ついにベールを脱いだナイキの“スーパー厚底” 「禁止」どころか規則を完璧クリアで東京五輪も席巻か?
「厚底禁止」騒動を吹き飛ばす“次世代版”が発表された!
「ナイキは世界陸連ともいい関係を築いていますし、もちろんルールは尊重しています。私たちにとって重要なのは『アスリートのためのイノベーション』だということで、アスリートに不当な利益を与えることが適切でないのは当然です。必要以上のエネルギーの跳ね返りは意図していません。ナイキはルールを遵守しています」
ナイキ本社のシューズ開発担当者であるブレッド・ホルツ氏(ナイキ ランニング フットウェア ヴァイスプレジデント)は、私の質問にキッパリとそう答えた。
今年1月に突然ふってわいた「厚底禁止」騒動を吹き飛ばすかのように、ナイキはこのほど新型ランニングシューズ「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」を発表した。発売以来、マラソン界を席巻し続けている“ナイキの厚底”シューズの次世代版で、エリウド・キプチョゲ選手が昨年10月に非公式ながら人類初のフルマラソン2時間切りを達成したときに着用したシューズの市販モデルだ。
ソールに2つのエアバッグで「反発性」がさらにアップ
実は、キプチョゲ選手が偉業を達成したときから、あの靴がいつか市場に出てくるのではないかと事情通の間では持ちきりだった。ついに、そのベールを脱いで鮮烈のデビューとなったわけだ。
見た瞬間、これは凄いシューズだとおわかりいただけるだろう。最大の特徴はなんと言っても、ソールにナイキのイノベーションの象徴ともいえるエアバッグ(ナイキ ズームエア ポッズ)が搭載されていることだ。むき出しになったエアバッグが前足部に2つ横に並べて配置され、見るからに“速そう”というより“強そう”なイメージを醸している。
さらに、“ナイキの厚底”シリーズに共通して使われているフォーム素材(発泡体)ズームX フォームが増量され、かかと部分の厚みが現行の「ナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」よりかなり厚くなっていて、見た目の迫力も増している。
増量されたフォーム素材とエアバッグの組み合わせによって、“ナイキの厚底”が追求してきた、脚を保護する「クッション性」と推進力を生む「反発性」(エネルギーリターン)の両立がよりパワーアップされた印象だ。それだけではない。
唯一の弱点だった「耐久性」をカバーした“スーパー厚底”へ!
エアバッグは気泡の集合体であるフォーム素材より耐久性に優れている。ズーム エア ポッズを採用することで、これまで“ナイキの厚底”の唯一の弱点だった耐久性の問題がカバーされた。これまでの“厚底”を超えた“スーパー厚底”と言ってもいいだろう。
そして、この厚みを増したミッドソールの中にはこれまでと同様にフルレングスのカーボンファイバープレートが1枚仕込まれている。アルファフライでは、これまでのモデルと比べて前足部のプレートの広さがやや広くなっている。これは、ソールの厚みが増した分、より安定性を高めるための工夫だという。一方、つま先部とかかと部のソールの厚みの差(ドロップ)は8mmと現行のヴェイパーフライ ネクスト%と変わりはない。
その他の特徴として、アッパーにニット素材が復活したことがある。これは「アトムニット」と呼ばれる新規に開発された素材で、従来のフライニットにあった水を吸って重くなる欠点を改善し、軽量化にも寄与しているという。フライニットファンにとっては嬉しい改良点だ。
ナイキの開発は世界陸連の「新規則」を先取りしていた!
それにしても、あの「厚底禁止」騒動はいったいなんだったのか。世界陸連(ワールドアスレチックス)は1月末にシューズに関する新規則を発表した。4月以降は次の3つのルールが適用されるという。
・複数のプレートを靴底に内蔵してはいけない
・ソールの厚さは40mm以下に制限する
・レースの4か月以上前から一般購入できること
※医学的理由などでカスタマイズされたものは許可される
“スーパー厚底”のアルファフライは、プレート1枚でソールの厚さは39.5mm、ナイキのアメリカ版公式サイトによると2月29日発売(日本発売は未定)というからすべての規則をクリアしている。現行のヴェイパーフライ ネクスト%ももちろんオッケーだ。
前出のホルツ氏によれば、アルファフライに使われているエアバッグはナイキの数あるテクノロジーの中でももっともエネルギーリターンが高いものだという。一連の「厚底禁止」報道では、カーボンプレートによる反発性が“反則”ではないかとの指摘があった。
だが、大山鳴動して結局、世界陸連はそうは判断しなかったのだ。反発性はあくまでもエネルギーリターンであって、ランナーが生むエネルギーをいかにロスなく推進力につなげるかということなのだ。“禁止”ははなから根拠薄弱だったのだ。
(参考記事)厚底シューズ“禁止”のロジックは? 世界陸連による五輪前の不可解な規則変更
さあそうなると、日本のマラソンファンにとっては東京マラソンが俄然面白くなってくる。より性能アップした“スーパー厚底”を履いた設楽悠太選手(Honda)と大迫傑選手(ナイキ)が、オリンピック代表の最後の1枠を巡って一騎討ち! 日本記録再更新の可能性も高まった。これはいまから楽しみだ。そして、キプチョゲ選手も参加する東京オリンピックも、ますます盛り上がりそうなのである。