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Netflix「地面師たち」の反響から考える、日本の俳優陣が世界に見つかる日

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Netflix YouTubeチャンネル)

Netflixで配信が開始されたドラマ「地面師たち」が大きな反響を巻き起こしています。

このドラマは、綾野剛さんと豊川悦司さんのダブル主演に代表される豪華な俳優陣が、「エルピス」などの話題作を手掛けた大根仁監督のもとで新庄耕氏の小説の実写化に挑戦するということで、公開前から話題になっている作品でした。

実際に公開されると、その重厚なストーリーや、豊川悦司さんの狂気に満ちた演技がクチコミでも話題になり、Netflixの日本のドラマランキングでは5日連続で1位を獲得。

さらには30カ国でドラマランキングのトップ10入りを果たし、Netflixが発表している週間ランキングで、ドラマの非英語部門のグローバル8位にランクインを果たしたようです。

参考:綾野剛×豊川悦司、Netflixシリーズ『地面師たち』週間グローバル8位にランクイン

もちろん、Netflixにおいて日本発のドラマが世界のランク入りするというのは、もはや珍しい現象ではありません。

ただ、今回の「地面師たち」のヒットは、これまでの日本発のドラマのヒットとは少し違う側面を持っていますのでご紹介したいと思います。

世界でヒットするマンガ原作のNetflixドラマ

これまでNetflixで世界のトップランク入りした日本発のドラマ作品の多くは、人気の漫画を原作として、VFXを多用したアクションものが中心でした。

グローバルチームで製作されNetflixの年間1位を獲得した「ONE PIECE」を筆頭に、シーズン2が世界3位に入る快挙を成し遂げた「今際の国のアリス」、そして世界2位に入った実写版「幽☆遊☆白書」など、これまで実写化は難しいだろうと言われていた人気漫画が、Netflixによって見事に人気ドラマとして公開される展開が続いています。

こうした作品では、なんといってもNetflixならではの製作体制によって再現された、VFX技術などを駆使したアクションシーンなどが話題の中心になります。

心理戦が中心の実写ドラマでのヒット

一方で今回の「地面師たち」は、土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る不動産詐欺を行う「地面師」の犯罪を描いているため、そのドラマの中心はなんといっても俳優陣の演技によって描かれる心理戦です。

もちろん、Netflixならではの血なまぐさい暴力シーンもありますし、VFXが活用されているシーンもありますが、実際にドラマを見て頂ければ、このドラマがいかに豪華俳優陣の素晴らしい演技によって深みのある作品になっているかは分かって頂けるはずです。

人気マンガ原作ではない日本発のNetflixのドラマといえば、すでに「全裸監督」や「First Love 初恋」、そして「サンクチュアリ −聖域−」に「忍びの家」など、着実に実績が積み上がってきていますが、今回の「地面師たち」はNetflix日本オールスターとも言われる豪華俳優陣が揃っているのが注目のドラマでもあります。

参考:やばすぎるNetflix「地面師たち」後味の悪い魅力 綾野剛と豊川悦司演じる「100億円不動産詐欺」

特に、試写会の場では、今回の「地面師たち」の撮影において、そんな豪華俳優陣が大根監督のこだわりのもと、何十テイクも繰り返しテイクを重ねて良いシーンを追求されたことがあかされています。

そうした大根監督のこだわりや俳優陣の努力の結果、「地面師たち」は俳優陣の最高の演技が引き出された作品になっているとも言えますし、Netflixの日本の実写ドラマの実績を、更に次に繋げるシンボルになる作品になっていると感じるわけです。

世界で注目される日本ドラマ

実際に、日本人が演じる日本語のドラマが世界でヒットするケースは着実に増えてきています。

特に象徴的なのは、日本ではDisney+で放映されている「SHOGUN」が、アメリカのTV番組におけるアカデミー賞と言われるエミー賞に25もの最多ノミネートをされている点でしょう。

参考:真田広之主演「SHOGUN 将軍」のエミー賞最多ノミネートが、日本のテレビに与える衝撃

今回のエミー賞では、真田広之さんや浅野忠信さんなど、日本人俳優の受賞の可能性が高いと予想されており、受賞すれば史上初の日本人俳優の受賞となります。

更に注目されるのは、その演技が英語ではなく日本語での演技だったという点です。

つまり、Netflixの日本発ドラマも、米国で大ヒットする展開になれば、同様に綾野剛さんや豊川悦司さんなどの日本を中心に活動する俳優陣もエミー賞にノミネートされる未来も十分にありえるわけです。

海外でのヒットは海外からのオファーにつながる

また、Netflixで日本発ドラマがヒットして世界から注目されれば、日本の俳優陣に海外の作品からのオファーが届く可能性も拡がります。

Netflixにおける最近の最大の成功事例と言えるのは、2021年に大ヒットしたドラマ「イカゲーム」の主演を務めていたイ・ジョンジェさんが、「スター・ウォーズ:アコライト」でジェダイ・マスターの役に抜擢されたことでしょう。

イ・ジョンジェさんは、決して英語が得意だったわけではないことを公開しており、今後日本の俳優陣にも同様のオファーがありえることを示唆していると言えます。

参考:『イカゲーム』からジェダイの騎士へ...ハリウッド進出の韓国大スターを悩ませたのは「舌の痛み」?

海外のプロデューサーや監督の目にとまるような演技ができる俳優であれば、イ・ジョンジェさんと同様に、ある日ハリウッドの大作の重要な役での出演のオファーが来る可能性が拡がっている時代と言えるわけです。

日本の俳優陣が世界に見つかる日

これまで、日本のドラマは、日本人が日本語で演技をしている限り、世界に拡がることはないというのが一つの常識として信じられていた考えでした。

しかし、Netflixなどの配信サービスの普及の影響もあり、日本語のドラマを字幕で視聴する海外の視聴者は間違いなく増えており、日本人による日本語の演技が正しく世界に評価される時代に突入していると言えます。

今回の「地面師たち」のような、俳優陣の演技で魅せる作品が、ちゃんと海外から評価されているというのは、日本の俳優陣が世界に見つかる日が着実にすぐそこに近づいている証明であると言えますし、実際には日本の俳優陣は「既に世界に見つかっている」と言うべきなのかもしれません。

まだ「地面師たち」を見ていないという方は、是非日本を代表する素晴らしい俳優陣の演技を堪能して頂ければと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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