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台風予報は台風になると予想されている熱帯低気圧から発表 4日に日本の南で発生した熱帯低気圧の場合は

饒村曜気象予報士
接近する巨大台風(提供:イメージマート)

太平洋高気圧の張り出しではない暑さ

 令和6年(2024年)8月4日は、長崎県・島原と群馬県・桐生で39.2度、高知県・江川崎と愛知県・豊田で39.1度を観測し、4地点が39度超えの殺人的な暑さでした。

 また、最高気温が35度以上の真夏日を観測したのが301地点(気温を観測している全国914地点の約33パーセント)と、今年最多でした(図1)。

図1 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(8月5日以降は予想)
図1 全国の猛暑日、真夏日、夏日の観測地点数の推移(8月5日以降は予想)

 最高気温が30度以上の真夏日は736地点(約81パーセント)、最高気温が25度以上の夏日は834地点(約91パーセント)と、こちらは今年最多ではありませんが、厳しい暑さの所がほとんどであったということにはかわりがありません。

 7月29日に栃木県・佐野で観測史上3番目の最高気温となる41.0度を観測したあとも、各地で40度近い気温を観測しています(表1)。

表1 日最高気温の全国順位(1位と2位:同じ値の場合は、新しく観測されたものを上位)
表1 日最高気温の全国順位(1位と2位:同じ値の場合は、新しく観測されたものを上位)

 ただ、この暑さは、多くの年の盛夏の時のように、強い太平洋高気圧に覆われての暑さではありません。

 日本の南海上は広い範囲で気圧が低くなっており、その中にある熱帯低気圧をまわるように南から暖かくて湿った空気が流入しているところに、西日本を中心に高気圧に覆われ、晴れて強い日射が降り注いだことによる暑さです(図2)。

図2 地上天気図(8月4日9時)と予想天気図(8月5日9時の予想)
図2 地上天気図(8月4日9時)と予想天気図(8月5日9時の予想)

 この暑さは、週明けには、ほんの少しだけ和らぐ見込みですが、気になるのは、日本の南海上にある熱帯低気圧の動向です。

 ただ、気象庁が「発達する熱帯低気圧」に関する情報(後述)を発表していませんので、すぐには台風にはならない見込みです。

令和6年(2024年)の台風

 令和6年は、台風の発生が遅く、第1号がフィリピン近海で発生したのは、5月26日でした。

 台風の統計が作られている昭和26年(1951年)以降、台風1号が一番遅く発生したのは、平成10年(1998年)の7月9日で、令和6年(2024年)は、史上7番目の遅さということになります(表2)。

表2 台風の発生が遅い年
表2 台風の発生が遅い年

 台風1号の発生が一番遅かった平成10年(1998年)は、年間で発生した台風の数は16個と平年の26.1個よりかなり少なかったのですが、上陸した台風は4個と平年の2.9個より多くなっています。特に、台風7号と台風8号は、2日連続して近畿地方に上陸し、東海から四国東部にかけて大雨となり、大きな被害が発生しています。

 台風1号の発生が遅かった平成10年(1998年)、平成28年(2016年)、昭和48年(1973年)、昭和58年(1983年)には共通点があります。それは、非常に強いエルニーニョ現象が終息した年ということです。

 そして、今年、令和6年(2024年)も非常に強いエルニーニョ現象が終息した年です。

 そして、5月31日には、南シナ海で台風2号が発生したのですが、その後は、約2か月にわたって台風の発生がありませんでした。

 台風3号が発生したのは7月20日で、フィリピンの東海上でした。翌21日には南シナ海で台風4号が発生しましたが、平年であれば7月までに8個位発生しますので、平年の約半分という、かなり少ない発生数の年であったということができます(表3)。

表3 平年と令和6年(2024年)8月4日までの台風発生数・接近数
表3 平年と令和6年(2024年)8月4日までの台風発生数・接近数

 日本に接近した台風(台風の中心が全国約150か所ある気象官署等から300キロ以内に入った台風)も、沖縄県南大東島の南東海上を通過した台風1号と、沖縄県先島諸島付近を通過した台風3号の、あわせて2個で、こちらも平年の半分でした。

 また、平年であれば7月までに1個位上陸しますが(台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達しますが)、今年は0でした。

「発達する熱帯低気圧」の情報

 気象庁では、24時間以内に台風になると予測した熱帯低気圧を、「発達する熱帯低気圧」とし、台風並みの情報を発表しています。

 この情報が発表されるきっかけとなったのは、平成16年(2004年)の台風11号です(図3)。

図3 平成16年(2004年)の台風11号の経路図
図3 平成16年(2004年)の台風11号の経路図

 平成16年(2004年)の台風11号は、紀伊半島の南海上で8月4日9時に発生した後、13時間後には徳島県東部に上陸しています。

 台風の勢力は強くはなかったのですが、近畿地方南部や三重県を中心に500ミリ以上の雨が降っています。

 7月31日16時過ぎに台風10号が高知県西部に上陸し、その後も南海上から雨雲が流入して奈良県や徳島県で1000mmを超え、高知県では700mmを超える大雨が降って大きな被害が発生した直後の大雨です。このため台風11号の雨が被害を拡大させる要因になりました。

 台風が発生したときからではなく、熱帯低気圧が台風に発達しそうだと分かった時から情報が発表されていたら、被害が軽減できたのではないかということで始まったのが、「発達する熱帯低気圧」の情報です。

 当時、気象庁は報道機関に対して、下記のように、半日以上前に情報を提供できたと説明しています。

【実際に発表された情報】
平成16年 台風11号に関する情報
平成16年8月4日13時40分 気象庁予報部発表
(見出し)台風11号が発生しました。現在、潮岬の南南東にあって北北西に進んでいます。
(本文) 略
【想定される情報】
発達する熱帯低気圧に関する情報
平成16年8月3日22時30分 気象庁予報部発表
(見出し)熱帯低気圧が24時間以内に台風に発達し西日本に接近する見込みです。
(本文) 略

 「発達する熱帯低気圧」の情報提供が始まったのは、平成17年(2005年)6月1日からで、実際に発表となったのは、この年の7月13日9時に発生した台風5号が熱帯低気圧であったときからです。

 ただ、この時は、24時間先までの予報でした。

 「発達する熱帯低気圧」の情報では、予報誤差が非常に大きかったことから、台風の進路予報が5日先まで発表するようになっても、長いこと1日先まででした。

 「発達する熱帯低気圧」の情報でも、5日先まで予報するようになったのは、新しく導入したスーパーコンピュータシステムによる計算能力の向上や数値予報技術の開発が進んだ令和2年(2020年)9月9日からです。

 これにより、日本近海で台風になって日本に接近する場合でも、台風接近時の防災行動計画(タイムライン)に沿った防災関係機関等の対応を、これまでより早い段階から効果的に支援することが可能となりました。

 初の5日先までの「発達する熱帯低気圧」は、令和2年(2020年)9月15日15時に南シナ海で発生した熱帯低気圧(のちの台風11号)に関する情報です(図4)。

図4 令和2年(2020年)9月15日15時の熱帯低気圧の進路予報(初の5日先までの熱帯低気圧予報)
図4 令和2年(2020年)9月15日15時の熱帯低気圧の進路予報(初の5日先までの熱帯低気圧予報)

 ただ、その一つ前の台風である台風10号のときの「発達する熱帯低気圧」の情報は、8月31日21時の小笠原近海の熱帯低気圧が24時間以内に台風になるというもので、日本に影響するかどうかは、分からないものでした(図5)。

図5 令和2年の台風10号の進路予報(8月31日21時の予報と9月1日21時の予報)
図5 令和2年の台風10号の進路予報(8月31日21時の予報と9月1日21時の予報)

 しかし、その24時間後、9月1日21時に熱帯低気圧が発達して台風10号が発生したときの予報は、5日先にかなり強い勢力で西日本に襲来するというものでした。

 もし、台風10号のときから熱帯低気圧の予報が5日先までであったなら、熱帯低気圧発生の段階で、西日本に影響するとの情報が発表されたと思います。

 そして、気象庁が特別警報を発表する可能性のあったことが示されていたと思われます。

 現在、日本の南海上には、熱帯低気圧に対応する雲の渦だけでなく、いくつかの雲の塊が存在しています(図6)。

図6 日本の南海上の衛星画像(8月4日15時)
図6 日本の南海上の衛星画像(8月4日15時)

 現在、「発達する熱帯低気圧」の情報が発表されていないということは、台風が発生しないということを意味していません。

 あくまでも、24時間以内には台風が発生しないという意味です。

 現在ある熱帯低気圧、今後発生するかもしれない熱帯低気圧が台風に発達する可能性もあります。ただ、この場合は、余裕をもって情報が発表されますので、その時以降は、注意・警戒してください。

図1、表1の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図2、表3の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図4、図5、図6の出典:ウェザーマップ提供。

表2の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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