ドル円が一時145円台に。市場に隙を与えないためにも、日銀は金融政策の柔軟性をまずは取り戻すべき
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11日のニューヨーク外国為替市場では、米長期金利の上昇などを背景に円売りドル買いの動きが強まり、ドル円は一時6月末以来、1か月半ぶりに145円台に上昇してきた(円安ドル高)。ドル円145円台は日本政府・日銀が昨年9月に円買いドル売りの為替介入に踏み切った水準でもあり、日本側から警戒感が今後、強まる可能性がある。
今回のドル円の145円台乗せの前にユーロ円は158円台と、2008年10月以来となる水準に上昇しており(円安ユーロ高)、ドル高が進んでいるというよりも、円安が進んでいる。
10日に発表された7月の米国の消費者物価指数は前年同月比3.2%上昇と市場予想の同3.3%は下回ったものの、6月の3.0%からは伸びが加速していた。10日の米長期金利は4.11%と前日の4.01%から上昇。この日の米30年国債の入札が低調な結果となったことも米債安に影響したが、消費者物価の高止まりも意識されていたとみられる。
11日に発表された7月の米卸売物価指数(PPI)が前年同月比で0.8%上昇と13か月ぶりに伸びが加速したことで、あらためて米国での物価の高止まりが認識された。11日の米長期金利は4.15%に上昇し、これを受けて、ドル円が一時145円台を付けていた面もある。
欧州の長期金利も上昇してきてはいるものの、今回の為替の動きは日銀の金融政策の動向をみながら、円売りの仕掛的な動きともとれる。これはつまり、日銀の動きが見透かされており、それによって円売りが仕掛けやすい状況にあるといえる。
FRBやECBの利上げについては、ひとまずピークアウト感も出てきつつあるが、打ち止め感は出さないようにしている。このため、市場では利下げ予想を出しにくくなっている。
それに加え、日銀は7月28日に金融政策そのものは変更せずに、長期金利コントロールの上限を1.0%に引き上げるという工夫を行ってきた。これは日銀が異次元の緩和策を続けるための時間稼ぎ、円安に対し何もしない日銀との批判をかわすため、そして一応、債券市場の機能を思い計っているという姿勢を示すためといった理由が想定される。
しかし、日本では日銀の想定以上に物価の高止まりが続いており、数値上は日銀の物価目標は1年以上にもわたりクリアされている。それにもかかわらず、完全強化された金融緩和策を修正することすら日銀はためらっている。
日銀の金融政策決定会合の公表文の最後はいまも「必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。」となっている。時代錯誤というか、物価環境からみてどう考えても、この姿勢には違和感しかない。
日銀がYCCの修正で時間稼ぎをするなど日銀の超緩和策の修正は先送りしようとの姿勢が見え隠れし、これを受けて円売りドル買いが仕掛けやすい側面も当然あろう。
どうしてここまで異次元緩和継続に意地を張っているのか。政府側からの要望なのか、それとも日銀が少しでも方向転換して国内の景気が悪化したりすると日銀の政策修正の失敗と指摘されるのが嫌なのか。
ただし、いずれにしてもマーケットは弱いところ、おかしなところを突いてくる。
為替介入については実施の可能性はないとはいえないが、米国側の意向もあるとともに、タイミングを間違えると一時的な効果でしかない。それによって貴重な外貨準備が減少しかねない。
市場は政府・日銀の言うことを聞くべきだとかいった認識も持つべきでない。市場は間違えることもあるが、それはいずれ市場内で修正される。それこそが市場機能でもある。
そういった柔軟な機能をむしろ喪失してしまっているのがいまの日銀の金融政策ではなかろうか。市場に隙を与えないためにも、金融政策の柔軟性をまずは取り戻すべきであろう。