上野千鶴子氏の東大祝辞は大手コンビニ経営陣こそ読むべき 消費期限切れ廃棄弁当で凌ぐ失踪オーナー妻の涙
2019年3月31日、閉店に追い込まれた、セブン-イレブン東日本橋1丁目店。
オーナーの妻、斎藤政代さんが、4月15日、東京都内で記者会見を開いた。
本部のドミナント戦略(特定の地域に集中して出店すること)により、売上が激減。2014年9月には夜勤に入っていた長男が自殺。2019年2月、本部から突如閉店を告げられたオーナーは、自殺を思い立ち、北海道へと失踪した(現在は保護)。
経緯は、2019年3月29日に弁護士ドットコムが報じた記事「コンビニ閉店の裏側…ドミナントで家庭崩壊、オーナー失踪騒動」に詳しい。
消費期限切れの廃棄弁当で一家の食事をしのいできた
4月15日に開催された記者会見で、オーナーの妻である斎藤政代さんは、消費期限切れの廃棄される弁当で一家の食事をしのいできた現状を涙ながらに語った(記者会見スタートして3分後の発言では「賞味期限」とあったが、弁当なので「消費期限」と推察される)。
政代さんは、多い日の食品廃棄金額は30,000円に及んだと語った。そのまま1ヶ月にならせば、月に90万円分もの食品を捨てたことになる。
セブン-イレブンをはじめとした大手コンビニ加盟店を取材すると、消費期限や賞味期限の手前2時間程度に設定された「販売期限」で、弁当やおにぎりなどが商品棚から撤去され、廃棄される現状が見えてくる。
コンビニ関係者は、この食品を指して、通常「廃棄」と呼んでいる。
東大入学式での上野千鶴子氏の祝辞は大手コンビニ本部の経営陣こそ読むべき
2019年4月12日の、東京大学学部入学式で、上野千鶴子氏が語った祝辞があちこちのメディアで取り上げられている。
その場に居た人が「これは祝辞ではない」と評した意見も目にしたが、広く社会に届けられることが前提なので、上野氏は、その場にいる人だけを対象にメッセージを考えた訳ではないだろう。
最も読んで欲しいと思うのは、この部分だ。
上野氏は、強者さえよければ、と、弱者を蹴落とす姿勢にNOを突きつけているように見える。
コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏も、東大祝辞の核心「日本は世界一冷たい国」 上野千鶴子氏の声が届かない理由で、上野氏が「自分が勝ち抜くことだけを目指すな」と訴えた、としている。
これは、日本の中では一応最高峰とされる、いわば”強者”の東大生に伝えた内容だが、実は、今の日本社会で強者の論理を振り回す人へ向けたメッセージではなかったか。
筆者は、これは、大手コンビニ本部の経営陣にこそ読んで欲しいと、記者会見を見て強く感じた。
うわべだけのSDGs
オルタナ編集長の森摂氏は、コラムで何度も「SDGs(エスディージーズ)ウォッシュ」を批判している。
「SDGsウォッシュ」とは「SDGsに真剣に取り組んでいないのに、取り組んでいるフリをすること」「うわべだけのSDGs」という意味だ。
企業として、スーツにSDGsのバッジを付けたり、取材でパフォーマンスをしたりしていても、本当にそう思っていなければ、化けの皮が剥がれてしまう。
SDGsの精神とは、
"No one will be left behind" 「誰ひとり取り残さない」
だ。
先進国さえよければいい、ではないし、自分の会社だけよければいい、でもない。
みんなが幸せになることを目指している。
加盟店オーナーが、自殺をほのめかして失踪し、長男が自殺し、妻が泣き崩れ、家族全員が、廃棄される運命の消費期限切れの弁当を食べてしのいでいる。
自分の会社を支えてくれている人が奈落の底に落ちている。その状況を平然と見ていられる経営陣の神経は、SDGsの基本精神にそぐわないどころか、人として、もはや理解不能だ。
新元号「令和」の意味は「権力者の横暴を許せないし、忘れることもできない」
東京大学の品田悦一氏は、新元号「令和」の意味について「権力者の横暴を許せないし、忘れることもできない」と語っている。
人としてどうあるべきか、世界は今どのような姿勢を良しとしているか。
昭和の栄光である「右肩上がり」の数字に執着し、「もっともっと」と強欲さの牙をむく大手コンビニ経営陣は、自らも「廃棄弁当」を食べ、鏡に映る自分自身に経営者として(人として)の資質を問うべきだろう。