異例づくめ、7月に出現「幻の池」 秋にも出現するか?
富士山周辺には、昔から大雨が降ると現れる幻の池がいくつもあります。例えば静岡県には「池の平」と呼ばれる池があります。森の中に突然水源が現れるのですが、この周期が不思議なことに七年に一度だというので「遠州七不思議」のひとつとされています。七年に一度というのは比喩ですが、過去40年で5回しか現れていなくて、近年では2011年以来出現していません。
そして今年、富士山の麓に9年ぶりに幻の池が出現しました。富士五湖(山中湖・河口湖・本栖湖・西湖・精進湖)に次ぐ第六の湖、富士六湖とも呼ばれる通称「赤池」です。
富士六「湖」出現
幻の池(赤池)は、精進湖の南東およそ2キロにあり、地図で見ると大きな精進湖のすぐわきにへばりついたように見えます。
1980年以降今回も含め、8回出現していますが、実は1998年の出現の時、私はテレビの取材でヘリコプターと地上と、両方からこの赤池をレポートしたことがあります。当時のメモによると「周りは紅葉で富士山にも雪が積もっている」と書いてあり、湖よりも周囲の景色が印象的だったようです。実際の見た目で言うと、直径40~50メートルくらいの感じで、ちょっと大きな水たまりみたいだと思ったのを覚えています。
ちなみに、ニュースなどでは当時も「富士六湖」として、”湖”と報道された向きもありますが、これは少し違うのではないかと思っています。
もちろん、湖と池に明確な線引きがあるわけではないので、どう伝えても自由なのでしょうが、一般には水深5メートル以上あるかどうかが湖の基準の一つになっています。なぜなら5メートル以上だと、地上の植物が入り込めないからです。大雨などの増水によってできるものは、ほとんど水深が5メートル未満の一時的なもので、赤池もしかりです。名前の通り”池”という表現が妥当でしょう。
それはさておき、この幻の池、どのようにして出現するのでしょうか。
「モッシー」と幻の池をつなぐ湖の形状
話は少し遡ります。昭和生まれの方はご存じでしょうが、今から30年以上前に、本栖湖で巨大な水生生物が目撃されて大騒ぎになったことがあります。名前は本家イギリスのネッシーに因んで「モッシー」と名付けられました。連日、テレビや雑誌などで取り上げられ、1987年にはついにカメラマンがモッシーの撮影に成功したとも伝えられました。その後、モッシーは巨大なウナギだとか鯉だとか、放流されたチョウザメだとか、色んな説が流れましたが真相は現在まで分かっていません。
ただその頃、同じ富士五湖の西湖や精進湖でも巨大な生物の目撃談が語られ、テレビなどでは三つの湖は湖底でつながっており、その水路を通ってモッシーが湖を行き来しているのだという説を唱える人もいました。
巨大生物が往来するほどの水路があるとは思えませんが、この三つの湖が地下水脈でつながっているのは事実です。なぜなら今から1200年くらい前までは本栖湖も精進湖も西湖も「せの湖(うみ)」と呼ばれる大きな湖の一部だったからです。それが延暦19年と貞観6年の富士山噴火で、湖に溶岩が流れ込み、現在の形に分割されたのです。
実は、この水脈でつながっているというのが、幻の池の答えでもあります。富士山周辺の地質は、軽石状の溶岩におおわれているため、雨水の浸透が極めてよく、降水量が多くなると地下水脈を通って、思わぬ場所に池を作るというわけです。
幻の池と降水量
河口湖の平年の年間降水量は1568ミリ。幻の池が出現するときは(7、8、9)三か月間の降水量が1000ミリ前後、年間でみると2000ミリ以上に達するときがほとんどです。大雨が降って池が現れるまでの期間(タイムラグ)は、大体一週間から二週間くらいで、本来は台風などの豪雨の影響を受けて、8月後半から10月末に現れることが多数でした。しかし今年は7月18日に確認されており、出現したこともさることながら、時期が早いことも異例です。それだけ今年は雨量が多いといえるでしょう。
今年は、台風の影響を受けていない(一つも発生していない)にもかかわらず、現在までの総降水量はすでに1000ミリを超えています。
実は1998年に赤池が発生したときも、台風が6月まで一つも発生せず、梅雨明けも関東甲信地方で8月2日頃、北陸や東北地方では梅雨明けの発表ができないという異例の年でした。その後、9月~10月に台風が4個も上陸し赤池の発生となったわけですが、今年も、これからが台風シーズンです。さらに1000ミリを超えるような大雨になれば、秋にもまた出現するかもしれません。もしそうなれば、一年に二回出現ということになり、異例の事となります。
余談ですが、幻の池が「幻」となった理由がもうひとつあります。
2011年の朝日新聞の記事によると、数十年前まで、赤池は普段から存在したと言われていました。しかしながら、精進湖とつながっていると言われる西湖や本栖湖に発電用の放水路ができたために水量が減り、その後、日常的に目にすることが無くなったとのこと。つまり人工的に幻の池となった、とも考えられるのです。
その一方、放水路ができたことで江戸時代から大雨のたびに氾濫に悩まされてきたこれらの湖は、近年増水による被害がほとんど無くなりました。
参考
論文「河口湖の異常増水について」高橋恒夫著
山梨日日新聞1991.10.6付
朝日新聞2011.10.6付