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女子バレー世界選手権、トップ4が見せた個の力と組織力

田中夕子スポーツライター、フリーライター

イタリア国歌の大合唱が響き渡った後、スタンド席の誘導をする会場ボランティアの女子学生に笑顔で尋ねられた。

「どうして日本は負けてしまったの?」

イタリア、ミラノで開催されている女子バレー世界選手権のファイナルラウンド。ブラジル、アメリカ、イタリア、中国が激突したトップ4の争いに日本の姿はなく、その直前に行われたトップ6による3次ラウンドにも進出することができず、日本は7位で世界選手権を終えた。

新戦術構築に足りなかった時間

どうして負けてしまったの?

世界選手権と同時期に開催されていたアジア大会の取材で、世界選手権の日本戦を直接見ることができずに終わった筆者には、今、その答えは出せない。ボランティアスタッフの素朴な疑問だけでなく、自らの中にも燻る“どうして”を解き明かすのは、これからだ。

ワールドグランプリのファイナルを戦い終えた直後であり、短期間でピークを二度つくる難しさがあったのも確かではあるが、同じ条件であるブラジルは準決勝まで勝ち進んでいるのも事実だ。

ワールドグランプリのファイナルから本格的に試行した新戦術も、「勝つためにはこの戦術しかない」と覚悟を決めていた選手もいれば、「本当にこれでいいのか?」と戸惑いを感じていた選手もいて、「もっとこうしたほうがいいのに」と異なる考えを持っていた選手もいる。本来のウィングスパイカー、ミドルブロッカーというポジションの概念を取り払い、1人の選手が複数の役割をこなし、時には複雑な動きも伴わなければならない新戦術を確実な武器とするためには、時間も足りなかったはずだ。

咄嗟の事態にも対応したイタリア

とはいえ、準決勝で中国に敗れはしたが、0-2と追い込まれたイタリアはそれまで、デルコーレと共にサーブレシーブを担っていたコスタグランデに代え、本来はオポジットに入る、攻撃型ウィングスパイカーのデュエフを投入。サーブレシーブはデルコーレとリベロのデジェンナーロの2枚で行う新しい布陣で臨み、第3セットを奪取。結果的に敗れはしたが、第4セットも28-30とどちらが勝者になってもおかしくない展開まで立て直した。

不慣れなポジション、システムに戸惑う選手もいたはずだ。

だが、あるはずの弱点すら上回るほどの対応力。個のテクニック、スキルもさることながら、チームとしての戦術遂行力の高さ。それはまさに、世界の頂上決戦にふさわしいものだった。

経験は、次の機会に

準決勝からはまるで違うチームとなり、頂点を目指して世界の強豪がぶつかり合う。目がいくつあっても足りないほどの見どころで溢れ、1つ1つのプレーに一喜一憂する満員の観衆の反応も含め、鳥肌が立つ場面がいくつもある。

だからこそ、やはり思わずにはいられない。

この場に立つ、日本チームが見たかった、と。

快適な環境で取材できる日本開催の大会とは異なり、アウェイの世界選手権は、取材する日本メディアにとっても、実にアウェイの戦いでもある。

何しろ、日本はいないのだからと、済ませていたはずの取材申請も「通っていない」と拒否され、取材IDを受け取るのに2時間近くかかり、会場に入れば入ったで「プレス席はもうないから、プレスルームのテレビで見ろ」と言われる始末。あれもダメ、これもダメ、と言われるたび、この経験も何かに生かすしかない。少なくとも、こうした形で書くことだってできる、と筆者ですら思う。

帰国後のインタビューで、主将の木村沙織が「この結果を1人1人が受けとめ、反省して次に進みたい」と答えていた。

次の機会は、来年のワールドカップ。上位2位までのチームにオリンピックの出場権が与えられる、バレーボールの国際大会の中ではオリンピックの次に重要視されている大会でもある。

この経験が、次にどう生きるのか。

きっと長い時間をかけて検証された成果が、きっとその時、生かされるはずだ。

世界一という決して容易いものではない目標に挑もうとしている日本チームが、挑もうとしている“世界”とはどんなものなのか。

それを確かめられるのが、イタリア・ミラノでの世界選手権のファイナルでもある。

アメリカと中国。世界一を決める決戦は、間もなくだ。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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