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バンス副大統領候補の「子無し猫好き女」発言、女性セレブからさらなる攻撃

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
チェルシー・ハンドラーもソーシャルメディアでバンスの発言を批判(写真:REX/アフロ)

 共和党の副大統領候補J・D・バンスの過去の発言に対する女性たちの怒りが止まらない。

 バンスは、2021年、保守派のフォックスニュースの番組に出演した際、「この国は、民主党の、子供のいない猫好き女性によって仕切られています。彼女らは自分が行った選択のせいで惨めに感じているので、この国のほかの人たちも惨めにしたいのです」と発言。子供がいない人たちは国の将来がどうなるかについての直接の危機感が少ないとする彼はまた、「その人たちに国を任せるなんて意味をなしません」とも述べた。

 ジェニファー・アニストンは、すぐに反応。バンスは不妊治療へのアクセスを守る法案に反対票を入れていることから、「バンスさん、あなたの娘さんが将来いつか自分の子供を生める、幸運な人であることを願います。不妊治療に頼らなくても良いことを。あなたはそれすら彼女から取り上げようとしているのですから」と、ソーシャルメディアを通じて彼にメッセージを送った。子供を持たないアニストンは、最近になって、過去に不妊治療もしたがかなわなかったのだと告白をしている。それだけに、この投稿はパーソナルな言葉としてより重みを持ち、メディアに大きく取り上げられた。

 ウーピー・ゴールドバーグも、「よく言うわよね。自分だって赤ちゃんを生んだこともないくせに。赤ちゃんを生んだのはあなたの妻でしょ」とバンスを攻撃。さらに、チェルシー・ハンドラーが、X(旧ツイッター)に動画メッセージを投稿して、そこに加わった。ハンドラーは、トーク番組の司会で知られ、映画「Black & White/ブラック&ホワイト」、「イースター・ラビットのキャンディ工場」、「そんなガキなら捨てちゃえば?(日本劇場未公開)」などにも出演している人気コメディエンヌ。アニストンと個人的に親しく、子供はいない。

ハンドラーとアニストンは長年の友人
ハンドラーとアニストンは長年の友人写真:ロイター/アフロ

 動画のはじめで、ハンドラーは、バンスが「この国は事実上、子供のいない猫好き女性たちによって仕切られています」、「カマラ・ハリスをはじめとする民主党の未来を担う人たちには、子供がいません」と語るビデオを見せた。その上で、「よく聞いてね。この国はまだ、男たちが、男たちのためになるように注意深く作ったシステムに従って、男たちによって仕切られているの」とぴしゃり。続いて、アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンには血のつながった子供がおらず、妻の連れ子ふたりを育てたことを挙げ、「誰かさんと同じでしょう?」と指摘した。ハリスは、出産歴こそないものの、夫ダグ・エムホフが元妻との間に授かったふたりの子供とすばらしい絆を築いている。エムホフの元妻も、「10年以上、この子たちは3人で一緒に育ててきた」と、母親としてのハリスを誉めているほどだ。

「カマラは母親じゃないから大統領にするべきでないと言いたいようだけど、アメリカの大統領に母親だった人はこれまで誰もいないのよ」ともいうハンドラーは、「もしも彼女が3人の違った男との間に5人の子供を作って、ポルノ界のスターと不倫をして、起訴されて有罪となったなら、共和党の人たちはもっと好意的だったのかしらね」と、彼らの支持するトランプを出してきて皮肉ることも忘れない。そして最後は、「子供のいない猫好き、犬好き女の私たちは大成功(crushing)している。この11月はあなたを打ち砕いて(crushing)やるわよ」と宣言して締めくくった。

バンスは「私の娘はまだ2歳なのに不快」と反撃

 一方、バンスは、出演したメーガン・ケリーのトーク番組「The Megyn Kelly Show」の中で、そんな声に反撃している。

「ハリウッドのセレブリティは『あなたの娘さんが不妊に悩んだらどうするのか』と言います。私の娘はまだ2歳なのに、そんなことを言ってくるなんて、不快きわまりないです」とアニストンのコメントに言及。その上で、「娘を助けるためにできることは何でもやります。私は家族を信じるので。赤ちゃんはすばらしいです」と述べた。

 不妊治療へのアクセスを守ろうとする法案に反対票を入れたことと矛盾するが、それについては、「民主党のアプローチは、宗教の自由を奪うものです。民主党はカトリックの病院でも不妊治療をやるべきだと思っています。私はクリスチャンの病院が望む経営をできる権利を守りたいのです」と説明。多様な価値観を受け入れる民主党の近年の政策は伝統的な家族の価値観を軽視するものだと主張する彼は、民主党を「アンチ家族、アンチ子供」と呼び、自分への批判とすり替えた。

 だが、怒っている女性たちを説得するのは容易ではないだろう。すでに「子無し猫好き女」をテーマにしたハリス支持のTシャツはオンラインで複数売り出されているし、ソーシャルメディアには「2024年の投票所の様子」というキャプションとともに猫を連れた女性たちが投票所の前で並ぶ写真が投稿されたりしている。自然な妊娠で子供を生み育てる女性を良しとし、子供を持たない人を下に見ていることが見え見えの発言は、女性たちの結束を強めたのだ。

 この後気になるのは、テイラー・スウィフトが何かいうのかどうか。前回の選挙ではバイデンを支持した彼女だが、今回はまだはっきり支持を表明していない。絶大な人気ぶりで経済効果まで与えてきたこの「子無し猫好き女」は、どんなタイミングで、どんな発言をするのだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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