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【西日本豪雨】ツイッターで賞賛 倉敷・大原美術館、ハザードマップで「危機管理」

石戸諭記者 / ノンフィクションライター
大原美術館(ペイレスイメージズ/アフロ)

 活発な梅雨前線の影響による記録的な大雨で、西日本各地に大きな被害が及んでいる。7月8日現在も行方不明者が多数残っており、被害の全容もまだわかっていない。大雨により大きな被害が出た岡山県倉敷市で、危機管理が賞賛された美術館がある。大原美術館だ。

 1930年にはじまった私立美術館はどのように美術品を守ろうとしたのか? 美術館が明かした。

大原美術館は何を考えたのか?

 大原美術館はクラボウやクラレで社長を務めた、名実業家と知られる大原孫三郎が設立した美術館だ。倉敷市美観地区の一角にある。西洋美術を中心にコレクションを集め、エル・グレコ「受胎告知」、モネ「睡蓮」、ロダンの彫刻作品などを展示している。日本屈指の私立美術館と言えるだろう。

 豪雨の影響で、一つのツイートが広がり、大原美術館は賞賛を集めた。《倉敷・大原美術館のスタッフが「当美術館は、高梁川が氾濫して美観地区が●●メートル冠水するシナリオを想定して美術品を保管している」と言ってた。その時は「今の時代、高梁川の氾濫はないでしょ~」と思ったけど、大原美術館のリスク管理は正しいことが今回わかった。》

 これに対し、大原美術館の公式ツイッターも反応し《ありがとうございます。本当の話です。》と返事をした。

 大原美術館の広報担当者に問い合わせた。

「話題になったツイートは事実で、ツイッター上で多くの反応をいただいているのはありがたい限りです。私たちとしては、美術館として当然の対応をしているだけだと思っています」

ハザードマップで最悪を想定

 何を参考に美術品の危機管理を考えたのか?

「倉敷市が出しているハザードマップがあります。私たちはそれに基づいて、例えば美術品の地下収蔵庫に浸水してきたらどうなるのか。本館はどうかといった形で、ハザードマップを基に私たちは『最悪』を想定しました。

倉敷市の地形を見ていると、川沿いから浸水が起こるだけでなく、別のエリアや市街地からも浸水する可能性がある。そのときに美術品をどう守るのか。各館ごとのシナリオを考えたのです。

もちろん高梁川が氾濫するということも想定していますし、地震や他の災害も想定しています。水害の場合、いきなり浸水することはありません。水位を想定して、どこに作品を運び出すのか、どこで土嚢を積むのか、もちろん職員の安全確保も含めた対応を考えています」

 ですが、と広報担当者は言う。

「このような想定は全国の美術館では当然のように行われていることです。私たちが何か特別なことをしているわけではありません。ありがたいのですが、少し騒がれすぎかなとも思っています。

倉敷市でも大きな被害がでていますが、美術館周辺は幸いなことに大丈夫でした。いざ、本当に最悪の事態が起きた時に、地震などの災害が起きた時に考えている対応ができるのか。まだまだ私たちもわかりません」

 大原美術館は週明けにメンテナンスをし、7月10日から通常営業を予定している。

「各館ともに点検を重ねて、危機管理を考え、通常通りに開けたいと思っています」

記者 / ノンフィクションライター

1984年、東京都生まれ。2006年に立命館大学法学部を卒業し、同年に毎日新聞社に入社。岡山支局、大阪社会部。デジタル報道センターを経て、2016年1月にBuzzFeed Japanに移籍。2018年4月に独立し、フリーランスの記者、ノンフィクションライターとして活躍している。2011年3月11日からの歴史を生きる「個人」を記した著書『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)を出版する。デビュー作でありながら読売新聞「2017年の3冊」に選出されるなど各メディアで高い評価を得る。

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