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最終回を迎えた『仮面ライダーガッチャード』に、ライダーキックで温泉を掘ったというエピソードがあった!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/きっか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などの世界を、空想科学の視点で楽しく考察しています。

『仮面ライダーガッチャード』が、感動的な最終回を迎えた。

この作品には空想科学的にも興味深いところが多くて、最終回でもすごいコトが描かれた。

賢者の石をすべて集めた闇の錬金術師グリオンは、地球全土の黄金化に着手。

配下のドレットルーパーたちに黄金の液体を放つ銃を撃たせ、手当たり次第に建物や人を黄金に変えていったのだ。
やがて、地球すべてを黄金に…!

「錬金術」を題材にした作品ならではの壮大な最終回エピソードであった。

この方法で地球全土を黄金化するのは、なかなか大変である。

たとえば、新宿区の面積は18.22km²。建物の壁面を合わせて表面積が2倍になるとしたら、36.44km²=3644万m²。

その銃は1発で2m²ほどを黄金に変えていたから、1822万発が必要だ。戦闘員が100人で、1秒に1発ずつ撃ったとしても、18万2200秒=2日と2時間かかる。

新宿だけでもこれなのに、地球全土だと、どれほどかかるのか?

グリオンが「美しいケミストリーを見せてやろう」と、空中から多数の巨大なドレットルーパーを出現させると、青い地球がたちまちに黄金になった。
「ついにエルドラドが完成した」と満足そうに笑うまで、わずか30秒!
これはオソロシイ。

地球の表面積は5億1000km²。巨大ドレットルーパーの身長を100mとすれば、その銃1発で6000m²を黄金に変えられるだろう。

ということは、1秒に1発撃って30秒で全地表を黄金に変えるには、巨大ドレットルーパーが28億4000万人ほど必要……という驚異的な大作戦であった。

◆ライダーキックで温泉を!

シリーズ中盤にも、空想科学的に興味深いエピソードがあった。

それは、ガッチャードが「ライダーキックで温泉を掘り当てた」というもの。

第29話「この村は泣いている」で、ガッチャード=一ノ瀬宝太郎と仲間たちは、あるさびれた村に来ていた。

村の山には「お狐さま」の祠があり、お狐さまの石像が祀られていたが、宝太郎たちが祠に行くと、九尾の狐のようなマルガム(怪人)が襲ってくる。

宝太郎は「ただのマルガムと違う感じがする」と思いながらも、ガッチャードに変身して戦うが、相手はモーレツに強くて歯が立たない。

そこで宝太郎が、最強形態プラチナガッチャードにフォームチェンジすると、その怪人キュウビマルガムは、岩壁を背にして立ち、両手を大きく広げる。

宝太郎にはその意図がよくわからなかったが、「蹴れってことか?」と思い、ライダーキックを放った!

それにより、ガッチャードとキュウビマルガムが岩壁のなかにめり込むと、穴から爆炎が噴き出す。

さらに、岩壁からは温泉が噴き出した……!

実は、怪人キュウビマルガムの正体は、お狐さまだった。

土地の下に温泉が眠っていることを知っていたお狐さまは、さびれていく村の未来を変えるために、わざと怪人となって、ガッチャードに自分を蹴らせたのだ。

宝太郎は「仮面ライダーのキックなら、温泉を掘り当てることができる。だから自分が悪役になって……」と、お狐さまの深謀遠慮に感動するのだった……。

◆どんなキックなら温泉を掘れるか?

予想外のハートウォーミングなお話だったが、ここで考えたいのは「ライダーキックと温泉」である。

温泉は、地下水がマグマの熱で温められたもの。地下水もマグマも豊富な日本では、どこまでも掘れば出る可能性が高い。

問題は、掘る深さと費用。

目安は「1km・1億円」といわれるが、もちろんそこまで掘っても出ないこともあり、そうなると諦めるか、掘り続けるか、悩むことになる。

なお、わが国には「温泉法」という法律があり、温泉を掘りたい人は、都道府県知事から「温泉掘削許可」を得なければならない。

湯脈掘削には高い技術が必要で、また掘削で災害が起こる危険もあるからだ。

莫大なおカネや、たくさんの面倒な手続き。

この懊悩に満ちた温泉掘削において、われらの仮面ライダーガッチャードは、キック一発で大量のお湯を噴出させたわけだ。

どんなキックなら一発で温泉が掘れるのだろうか。

ボディを蹴られたキュウビマルガムが、体を「く」の字にして潜り込んでいったとしたら、穴の直径は80cmほどだろう。

地下水が崖の奥100mまで上がってきていたなら、破壊された岩石は140tにもなる。

プラチナガッチャードの体重は97.8kgで、キュウビマルガムの体重を100kgとすると、この怪人の背中が崖にぶつかった速度は、時速1300km以上。

ガッチャードの足が当たってからこの速度に達するまでに、キュウビマルガムの体が1m動いたとすれば、キック力は712tだ!

公式サイトによると、プラチナガッチャードのキック力は81.1tだが、キックで温泉を掘り当てるにはその8.8倍のキック力が必要なのである。

ガッチャードは、公式発表よりもスゴイ能力を持っているのかもしれない。

そして、キュウビマルガムもそれを知っていたからこそ、自分を蹴らせたのではないだろうか。

だって、失敗したらやり直すしかなく、優しいお狐さまでも、それはイヤだよね。

◆全国2位の温泉県が誕生!

こうして生まれた温泉は、湯量が半端ではなかった。

崖の穴から水平に、鉄砲水のように噴き出している!

温泉が噴き出す穴の高さは地上2mほど。お湯がどこまで飛んだかがわかれば、湧き出す量も計算できるが、残念ながらお湯の落下点は、画面からはみ出していてわからない。

仮に5mまで飛んだとすれば(そのくらいは飛びそうな勢いだった)、噴出速度は時速28kmで、1秒間に3.9tのお湯が噴き出したことになる。

温泉から出るお湯の量を表す「毎分湧出量」に直すと、23万4000L/分。

都道府県別ナンバー1の大分県が29万8000L/分で、2位の北海道が19万8000L/分(いずれも2020年)だから、この村のある県が、全国2位に!

この温泉が出たことによって、さびれていたこの村は豊かになるだろう。

このように『仮面ライダーガッチャード』は、スケールの大きいエピソードに彩られたスバラシイ作品であった。楽しい1年間をありがとう!【了】

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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