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バレー教室、避難所訪問。被災地で女子バレー日本代表に芽生えた“覚悟”

田中夕子スポーツライター、フリーライター
©PFU Life Agency LIMITED 2024

忘れられない「ありがとう」

 アンダーハンドパスやオーバーハンドパス。わずか30分の短い時間でできることは限られていたが、一緒にボールを追いかける笑顔に、子どもたちも日本代表選手も変わりない。

 4月14日に石川県かほく市総合体育館「とり野菜みそBLUECATS ARENA(ブルーキャッツ・アリーナ)」のオープニングイベントとして、女子バレー日本代表と、PFUブルーキャッツの選手による、かほく市以北の小学生を対象としたバレー教室が行われた。

 1本ずつ膝を曲げてレシーブを返しながら「オッケー!」「ナイス、ナイス」と子どもたちと笑顔でボールをつないだ、日本代表主将の古賀紗理那も誰より楽しそうに参加していた1人だ。

「子どもたちが楽しそうで、私も嬉しくなりました。もっともっと頑張ろう、という気持ちにもなりました」

 古賀の故郷、熊本も2016年の地震で大きな被害を受けた。当時、すでに古賀は上京してバレーボール選手として日本代表、NECで活動していたため、被害が大きかった場所を訪れる機会があったわけではない。だが今年1月の能登半島地震で被災し、今なお避難所生活を送る人たちがいる。かつて地元が見舞われた大きな被害の記憶と重ね、不自由な生活を余儀なくされる人々に思いを寄せた。

「大変な思いをされている方々を前に、どんな言葉をかけていいかわからなかったんです。むしろ私が何かできることはあるのか、とも思っていました。でも実際に避難所に伺った時、年配のご婦人の方が駆け寄ってきて『来てくれて本当にありがとう。嬉しかった。応援しているから頑張って』と手を握ってくれた。すごく涙が出そうだったんですけど、その言葉を聞いて、今まで以上に頑張らなきゃ、と思ったし、頑張らないといけない、と強い気持ちがわいてきました」

バレー教室に参加した小学生の笑顔が「嬉しかった」と話す古賀紗理那(筆者撮影)
バレー教室に参加した小学生の笑顔が「嬉しかった」と話す古賀紗理那(筆者撮影)

“当たり前”の尊さに気づかされた避難所訪問

 バレー教室や避難所の訪問で、これまでとは異なる感情や決意が芽生えた、というのは古賀だけに限らない。2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県出身の渡邊彩も同様だ。「普通に生活することも当たり前ではない方々もいる中、自分たちはパリ五輪を目指してスポーツができる環境にいる。当たり前を当たり前と思わず、感謝を忘れてはいけない」と述べ、バレー教室では「短い時間でもとにかく楽しんでほしかった」と大きな声を張り上げて、笑顔でボールを追いかけた。

 石川県と同様に大きな被害を受けた隣県の富山で高校時代を過ごした松井珠己は、今季ブラジルリーグでプレーした。元旦の地震についての報道も「少し遅れて知った」と振り返るが、石川県内に住む高校時代の友人もいて、安否確認がとれるまで不安な時間を過ごした。被災地、被災者のために頑張る、と言葉にはしていても、帰国して、実際に石川を訪れ被災地を目にし、被災者と言葉を交わす中で、これまでとは異なる感情を抱いたと話す。

「お風呂にも入れず、シャワーがやっと、という方もいたり、これまでテレビで見て来た状況よりもずっと大変だということを知りました。自分が今、どれだけ幸せな場所にいるのか、ということも実感しました」

元旦は長野に住む祖母宅で震度5の地震に見舞われた、と明かすセッターの関菜々巳。一緒に乗り越えていきたい、と語り、バレー教室でも身振り手振りを交えて子どもたちと触れ合った(筆者撮影)
元旦は長野に住む祖母宅で震度5の地震に見舞われた、と明かすセッターの関菜々巳。一緒に乗り越えていきたい、と語り、バレー教室でも身振り手振りを交えて子どもたちと触れ合った(筆者撮影)

盛り上げた「青白戦」と「紅白戦」

 バレー教室に続いて、かほく市を本拠地とするPFUの選手による「青白戦」。最後は女子バレー日本代表選手による紅白戦が行われた。

 合間には眞鍋政義監督からうながされた石川真佑が「いいのかな、と思ったけれどイタリア帰りなので」とはにかみながら「Ciao!」と挨拶するなど、終始和やかに、笑顔が溢れる中でさまざまなイベントが行われたが、紅白戦は間もなく始まるネーションズリーグに向けたポジション争い、個々のアピールの場でもある。紅白にチーム分けする中でセッターやリベロを入れ替えて戦う中、長いラリーが続き、公式戦さながらの競り合った展開が随所に見られ、岩崎こよみの伸びやかなトスを古賀や、練習生として参加したPFUのバルデス・メリーサが高い打点から打ち切ると拍手と歓声が起こった。

子どもたちの目線に合わせ、しゃがみこんでアドバイスをする岩崎こよみ。紅白戦でも伸びのあるトスでアタッカー陣を活かした(筆者撮影)
子どもたちの目線に合わせ、しゃがみこんでアドバイスをする岩崎こよみ。紅白戦でも伸びのあるトスでアタッカー陣を活かした(筆者撮影)

それぞれの思いをこれからに

 両チームを代表して最後に挨拶したPFUの高相みな実主将は、能登半島地震が起きた直後から被災した方々に、心を寄せて戦って来た。被害の大きかった輪島市の体育館で試合をしたこともあり、テレビやニュースを通して想像しかできなかった立場とは異なり、生活もままならない状況にある人たちの姿を思うたび、胸を痛めた。だからこそ、簡単に「被災地に勇気を、とは言えない」と言葉を選びながら、シーズンを戦い抜いた。

 古賀と同じ歳で、学生時代から切磋琢磨してきた同期でもある高相主将は「改めて間近で見る日本代表から多くの刺激を受けた」と述べ、共にオープニングイベントを盛り上げてくれたことへの感謝と共に、間もなく始まるパリ五輪へ向けたエールと、自チームに向けた決意を語った。

「(PFUの)若い選手たちも、日本代表選手のプレーやさまざまなイベントへの取り組み方を見て『すごい』と感心していました。でも『すごい』のままで終わらせてしまうのはもったいない。間近で見た姿勢を自分たちに落とし込んで私たちは黒鷲旗、そして来季のSVリーグに向けていきたいし、日本代表にはパリ五輪で頑張ってほしいです」

 紅白戦には約3000人、会場外のマルシェも含めると7000人が来場した。

 初めてバレーボールを見た、という人たちも多くいた。楽しい時間が子どもたちた、周りで生きる人たちのこれからにつながる灯りになるように。そしてたくさんの笑顔や、「ありがとう」と涙ながらに手を握ってくれた人たちの優しさを力に新たな「覚悟」が芽生えた女子バレー日本代表がこれからどんな戦いを見せるのか。日本中で、多くの人たちが楽しみにしている。

スポーツライター、フリーライター

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。共著に「海と、がれきと、ボールと、絆」(講談社)、「青春サプリ」(ポプラ社)。「SAORI」(日本文化出版)、「夢を泳ぐ」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した「当たり前の積み重ねが本物になる」(カンゼン)などで構成を担当。

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