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「ピカソの絵は美しい。だが、ゴッホも美しい」 イタリアの名将の言葉に見るサッカーの美

中村大晃カルチョ・ライター
2018年12月、セリエAローマ戦でユヴェントスの指揮を執った際のアッレグリ(写真:ロイター/アフロ)

オランダの「トータルフットボール」やアッリーゴ・サッキの「ゾーンプレス」など、サッカーの歴史には革命的な戦術がたびたび登場してきた。

ジョゼップ・グアルディオラが率いたバルセロナも、そのひとつだ。「ペップ・バルサ」が現代サッカーに大きな影響を及ぼしたのは言うまでもない。

◆アッレグリ&カペッロが語るサッカー

だが、『コッリエレ・デッラ・セーラ』のインタビューで、ミランやユヴェントスでタイトルを獲得してきたマッシミリアーノ・アッレグリは「我々は誤解しながらグアルディオラを20年追ってきた」と話した。

アッレグリは、当時のバルサのサッカーはアンドレス・イニエスタとシャビ、リオネル・メッシの3人がいてこそ成立したものと指摘している。「だれにでもできるサッカーではない」ということだ。

また、グアルディオラが尊敬するサッキが、自身の好みと異なるスタイルを批判することに、アッレグリは「腹が立つ」とまで話している。「縦へのプレーがどうして攻撃的でなく、攻撃的であるために1メートルのパスを20本つなげなければいけないのはなぜだ?」

「ドローが勝利の半分の価値(勝ち点)だった時に引き分け狙いで守っていたのと、守備から攻撃を導き、違うやり方でスペースを狙うのは別物」との言葉には、アッレグリの矜持も感じられる。

ファビオ・カペッロもアッレグリに賛同した。『コッリエレ・デッロ・スポルト』のインタビューで、マウリツィオ・サッリ率いるユヴェントスを下したラツィオのシモーネ・インザーギを称賛。ポゼッションではなく、「ボールを取り返し、前線に送って、相手を叩く」ことが、サッカーの“いろは”だと述べた。

カペッロは「イタリアはグアルディオラのコピーにすら出遅れた。彼がさらに先をいき、変えている時に、彼の猿まねをしたんだ。我々がコピーしたのはグアルディオラではなく、『元』グアルディオラだ」とも話している。

◆美しさのあり方は多様

大事なのは、アッレグリとカペッロの主張を、ペップやサッキの哲学への反発ととらえないことではないだろうか。カペッロの以下の言葉が示すように、「美」のあり方は様々ということだ

「ピカソの絵は美しいだろう?まさに芸術作品だ。だが、ティツィアーノやゴッホの絵もそうなんだよ。ところが、それらは決して同じものではない。パス3本でゴールにたどり着くのと、24本連続パスから得点を狙うことには違いが存在する。どちらも美しい。それぞれに異なる難しさがある」

カペッロは「美しいプレーとは選手次第」と述べた。アッレグリも「それこそ監督が妥協してはいけない点」と話している。選手に質の高さを求め、その長所を見出し、融合させる方法を生み出すのが「監督の真の役割」(アッレグリ)という考えだ。

例えば、アッレグリは今季ミランで早期解任された友人マルコ・ジャンパオロに警告していたという。ジャンパオロのサッカーに欠かせないトップ下に適任ではないが、スソが素晴らしい選手であることは変わらず、レジスタがいなければダブルボランチで構わない、と話したと明かしている。

こういった信念の持ち主だからこそ、アッレグリは試合を読み解く力に優れ、時に大胆なサプライズに踏み切れるのだろう。ミラレム・ピアニッチ、フアン・クアドラード、マリオ・マンジュキッチ、パウロ・ディバラ、ゴンサロ・イグアインを同時起用した「チンクエステッレ」は衝撃的だった。

選手の特徴を見抜くために、アッレグリもカペッロも自分の目を大切にしているという。

家にパソコンすらなく、スマホも電話として使うのみというアッレグリは、サッカーを見ていれば多くのアイディアを思いつくとし、「我々はまだ技術よりも強い」と述べた。カペッロは練習でデータは役立つとしたうえで、「試合データは翌日に見て、試合中は自分の目だけを信じていた」と話している。

◆永遠の争いが生む美

サッキ、カペッロ、グアルディオラ、アッレグリ…どの名将にもそれぞれの「目」があり、様々なサッカーをつくり出してきた。そのすべてに、それぞれの魅力があるはずだ。だからこそ、人はサッカーに魅せられるのではないか。

アルベルト・ポルヴェロージ記者は、『Calciomercato.com』で、アッレグリらの主張があることは「イタリアサッカーが充実し、本物の美しい議論にオープンだということを示している」と記している。

「プレーと選手、スペクタクルさと結果…この永遠の争いは、イタリアサッカーを沸かせてくれる」

もちろん、それはカルチョに限った話ではない。信念に基づきつつ、異なる哲学も認め、切磋琢磨していくことが、さらに美しいサッカーにつながるのではないだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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