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WBCでの少年捕球事件が提起する問題は「ネット叩き」や「観戦モラル」以上に「ビデオ判定の権威」

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

少年による「ホームランボール?」捕球事件が示している本当の問題は、「ネット叩き」や「ファンのモラル」以上に「ビデオ判定」の在り方である。

ぼくが現地で韓国対オランダ戦に夢中になっている間に、同じWBCで東京ドームではちょっとした「事件」が起きていたようだ。例の少年による捕球問題である。これが随分話題になっている。確かにこれは、少年へのネット上のバッシングを見るにつけ「今時ネット問題」とも取れるし、ファンの観戦モラルに関する問題提起とも取れる。この2つの視点からは、広尾晃さんのコラムが全てを語っていると思う。その通りだ。匿名性をいいことに叩きまくる連中にはうんざりするし、一生に一度かもしれないホームランボールキャッチのチャンスが目の前にあって「グラブを出すな」と少年に言うのはチト酷というものだろう。

ここで、ひとつ見落とされている点を指摘しておきたい。この打球が、少年が捕球しなければスタンドに入ったのかどうか、ぼくには分からない。しかし、この一件にはビデオ判定が適用されたのだ。ならば、そこまで「少年が捕らなかったらどうだったのか?」というのは議論の対象にな得ないし、ビデオ判定の結果二塁打だったのなら、この事態が起きなくても本塁打にはならなかったと考えるべきで、そうなるとここまでの大騒ぎになったのだろうか、という疑問は残る。言い換えれば、別に大したことではないのだ。

ビデオを見るのも人間である以上、「ビデオ確認ミス」も決して無いとは言えないのだけれど、ビデオ判定を用いる大原則は、「それが最終判断であり、その結果に異論を挟むことは許されない」はずだ。ところが、現実はそうではない。昨年、散々物議を醸したコリジョンルールに関してもそうだったが、 ビデオ判定結果にみんなあれこれ言い過ぎる。昨日の一件はこれほどまでに大騒ぎになったのは、ビデオ判定結果への権威性が守られていない現実を象徴している。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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