銃の所有に関する権利の主張と規制の想い、アメリカ国民の複雑な心境
規制派・権利保護派はほぼ均衡
アメリカ合衆国では銃の類を一般民間人が所有することが認められている。自衛の権利の道具としてのものだが、同時にその銃で多数の悲劇も起きている。同国民の銃所有の権利と規制に関する想いの変遷と現状を、同国の民間調査会社Pew Reseach Centerが2015年8月に発表した調査結果「Continued Bipartisan Support for Expanded Background Checks on Gun Sales」から確認していく。
アメリカ合衆国では同国の憲法修正第2条(規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない)に基づき、銃の一般民間人による所有が認められている。もちろん各種制限(銃の登録、データベースによる管理、一定条件における購入制限など)が設けられ、さらに国レベルだけでなく、自治体単位での制限も存在する。
銃の保有は国民の自衛のため、しいては国家の安全のためには欠かせない権利であるとする一方、その銃を用いた犯罪行為も後を絶たないのも事実。この銃所有に関して、所有は権利であり保護されるべきだとする意見、リスクを考慮すれば制限を設けるべきだとする(銃所有には否定的)意見、双方を提示し、どちらが回答者自身の考えに近いかを尋ねた結果が次のグラフ。経年では2008年ぐらいまでは大よそ規制派が優勢だったものの、それ以降は規制派の減少、権利保護派増加の動きがあり、ほぼ均衡する状況が続いている。
銃を用いた重大事案が発生するたびに銃所有に係わる議論が沸きあがるものの、昨今ではそれが銃規制への賛同意見を底上げする動きにはつながっていない。一度浸透した習慣は、環境全体にメスを入れない限り、なかなか変えることができない顕著な例ではある。
支持政党と規制派・保護派それぞれの内情を探る
銃の所有規制について、4つの視点、具体的には「精神的に問題がある人物の銃購入制限」「銃取引の際の身元確認」「銃の登録制」「自動小銃などの販売禁止※」に関して、属性別にその賛否を見たのが次のグラフ。なお現在前述3項目は施行中で、最後の「自動小銃~」は規制がかけられていない。
(※1994年に制定された「Violent Crime Control and Law Enforcement Act of 1994」に内包されている「Assault Weapons Ban」で全米における新規製造品による購入・所有が禁止された。ただし10年間の時限立法で、更新されることなく2004年には失効している。現在でも類似の規制を行っている自治体は存在する)。
銃所有に肯定的な人達は規制には否定的。とはいえ自動小銃の所有以外では過半数が現在施行されている規制に同意する意思を示しており、精神的に問題のある人物の銃購入制限にはむしろ制限派よりも高い値を示している。他方、登録制や自動小銃に関する意見では、権利保護派と制限派との間で大きな隔たりがある。とりわけ自動小銃関係は現状では容認されていることから、規制することへの反発は大きい。
興味深いのは支持政党別。
共和党支持者は権利保護者的な、民主党支持者は制限派的な主張を有している。まるで一つ上のグラフをそのままトレースしたかのようだ。各政党が銃に関してこのような施策を直接打ち出しているわけではないが、多分に支持者の意見を反映した施策が呈され、実行に移されることを考えれば、この結果に類した動きを見せることは容易に想像できる。
来年2016年にはアメリカ合衆国で大統領選挙が実施されることから、すでに前哨戦的な動きが多数伝えられている。現在のオバマ大統領は二期目を務めているため、次期大統領選挙には立候補できないことから、新たな大統領が登場することに違いは無い。大統領の所属政党が現在の民主党から共和党に変わることになれば、同国の銃に関する状況・環境も、何らかの変化が生じる可能性は否定できまい。
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