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「学校安全」のモデル校で巨大組体操の普及活動 ▽組体操リスク(9)

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
学校安全のモデル校で、7段ピラミッド、5段タワーの普及活動が進められている

■巨大組体操の普及活動

春の運動会シーズンも終わり、全国各地で梅雨入りとなっている。

春先からこの運動会シーズンまで、インターネット、テレビ、新聞で巨大組体操の問題が、たびたび報じられた。これを受けて一部の学校では自粛の動きもあったものの、終わってみれば、今回の運動会でもじつに多くの学校にて、巨大組体操は花形種目として披露される結果となった。

こうして各地の学校で巨大組体操が取り入れられ、いまもブームが維持されている背景の一つに、現職の教諭が中心となった組織的な組体操普及活動がある【注1】。

その組織の一つが、秋の運動会に向けて、再び巨大組体操を普及させようとしている。しかもそれが、「学校安全」のモデル校的存在として知られる小学校を拠点にして、展開されているのだ。学校安全に詳しい教育関係者であれば、誰もが知っているほどの、有名な学校である。

■7段ピラミッドと5段タワー

研修会チラシに掲載された7段ピラミッド
研修会チラシに掲載された7段ピラミッド

「保健体育実践研究会」(仮名)というその組織は、体育科教諭の授業力向上を目的として、2000年代後半に設立された。さまざまな活動のなかでも定評があるのが「組体操実践研修会」(仮名)であり、毎年7月に開催されている。

2010年度の研修会では160名の教員が参加したが、翌2011年度には400名、2012年度には600名と、参加者数は拡大の一途をたどってきた(その後の参加者数は不明)。その参加者募集のチラシが、今年もウェブ上に公開された【注2】。

チラシの上部には、巨大な7段ピラミッドの写真が掲げられ、下部には、5段タワー(現在のところ小学校の最高記録)の写真もある。7段ピラミッドでは、土台の最大負荷は2.4人分(小学6年男子で92kg)になり、5段タワーともに高さは4mに達する(詳しくは「組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段」)。

■事務局は「学校安全」のモデル校・・・

研修会チラシに掲載された5段タワー
研修会チラシに掲載された5段タワー

ここで最大の問題は、この「保健体育実践研究会」の事務局が、「学校安全」のモデル校として知られる小学校に置かれているということである。7月の「組体操実践研修会」も、同校で開催される。

同校では十数年前に、校内において複数名の児童が殺傷されるという痛ましい事件があった。その事件をきっかけにして、同校は日本でもっとも子どもの安全に力を入れる学校へと生まれ変わった。WHO(世界保健機関)からは、「国際安全学校」の認証も受けている。

その日本を代表する安全な(はずの)学校において、巨大組体操が今年もまた、普及されようとしているのである。

■見直しのチャンスは3回あった

問題はそれだけではない。

「保健体育実践研究会」の事務局担当者は、巨大組体操の危険性について、早い段階で認識している。私が組体操リスクの記事をヤフーニュースに投稿して、大きな反響を呼んだのは昨年5月の運動会シーズンのことであった(「【緊急提言】組体操は,やめたほうがよい。子どものためにも,そして先生のためにも」)。じつは記事を投稿したその翌日に、私はある地方テレビ局の生放送にて、その事務局担当者【注3】と意見を交換している。

そして同年秋の運動会シーズンにおいても、さらには今年の5月の運動会シーズンにおいても、巨大組体操の問題はNHKをはじめ多くのメディアで報じられた。これまでのところ計3回にわたって、巨大組体操の問題が大きく報じられたことになる。

これほどまでに巨大組体操の問題が顕在化しつつあるなかで、それでもなお7段ピラミッドと5段タワーの写真を掲載した資料で、組体操の研修会を企画し、参加者を募っているのである。

「保健体育実践研究会」が自浄作用を発揮するチャンスは、3回あった。同会は、組体操の危険性が世間で話題になっていることを十分に承知の上で、7段ピラミッドと5段タワーの普及に努めているのである。

■「教育」という呪縛

※写真はイメージ
※写真はイメージ

なぜ、「学校安全」を誇る小学校を拠点にして、巨大組体操が普及され、いまもなおその方針が崩れないのか。

組体操を支持する教員の主張は、見事に一致している。すなわち、「子どもが感動や一体感、達成感を得ることができ、そこに教育的意義がある」というものである。

巨大組体操の最大の問題は、これほどまでに大きなリスクを抱えながらも、それが「教育的意義」によって見えなくなっていることである。だからこそ、どれほどリスクが高くても、堂々と誇らしげに巨大組体操の写真が掲載されるのである。

じつはつい先日、児童殺傷事件の十数年目の同日を迎えて、同校の校長は、「学校安全にかかわる着実な取り組みとその発信を継続していく」と誓いを発した。しかしおそらく、その「安全」の視野に、組体操は含まれていない。それくらいに、「教育」の呪縛は強い。

「学校安全」のモデル校的存在として名高い小学校であるだけに、その実践が全国の学校に与える影響は大きい。だからこそ、いまからでも遅くはない。秋の運動会に向けて、巨大組体操の見直しに踏み込んでほしい。

【注1】

各組織の活動経過ならびに組体操のさまざまな問題点については、拙著『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』(光文社新書)を参照されたい。

【注2】

すでにウェブサイト上に公開されているものであるが、本記事では匿名性を保持するために、画像にぼかしをかけた。

【注3】

現在は、新しい担当者が業務を引き継いでいる。

[写真の出典]

「写真素材 足成」

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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