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米ワシントンDC街づくりのモデルとなった都市カールスルーエ 今年は建都300周年で大賑わい

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
カールスルーエ城正面・街は城を中心として扇形に広がっている 

「カールスルーエ」・・・日本では聞きなれない街かもしれない。米ワシントンDC街づくりのモデルとなったカールスルーエは、今年建都300周年を迎え、9月27日まで誕生際の記念イベントで街中が沸き上がっている。(画像はすべて筆者撮影)

カール・ヴィルヘルム伯が憩いを求めて造った街

城内州立博物館では建都300年記念特別展示は10月18日まで開催
城内州立博物館では建都300年記念特別展示は10月18日まで開催

ドイツ南部のカールスルーエはバーデン・ヴュルテンベルク州に属し、州都シュトゥッツトガルトに続く第二の規模を誇る街。18世紀にバーデン辺境伯カール・ヴィルヘルム(以下カール伯)によって造られた。

かってカール伯は、(現在のカールスルーエ近郊の街)ドゥラッハに居城を構えていたが、この居城から西へ5キロほどの手付かずの自然の中に狩猟で疲れた身体を癒す居城が欲しいと、城の建築を思い立った。

城の塔から眺める街並み。ここの庭園は散策スポットとして人気
城の塔から眺める街並み。ここの庭園は散策スポットとして人気

そしてカール伯は、この新しい城を中心に近代的な都市を建築しようと試みた。これがカールスルーエの始まりだ。ちなみに街の名前カールスルーエは、カールの休息する(ルーエ)場所という意で、その名の通り、カール伯が憩いを求めて造った街である。

32本の道路網は太陽の光線を示す
32本の道路網は太陽の光線を示す

カールスルーエは、宮殿から放射線状に32本の道路と並木道が敷かれた国内でも珍しい扇形の都市構造を持つバロック都市である。

ドイツの中でも比較的歴史が浅い都市で、華麗なカールスルーエ城があるにもかからわず旧市街がないことも注目すべき点だ。

さらに、カールスルーエは、「米ワシントンDC街づくりのモデルとなった街」を強力にアピールしている。

1788年米国大統領トーマス・ジェファーソンが訪独した際に、カールスルーエの都市構造にひどく感銘を受けたそう。ジェファーソンはカールスルーエをスケッチにして米国へ持ち帰り、1791年に建築家ピエール・シャルル・ランファン(フランス生まれの米国建築家)にそのスケッチを渡した。そして扇形のカールスルーエをモデルとしてワシントンDCの都市開発計画を進めたという。

高い科学技術を持つ街としても知られており、最新テクノロジーを研究するカールスルーエ・テクノロジー研究所(KIT)では世界中からやってきた2万人もの学生が学んでいる。

そのカールスルーエが今年建都300周年を迎え、大きな注目を集めている。記念イベントと併行して、この街でお勧めのスポットを紹介したい。

芸術とニューメディアが融合するカルチャーファブリック「アート&メディア・アテクノロジーセンターZKM 」

ZKM外観。ZKMでは300周年記念イベントは300日間開催する
ZKM外観。ZKMでは300周年記念イベントは300日間開催する

ZKMを語らずにカールスルーエを紹介することは出来ないほど、同センターは稀有な存在である。それは、ひとつの建物の中に美術館と研究所が統合されたユニークなカルチャーセンターだからだ。

ZKMは、1997年にかって軍需工場だった建物を改修して開館し、メディア美術館、映像メディア研究所、音楽・音響 研究所、メディア・教育・経済研究所などを有する。

カールスルーエ造形大学と協力して、ZKMでは単なる美術館としてではなく、新メディアアートの情報技術や理論の実験室として研究開発も行われており、ZKMはメディアとインターネットなしの生活が考えられなくなった現代の情報世界を理解する、貴重な鍵と芸術の軌跡を集結した画期的な試みの場である。

なかでもメディア美術館は、コンピューターを駆使した様々なメディアアートをインタラクティブに体感できる近未来型の美術館として注目を集めている。ZKMは、国内初のフルインタラクティブ・ミュージアムであり、インタラクティブ・メディアアートという新たなジャンルの作品に重点を置いた。年間訪問客25万人のうちその半数が35歳以下というから、ZKMは若者に人気のカルチャーファブリックと言っていいだろう。

ちなみに、1984年8月ドイツ国内ではじめてインターネットメールを(MIT・マサシューセッツ工科大学より)受信したのは、カールスルーエ大学の技術部だった。 

カールスルーエ300周年記念ZKMイベントの皮切りは、なんと2人の日本人アーティストの作品が展示され話題となっている。テーマは現実のクラウドと電子クラウドというユニークなもの。

アートとして鑑賞する雲は思いのほか幻想的だった
アートとして鑑賞する雲は思いのほか幻想的だった

現実のクラウド、つまり雲をアート作品として展示した「クラウドスケープ」は、トランスゾーラー+近藤哲夫氏による傑作。(9月15日まで)

一方の電子クラウドは、池田亮司氏のアート(8月9日まで)。池田氏は、フランスパリで活動のミュージシャン、現代美術作家で、超音波や周波数などに焦点を当てた作品を得意とする。

マルクト広場にピラミッドがある!

1800年頃バーデンの建築士で古典主義都市計画者のフリードリッヒ・ヴァインブレナーが設計したカールスルーヘのマルクト広場は、市中心街の中央広場 で、細かいところまで考えた建築のアンサンブルといわれる。

それとは対照的なのは、マルクト広場にあるまるでエジプトのピラミッドのようなとがって角のあるモニュメントの存在だ。ここは、カール・ヴィルヘルム伯の永眠の場所として1825年に建設されたもの。(現在マルクト広場は工事中のため、ピラミッドを見ることはできない)

ドイツの司法首都

カールスルーエは連邦憲法裁判所(画像)と連邦裁判所の所在地としても知られる 
カールスルーエは連邦憲法裁判所(画像)と連邦裁判所の所在地としても知られる 

カールスルーエは、日本の最高裁判所に該当するドイツの連邦裁判所と連邦憲法裁判所の所在地重要な政府機関を有する街としても知られる。

話しが逸れてしまうが、ドイツは、日本のように政府機関が首都に集中しておらず、いわゆる地方分権が見事に機能している国だ。

例えば、首都ベルリンには連邦首相府や財務省、外務省などがある。そしてカールスルーエに最高裁判所、ウィースバーデンに連邦統計局、旧西ドイツの首都だったボンには今も教育省や自然保護庁などが置かれている。このように政府機関を国内に分散することで中小都市の活性化をスムーズに図っている。

国内ベスト40のビアホールに選ばれた「フォーゲル」

フォーゲルのビアガーテンにて。ビールは猛暑日の御馳走
フォーゲルのビアガーテンにて。ビールは猛暑日の御馳走

市内にいくつかビール醸造所があるが、イチ押しはこの7月末に、マネージャーマガジンによるビアホールベスト40に選定されたビール醸造所フォーゲルだ。

1985年からピルスナーを中心に醸造。店内を通って中庭に行くとそこは都会のオアシス。大きなビアガーデンは人気のミーティングポイントだ。

市庁舎前の工事現場で出会ったのは根っこの生えた家を吊り上げた作品
市庁舎前の工事現場で出会ったのは根っこの生えた家を吊り上げた作品

カールスルーエへは、フランクフルトからICE(特急)でおよそ1時間。上記以外にも州立美術館、 造幣局(国内5つある造幣局のひとつがここにある)など、観光スポットには事欠かない。

300周年イベント中は街を歩いているとユニークな作品にめぐり合える
300周年イベント中は街を歩いているとユニークな作品にめぐり合える

カールスルーエSCでプレーしたオリバー・カーンの出身地であることや日本の山田大記選手も活躍する場として、カールスルーエは親しみの持てる街に違いないだろう。

(カールスルーエ城州立博物館とZKMでは特別許可をいただき撮影)

取材協力

カールスルーエ観光局

ZKM

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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