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進行期の皮膚がん治療に光線力学療法(PDT)の術前療法が有望 - 最新の研究動向

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【術前PDTの利点 - 腫瘍サイズの縮小と切除範囲の最小化】

皮膚がんの治療において、手術は最も一般的な選択肢の一つですが、顔面や頭皮、性器周辺など、美容的・機能的に重要な部位に発生した場合、広範囲の切除が必要となり、術後のQOL(生活の質)低下が懸念されます。そこで注目されているのが、光線力学療法(PDT)を手術前に行う術前療法です。

PDTは、光感受性物質を腫瘍に選択的に取り込ませ、特定の波長の光を照射することで活性酸素を発生させ、がん細胞を死滅させる治療法です。5-アミノレブリン酸(ALA)を用いたALA-PDTは、日本でも保険適用となっており、日光角化症や表在型の基底細胞がん、ボーエン病などに効果が認められています。

術前PDTを行うことで、腫瘍サイズを縮小させ、切除範囲を最小限に抑えることができます。Jeremicらは、顔面の基底細胞がんや有棘細胞がんに対し、術前PDTを行うことで腫瘍面積が縮小し、手術による整容面や機能面での負担を軽減できたと報告しています。

【術前PDTの適応 - 高齢者や合併症を有する患者にも】

高齢や合併症などにより手術が困難な場合や、患者が手術を希望しない場合にも、術前PDTは有用な選択肢となります。Wangらは、91歳の局所進行基底細胞がん患者に対し、ALA-PDTとホルミウムヤグレーザーを組み合わせた治療を行い、腫瘍サイズを15mmから4mmまで縮小させ、皮膚移植を回避できたと報告しています。

乳房外Paget病は、高齢者の外陰部や肛門周囲に好発する稀な皮膚がんですが、術前PDTの良い適応とされています。Wangらは、乳房外Paget病患者33例を対象とした前向き研究で、術前PDTを4回行うことで病変部面積が58%縮小し、手術創の大きさが手術単独群の半分になったと報告しています。

【術前PDTの今後の展望 - 治療効果のモニタリングと多職種連携】

術前PDTの効果を最大限に引き出すためには、治療前後の評価が重要です。皮膚がんの診断には、ダーモスコピーや反射型共焦点顕微鏡、高周波超音波など、非侵襲的な診断技術が活用されています。PDTによる腫瘍の縮小率を定量的に評価することで、手術のタイミングを適切に判断することができます。

また、術前PDTを含む皮膚がんの治療には、皮膚科医、形成外科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医など、多職種によるチーム医療が欠かせません。それぞれの専門的知見を結集し、患者に最適な治療方針を立てることが求められます。

日本において、皮膚がんに対する術前PDTを行う施設はほとんどありません。術前PDTは、皮膚がんの治療選択肢を広げる有望なアプローチですが、症例数がまだ限られており、今後さらなるエビデンスの蓄積が期待されます。

参考文献:

1. Wang HW, et al. A prospective pilot study to evaluate combined topical photodynamic therapy and surgery for extramammary paget's disease. Lasers Surg Med. 2013;45(5):296-301.

2. Jeremic G, et al. Using photodynamic therapy as a neoadjuvant treatment in the surgical excision of nonmelanotic skin cancers: prospective study. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2011;40 Suppl 1:S82-9.

3. Liao C, et al. Bimodal photodynamic therapy for treatment of a 91-year-old patient with locally advanced cutaneous basal cell carcinoma and postoperative scar management. Photodiagnosis Photodyn Ther. 2021;36:102553.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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