなくなります。もし、ポテンシャルを見抜く力を獲得すれば、そんなレッドオーシャンで勝てない戦いをせずに、無競争で良い人を採用できるのです。

■自社の色に早く染まってくれるから

また、ポテンシャルで採用した人は「可塑性」(≒柔軟に自分を変える力)があります。必要スキルが明確で、しかもすぐ欲しいという特定の中途採用であれば、あまり可塑性は必要ないかもしれませんが、昨今激化するビジネス環境の変化においては、事業方針の朝令暮改は当たり前ですし、それに応じて組織方針や採用方針も目まぐるしく変わります。入社するまでの数カ月間で、もしかすると採用の決め手としていたスペックは不要になっているかもしれません。ポテンシャル採用であれば、もともと育成前提ですので、入社後にその時必要なスキルをインプットすればよいだけです。

■結果として優秀な人材を確保できるから

最後に、ポテンシャルで採用するということは、能力全体の総量の多い人から採用することができるということです。論理的に当然の帰結ですが、人材に求めるMUST条件を多くすればするほど、市場の中でそれを満たす少ない母集団から選ぶしかなくなってしまいます。

またMUST条件と引き換えにその他の能力面の不足に目をつぶることにもつながります。MUST条件を極限まで少なくする採用が「ポテンシャル採用」ですので、将来大きな花を開かせる可能性のある「未開の大物」が採れる可能性が高くなるのです。

■難しい採用手法だからこそ競合優位性となるから

このように「ポテンシャル採用」ができれば良いことずくめだと考えます。では、それではなぜどの会社もそうしないのでしょうか。それは、ポテンシャルを見抜く採用は採用担当者の技能的にも難しく、負荷も大きいからです。

しかし、だからこそ、この「ポテンシャル採用」ができる組織になるように、人事部を強くしていくことの意味があります。「ポテンシャル採用」が難しいからこそ、努力して、それを可能とすれば、継続的に優秀な人材を確保する採用力を手に入れることになり、他社との差別化につながり、自社の事業の継続的な成長に貢献できるのです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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