待遇改善進む地域おこし協力隊 企業とも連携する余市町の取り組み
都市地域から人口減少や高齢化等の進行が著しい地域に移住し、地域のPRや産業振興に従事する地域おこし協力隊制度。2009年度に31自治体89人から始まった取り組みで、23年度では1164自治体7200人の協力隊員が全国で活動しています。
任期は1年から3年で、任期満了後はその地域への移住を狙い、定住人口や関係人口を増やそうとする取り組みです。当初は若者を中心に対象とした制度でしたが、19年度まで給与にあたる報償費年200万円、活動費年200万円(いずれも税込)という決して高くない報酬水準だったこと。そして自治体側にとって、国の助成金で都会の若者を働かせられる労働人材という見方もあり、単純な人手作業をただやらされるだけというケースが少なくありませんでした。
任期を満了せずに辞めてしまう途中退任率は全体で約半数にものぼり、任期満了後も地域に定着するどころか、失望し離れていってしまうケースも目立ちます。
一方で、20年度に制度が変更され、現在では報償費が年額320万円まで増額されたこと。委託契約ではなく、雇用契約を結ぶ場合は勤務時間や年間休日の規定が明確になるなど、少しずつですがその待遇は改善されつつあります。
専門人材を取り込む自治体も
協力隊制度にも、少しずつ変化が訪れようとしています。北海道の余市町では、20年度から地域おこし協力隊を募集しています。「個人委嘱型」という、協力隊員個人と活動に関する委嘱契約を結んでいるのが特徴です。住民票こそ余市町内に移す必要があるものの、コロナ禍では業務内容に応じて札幌や東京など都市部との2拠点での活動事例もあるほか、副業を認めているので、活動の柔軟性が高いと好評の声があるそうです。
協力隊を管轄する、余市町政策推進課の山本康介さんが狙いをこう話します。
「余市町で募集を始めたのが20年度で、全国の自治体の中でも後発になるのですが、その分他の自治体が抱える問題を踏まえた上で制度設計できたと思います。せっかく来ていただいても、地域の活性化や定住・定着につなげられなければ意味がありませんので、待遇面では十分に配慮しています。まだ始めて4年目ですが、当時世界最年少で日本人初となるワインの『マスター・ソムリエ』資格を持つ隊員や、元新聞記者や道庁職員の方など、高い専門性を持つ人材を採用してきています」
採用する人材の年代も幅広いのが特徴です。5月末まで募集している「余市観光協会支援員(事業推進マネージャー)」では、採用年齢を35歳以上55歳未満にしており、「マーケティングや物販店舗、ECサイトのマネジメントに携わった経験が10年以上ある」ことを要件の一つにしています。
3年間の活動期間終了後は、余市観光協会の物販統括責任者および事務局長候補としての採用を予定しており、地域の幹部候補になりうる人材を広く募集しようとしている姿勢がうかがえます。報償も月額37万5000円で、協力隊の待遇としては高水準なのが特徴です。今でも制度変更前の最低額、月16万6000円で募集している自治体もあることを考えると、その差は倍以上あります。
ただ、高度専門性を求めるがゆえに、課題もあるといいます。山本さんがこう話します。
「特例を含め、国が定める上限以上の待遇で募集していますが、なかなか応募が集まりませんね。競合は高い賃金や住居の提供など手厚い支援を打ち出していますから。既にいる協力隊員には、町の特産品であるワインや果物、新鮮な魚介類といった豊富な食資源のPRなど多方面でとても貴重な戦力になっています」
新技術を活用した民間企業との連携
24年4月から余市町では、これまでの協力隊制度にない新たな取り組みも始めました。地域おこし協力隊と「DAO」という分散型インターネットコミュニティをかけ合わせて地域を活性化するサービス「地域おこし協力隊DAO」です。町と協力隊員の間に、「あるやうむ」という札幌市に本社を置く企業が入っているのが特徴です。あるやうむと余市町では、これまでNFTを返礼品に据える「ふるさと納税NFT」という取り組みで協働してきた実績があります。
間に企業が入ることで、民間ならではの知見や技術を活用でき、協力隊員の活動の幅が広がります。また、同時に手厚い支援体制を敷くことにより事業の円滑な実施が期待されます。自治体と企業が一緒になって協力隊制度を活用し、地方創生に役立てる取り組みはまだ多くないといえます。
「地域おこし協力隊DAO」の主な役割は、インターネットを通じてその地域の知名度を上げたり、その地域を応援するファンによるコミュニティを形成したりすることにあります。協力隊員はコミュニティマネージャーとして地域に就任し、例えば余市町なら余市町の分散型インターネットコミュニティを形成し、新たな関係人口創出と、地域課題の解決に取り組みます。
「地域おこし協力隊DAO」を町で担当する、政策推進課の糠塚英司さんはこう期待を寄せます。
「一般の協力隊員のほうではどちらかとプロフェッショナルな人材を採用していますが、『地域おこし協力隊DAO』では、管理するプロフェッショナルのもとに、集合知的なアイデアが世界中から集まることに期待しています。今余市町では『ガストロノミーツーリズム』という、食をテーマにした観光を軸にしたプロモーションに取り組んでいるのですが、どのようにアピールしていけばよいか、そういったアイデアなどをDAOで募りたいですね」
Web3による地方創生
こうしたDAOやNFTといった、新しい技術や概念のことは「Web3」とも呼ばれています。余市町では今後Web3による地方創生にも期待するところが大きいといいます。今回余市町地域おこし協力隊で「地域おこし協力隊DAO」の全国第1号として就任したhiroさんが抱負をこう話します。
「これまで世界最大級のDAO『Nouns DAO』の日本のコアメンバーとしてコミュニティの運営に携わり、その実績を買われた形で就任しました。まだDAOの知名度自体がないので、地域住民と交流し説明し、信頼を得ながらリアルとウェブ双方で仲間を少しずつ増やしていきたいと思います。余市町の例が先例となり、地方創生のコミュニティ作りのモデルケースとしても全国に広がっていけばよいなと思います」
また、余市町長を務める齊藤啓輔さんもこう期待を述べます。
「Web3の先進的な技術を活用し、地域住民と地域おこし協力隊員が一体となって地域課題の解決に取り組むこの画期的な試みに大変期待しております。町としても、地域の魅力を国内外に発信し、交流人口の拡大や地域ブランド力の向上につなげていきたいと考えています。あるやうむ様の手厚いサポートのもと、地域の持続的な発展に資する取り組みとなることを心から願っています」
地域おこし協力隊でその地域にはいないプロフェッショナルな人材を登用し、さらにその人材を通じてウェブを中心にゼネラルにアイデアを募る。この2つの組み合わせこそ、地域の課題解決のカギになるかもしれません。ウェブを通じることで、国内だけでなくインバウンドで日本のその地域を好きになった、海外のファンのアイデアも取れ入れられるだけに、その可能性に期待したいものがあります。
(写真は全て筆者撮影)