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「エンパワーメント」としてのインターネット ー「まだ10代なのに?」なんてことはない

小林恭子ジャーナリスト
報道機関の取材に応じるガーディナー君(右端)

ロンドンに住む17歳の少年ニック・ダロイシオ君が作ったアプリが米検索大手ヤフーによって巨額で買収され、世界をあっと言わせたのは、ちょうど1年前の昨年3月だった。

「巨額で買収された」、「あのヤフーに」という要素よりも、最も注目を集めたのは「17歳の少年が作った」という部分ではなかっただろうか?

ダロイシオ君が初めてアプリを作り、アップストアで販売を開始したのはそれよりももっと前の12歳のときだったというから、恐れ入る。私自身、「ずいぶんと早熟な少年だなあ、天才に違いない」と思ったものだ。

昨年秋、雑誌「ワイヤード」がロンドンで開催したイベントでは、米国の高校生ジャック・アンドレイカ少年が、15歳のときにすい臓がんを早期発見する新たな方法を見つけたことを知った。少年の検査方法はこれまでにないほど低価格であるという点でも画期的だったという。

2人の少年は、インターネットを使って、ああでもない、こうでもないと思いながら自分で知識を身につけていた。プログラミングもネットで学んだという。

インターネットはいろいろな人にそれまではできなかったことを可能にする。エンパワーメント(力をつける)という意味でのネットの威力を感じたのが、ロンドン北部サム・ガーディナー君の経験だ。

その一部始終を読売オンラインのコラムに書いたのだけれども、その後、本人に連絡がとれたので、彼自身の言葉を紹介してみたい。

手短に言えば、ガーディナー君(17歳)は、英国の大手新聞に記事を書くサッカー・ジャーナリストのふりをして、ツイッターで情報を発信していた。フォロワーは2万5000人にまで増えた。

サッカー選手の移籍やコーチの解任をもっともらしく発信し、本当のサッカー記者や選手からフォローされるようになった。ある選手の移籍の話を完全な思いつきで発信したところ、エジプト、アイルランド、ポーランドなど、世界各国の報道機関が取り上げたこともあった。

今年1月、偽ジャーナリストであることがばれて、ツイッター側にアカウントを閉鎖されてしまったのだけれど、今度は本名でツイッターを続けている。将来の夢はジャーナリストになることだ。

以下はガーディナー君との一問一答である。

ツイッターは最初からプロのサッカー記者のふりをして、始めたの?

最初は自分自身のアカウントを作った。でも、当時16歳だった自分の意見をまともに聞いてくれる人はいなかった。フォロワーも思うように増えなかった。

そこで、2012年1月に、サッカー誌の架空のジャーナリスト、ドミニク・ジョーンズとしてアカウントをオープンした。いいところまでいったけど、途中でこの雑誌側にばれちゃった。だから、その後で、サム・ローズという別の架空の記者のアカウントを作ったんだよ。

ローズ記者名義でのアカウントでは、2万5000人近くのフォロワーができたんだよね。競技場で取材しているとか、噂話をいろいろ発信したようだけど、情報はどうやって集めたの?

新聞をよく読むよ。ウェブでね。スポーツ・ニュースも良く見ている。サッカーファンや選手、クラブのツイッターも追っている。どのクラブにどんな選手がいて、どんな特徴があるか、詳しく知っているよ。

自分でもサッカーをやるの?

よく試合を見に行くし、自分でもプレイする。11歳のときに、トッテナムホットスパーに入団する寸前まで行ったけれど、親が将来は違う道を選んだほうよいとアドバイスしてくれた。

ツイッターの文章がかなりしっかりしているね。本をたくさん読むの?

よく読むほうだと思うよ。といっても、小説とかフィクションじゃなくて、ノンフィクション。大学に進学して政治経済を勉強する予定なので、政治物、経済関係、金融破たん、開発途上国への援助問題についての本を読んでいる。

将来はジャーナリストになりたいそうだが。

なってみたい。サッカーだけではなくて、政治や経済、社会問題などいろいろなことを書くジャーナリスト志望だ。

プロのサッカー記者のふりをしていることを、ほかには誰が知っていたの?

家族や友人など、周囲の人は知っていた。両親は知っていたけど、別に大したことではないと思っていた。どういう意味を持つのか知らなかったんじゃないかな。

偽のアカウントだということが判明し、記者のアカウントが閉鎖になったよね。この件が英国でニュースになったとき、どう思ったの?周囲の反応は?

少しは罪悪感を感じたけど、それほどでもなかったかな。

母は報道されたことを前向きに受け取ったようだ。父は最初、息子が悪いことをしたと思っていたけれど、僕がなぜそうしたのかを説明したら、納得してくれたよ。

なぜ、サッカー記者のふりをしてツイッターを続けたのか?

サッカーが大好きだから、できるだけ多くの人に話を聞いてもらいたかった。でもそれ以上に、16歳や17歳でもきちんと意見を持っていることを証明したかった。これはサッカーだけに限らない。常々、いつもそう思っていたんだ。

自分はしっかりと考えて意見を述べているのに、大人はまともには聞いてくれない。「16歳だ」というだけで、心を閉ざしてしまうんだよ。でも、今回の一件を通じて、10代でも多くの人が注目するような、ニュースになるような情報を発信できることが証明できた。もし発信者が16歳と分かっていたら、受け取り手はまともにしてくれなかったと思う。

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テクノロジーの変化で社会の価値観や考え方が変わっている。「10代なのに、xxができたの?」なんて、驚くべき時代ではないのかもしれない。もうすでにツールが、しかも、そのほとんどが無料で提供されているのだから。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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