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「金正男」は米韓の情報機関に情報を提供したため暗殺されたのか!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
マレーシアで殺害された金正男氏(写真:ロイター/アフロ)

 韓国SBSTVは昨日(18日)、夜8時のニュースで2017年に2月13日にマレーシアのクアラルンプール空港で暗殺された金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男で、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が「韓国情報機関・国家情報院(国情院)に北朝鮮関連情報を流していた」と伝えていた。金正男氏は米CIAだけでなく、韓国の情報部にも情報を流し、金銭を得ていたことになる。二股を掛けていたとは強かだ。

 金正男氏が殺害される直前、マレーシアの宿泊先で韓国系外国人と接触し、現金を授受していたことは明るみに出ているが、マレーシア警察当局はその韓国系外国人が米CIA要員であるとみていた。また、「金正男暗殺事件」を取材していた「ワシントンポスト」の元北京支局長は「信頼すべき消息筋から『金正男は晩年、CIAの情報員だった』と聞いていた。金正男はCIA要員らとは東南アジアで接触していた」とSBSのインタビューで答えていた。

 ところが、SBSによると、金正男氏は暗殺される5~6年前から国情院に幹部の動向や権力層の情報など北朝鮮の内部情報を流し、その代価として金銭を受領していたようだ。同局の取材班は当時、金正男氏の動静をチェックしていた国情院の元高官や複数の元・現要員から証言を得たうえで放送に踏み切っていた。

 暗殺される5~6年前というと、2011年から2012年の頃を指すが、金正男氏の最大の庇護者である父が死去したのが2011年12月17日、父死後の後見人として支えてくれた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長(兼国防副委員長)が粛清、処刑されたのが2013年12月12日なので、国情院は金正男氏が金銭的にも将来的にも不安を感じ始めた頃にアプローチし、抱き込んだものとみられる。

 国情院は金正男氏の動静を早くから把握し、東南アジアなど第三国で金正男氏と接触していたようだが、金正男氏もまた、自らメールを送り、国情院と直接連絡を取っていたというから驚きだ。弱みを握られ、抱き込まれたというよりも見方を変えれば、自ら売り込んだと言えなくもない。

 「ワシントンポスト」など外電は当時消息筋を引用し、金正男氏がCIAだけでなく、「日中韓の情報筋と接触していた」と報道したことがあったが、実際に当時在職もしくは現職にいた国情院の高官からそのことを確認したのはSBSの報道が初めてである。

 国情院出身のキム・ビョンギ議員(与党「共に民主党」所属)はSBSのインタビューで「国情院はその能力からしてどのような形にせよ金正男や彼の周辺への接近に成功していたとみるべきだ」と語っている。

 金正男氏が北朝鮮によって暗殺された原因については当時様々な憶測が流れていたが、その中には「韓国政府が金正男を韓国に脱北させよとしていた」との説もあった。しかし、SBSの取材に応じたネタ元は「そうした動きはなかった」と証言していた。

 この件については当時「ワシントンポスト」(2017年3月28日付)がスペイン駐在の北朝鮮大使館を襲撃した金正恩体制打倒組織「自由朝鮮」のリーダーでもある在米韓国人のホン・チャン(現在FBIが指名手配中)が再三にわたり、金正男氏に接触し、亡命政府の指導者になるよう要請し、その都度断られていたと報じていた。同紙はホン・チャンやCIAが金正男氏を亡命政府の首班に担ぐことに金正恩政権が危機感を覚え「金正男除去」を決断、実行したと推測していた。

 しかし、国情院の元高官や現職の要員らの話では韓国政府は金正男氏の韓国亡命を検討したことはあったが、韓国に連れて来た場合、南北関係に少なからぬ影響を及ぼす恐れがあることから亡命までは計画していなかったとのことだ。

 また、金正男氏は最初の頃は信頼性の高い情報を多く持っていたが、2013年に叔父が処刑されてからは北朝鮮の最新情報にアクセスできなかったことも韓国政府が韓国への亡命を積極的に働きかけなかった理由の一つとみられている。

 北朝鮮は金正男氏の暗殺を否定しているが、仮に暗殺を企図したならば2017年に入ってからであろう。それと言うのも、北朝鮮は2016年11月に正男氏の旅券の更新を許可していたからである。金正男氏が国情院のエイジェントに転落していたことを早くから知っていたならば、もっと早い段階で処断していたかもしれないからだ。

 金正日総書記は「あの子(正男氏)は悪い人間ではない。ちゃんと面倒をみてあげるように」と妹の金慶喜(処刑された張成沢の妻)に遺言を残していたと言われているが、父亡き後、また最大の後見人の叔父も処刑され、叔母までも失脚してしまい、事実上海外亡命生活を強いられた時点で金正男氏の「命運」は決まってしまったようだ。

 孤立無援の金正男氏を残忍にも殺害したのは北朝鮮だが、殺害を誘導したのは金欠に陥った金正男氏を政治利用しようとした米韓の情報機関であると言っても過言ではない。

(参考資料:最大の謎 「悲運のプリンス」金正男はなぜ殺害されたのか)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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