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全米OPテニス:涙の8強入りの大坂なおみ。その強さを支えたのは“経験”に裏打ちされた“テニス知性”

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

4回戦 大坂なおみ 6-3 2-6 6-4 A・サバレンカ

 サバレンカのセカンドサービスがラインを越えた次の瞬間、すぐに涙はあふれ出た……。

 ネット際で握手を交わし、ベンチに座るとタオルに顔を埋めて、しばらくの間肩を震わす。

 全米オープンで大坂なおみが流す涙は、常に見る人たちに、印象的な過去の出来事を想起させます。それは2年前の3回戦、マディソン・キーズ相手に第3セット5-1とリードしながら、追いつかれ敗れた試合でのこと。コート上で涙を拭い戦う18歳の姿は、多くの人達の記憶に深く焼き付いていました。

 

 今日の試合後の会見でも、やはり“2年前の出来事”に関する質問が、勝者の大坂に向けられます。

「あのキーズ戦と比べ、今回はどこが良くなったと思うか?」

 その問いに「自分ではわからないわ、教えてよ?」の逆質問でまずは軽くいなした大坂は、少し考え、答えました。

「今日は、私のキャリアで初めてと言えるくらい、自分の方が経験で勝っていると思えた試合だった。相手は、まだグランドスラムで戦い始めたばかりだから。試合中に『このような局面でどうすべきか、自分は知っている』と思えることが何度かあった。対して彼女はすごく若いから……きっと少し戸惑ったんじゃないかしら?」。

 大坂が振り返った「このような局面」とは、互いにセットを分け合い迎えた、第3セット終盤の攻防。先にサバレンカがブレークするも、続くゲームを大坂は、相手のダブルフォルトに乗じて奪い返します。以降はお互い、「ブレークは敗戦に直結する」(サバレンカ)と感じるなかでの、息苦しいまでの精神戦。「攻撃」と「我慢」が心の天秤の両端で揺れるなか、大坂は試合終盤には「明らかに我慢を重視した。攻めたいと思ったボールもあったが、自分が固くなっているのがわかり、攻めたらミスになると思った」と述懐します。

 

 一方のサバレンカは、自身が「その瞬間のみに集中できていなかった」ことを認めました。

「彼女(大坂)も緊張していたと思うけれど、大切な場面では、彼女は目の前のポイントだけに集中していた」

 そして急成長中の20歳は「おそらくそこは経験の差。こういう時は、変に試合の流れを読んだり、先のことを考えてはいけないということを、私は今後学ばなければいけない」と口にしました。

  

 大坂のコーチのバインが「彼女を誇りに思う」点としてあげたのも、まさにその「経験」にあります。ただコーチを何より喜ばせたのは、大坂が試合終盤で単に守ったのではなく、最後は攻めて相手にプレッシャーを掛けたことにありました。

 「ナオミは最初にマッチポイントを手にした時、慎重にプレーして逃した。そこでデュースの場面では、強烈なリターンを打った」

 その一撃が相手に圧力を掛け、引き出したのが最後のダブルフォルト。

 「ナオミは試合の中でも成長し、テニスの知性を獲得している」。その事実が、コーチを何より喜ばせたようです。

 

 試合後に流した涙のその訳を、大坂は「ハッピーだったから。それに、かつて経験したことのない精神状態にいたから……」と明かしました。

 2年前の涙を糧とし、その上で新境地を乗り越えた大坂は、新たに獲得した経験と知性を武器として、さらなる未踏の地へと足を踏み入れます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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