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祝・通算2000安打!! ヒットメーカー・大島洋平を落合博満監督がドラフト指名した意外な理由

横尾弘一野球ジャーナリスト
若い頃の大島洋平は「野球のことだけを考えられる生活は本当に幸せですね」と語った。

 中日のヒットメーカー・大島洋平が、8月26日の横浜DeNA戦で通算2000安打に到達した。史上55人目、大学から社会人を経てプロ入りした選手としては、古田敦也、宮本慎也(ともに元・東京ヤクルト)、和田一浩(現・中日コーチ)に次ぐ4人目。また、プロ14年目での達成は、アレックス・ラミレス(元・横浜DeNA)の13年に次ぎ、榎本喜八(元・ロッテなど)、坂本勇人(巨人)らと並ぶ速さだ。

 1年目から104試合に出場して81安打をマークし、日本シリーズでは優秀選手に選ばれる活躍を見せた大島は、その後も着実にヒットを積み重ね、持ち前のバットコントロールで最多安打も2回。駒大時代から外野守備にも生かされるスピードは高く評価されていたが、そんな大島をドラフト5位で指名した落合博満監督には、大島を獲得したい意外な理由があった。

 中日は2008年に、攻守の要だった福留孝介がシカゴ・カブスと契約し、フリー・エージェントだった和田一浩と契約。この年限りでサードの中村紀洋が退団し、内外野をこなせる森野将彦を再びサードに専念させる見込みだったため、即戦力候補として野本 圭をドラフト1位で獲得する。

 野本は、開幕2試合目の横浜(現・横浜DeNA)戦に初めてスタメン出場すると、ライアン・グリンから本塁打を放つ鮮烈なスタート。試合後にも打ち込みに取り組むなど練習姿勢でも一目置かれていたが、落合の目には持ち味を出し切れていないと映る部分もあった。また、落合はレフト・和田、ライト・野本で固めたい外野陣に、俊足のセンターを探しており、社会人で活躍する大島の情報が入る。

 その頃の大島は、センターで極端に浅い守備位置を取るのが話題となっていた。

「後ろの打球は、フェンスに当たらない限りキャッチできる自信がある。だから、下がって捕れるところまで前を守るようにしています」

たとえ大成できなくても先輩の尻に火を点けてくれれば

 落合は、高い守備力の大島に注目したが、ドラフト指名を決意したのは次の3つの理由だった。ひとつは、大島が野本と同じ駒大出身だったことだ。

「うちには新井良太(現・広島コーチ)もいるけど、彼も駒沢で野本の1年上でしょう。大島が入れば、新井や野本はうかうかしてはいられなくなる。表現はよくないが、たとえ大島が大成できなくても、新井や野本の尻に火を点けてくれればいいんだ」

 確かに、プロに限らず野球界では、将来は戦力面で柱になれると見込んだ選手を獲得する際、あえて同じポジションの同期も獲り、ライバル関係を作って大成させようと目論むケースがある。同じように有力選手の後輩を獲り、下から突き上げさせる方法もよく見られる。

 2つ目は、大島がこの年の都市対抗予選で守備の際に右手首を骨折していたことだ。

「大島ほどの選手でも、ケガをしているとなれば、指名を回避する球団もあるはず。高い順位で争わなくても、獲得できる可能性があるから」

 そして、3つ目は前年の日本選手権で首位打者賞を獲得していたことだ。大島は一回戦からマルチ安打で打線を牽引したが、日本生命は準決勝でトヨタ自動車に敗れた。大島は16打数9安打の打率.563で大会を終え、この時点では17打数11安打の打率.647をマークしていたトヨタ自動車の荒波 翔(元・横浜DeNA)が首位打者賞の最有力候補だった。

 ところが、荒波は決勝で5打数無安打に終わり、打率は.500に急降下。大島が大逆転で首位打者賞となる。落合は、こうした球運にも強い関心を持つ。

「大島は、社会人の歴史にも名を残したわけか。そういう巡り合わせに恵まれるタイプは、プロでも名前を残す可能性がある。新井や野本の尻に火を点けてくれればと言ったけど、そういう存在が一番の結果を残すことは、プロ野球の歴史でも珍しいことじゃないからね」

 そうして、現在の実績から考えれば信じられないドラフト5位で中日へ入団した大島は、打線の牽引役を担ったまま37歳で2000安打のラインをクリアした。これを単なる通過点にして、どこまでヒットを積み上げられるか、また最年長の首位打者を目指して走り続けてもらいたい。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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