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三菱電機で労災が5件発覚し、うち3件が裁量労働制だったことが問いかけるもの

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:アフロ)

三菱電機で労災が5件も

 朝日新聞の渾身のスクープといっていいでしょう。

 三菱電機の男性社員5人が長時間労働が原因で精神障害や脳疾患を発症して2014~17年に労災が認定され、そのうち2人が過労自殺していたということが報道されました。

三菱電機、裁量労働制の3人労災 過労自殺も

残業5倍…過労自殺の再発防げず 三菱電機

 言うまでもありませんが、労災が認定されるには証拠が必要です。

 その証拠に基づいて、行政が定めている基準を満たすと労災に認定されます。逆に言うと、労災が認められないが、証拠さえ持っていれば労災基準を満たしていたはず、というケースもたくさんあります。

 つまり、労災が認定されたとしても、それは氷山の一角であることも稀ではないのです。

 三菱電機も、もしかしたら、上記で認定された労災も氷山の一角の可能性もあります。

裁量労働制のもとでの労災

 5人に認定された労災のうち、3人は裁量労働制だったといいます。

 裁量労働制は、長時間労働の温床になるということを、いろんな人が(私も含め)、いろんなところで、たくさん言ってきたことです。

 そうした懸念が三菱電機という企業で、現実のものとなっていたわけです。

 現在、三菱電機は、この裁量労働制を廃止しているということです。

 三菱電機は、裁量労働制を全廃したことについて、労災が相次いで認定されたことは直接の原因ではないと述べているようです。

 この点、朝日新聞は、三菱電機は裁量労働制の全廃前に厚労省から立ち入り調査を受けていたと報じています。

三菱電機、社名公表恐れ裁量制全廃か 厚労省の調査受け

働き方改革の目玉だった裁量労働制

 

 さて、この裁量労働制、政府の働き方改革の目玉でした。

 目玉といっても、廃止を掲げていたわけではありません。

 逆です。

 政府は、この裁量労働制を拡大しようとしていました

裁量労働制、三菱電機は全廃 政権は拡大方針

 ただ、裁量労働制の拡大を基礎づけるデータがあまりにデタラメであったため、いったん取り下げざるを得なくなり、先の国会の法案から裁量労働制は落とされました。

裁量労働制の拡大はまだ狙われている

 ところが、政府はまだ裁量労働制の拡大をあきらめていません。

 最近になって、あらためて調査をやり直すと言っており、むしろやる気を出しています。

政府、裁量労働制拡大へ仕切り直し 実態の調べ方を議論

業務量に裁量はない

 裁量労働制は、労働者に「裁量がある」というので、つい「いい制度なのでは?」と思うかもしれません。

 しかし、以前に私の記事で指摘したところですが、労働者の全てに裁量があるわけではありません。

 労働は、

  1. 使用者から「これをやれ」と命令がなされる
  2. 労働者はそれを遂行する
  3. 労働者は仕事の結果を使用者へ渡す

の過程を経て行われます。

 裁量労働制は、このうち、2.だけに裁量がある制度ということです。

 法律でも、

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある

出典:労働基準法38条の3

業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある

出典:労働基準法38条の4

とされています。

 あくまでも、業務を遂行するのに裁量が必要な場合だけ、ということです。

 つまり、与えられる業務量の調節については一切裁量は保障されていないというのが裁量労働制の本質なのです。

 その結果として、裁量労働制は悪用しようと思えばいくらでもできる怖い制度になっています。

 中でも裁量がないほどの業務量を与えて、「あとはやっておけ」というのが一番悪質です。

 こうすれば、使用者は一定の給料で目いっぱい労働者を働かせることが可能になります(なので、定額働かせ放題の制度と呼ばれます)。

 一方、仕事を命じられた労働者は、与えられた仕事を完成させるために一生懸命働くわけですが、その遂行のやり方にいくら裁量があったとしても、与えられる仕事量が多ければ、長時間労働は避けられません

 

 ゆえに、裁量労働制は長時間労働の温床と言われるのです。

裁量労働制は規制を強めるべき

 この三菱電機の件を機会に、もう一度、本当にこの働き方の拡大が必要なのか、政府は拡大ありきではなく、一から考えてもらいたいと思います。

 むしろ、本来は、こうした悪用が容易な制度については、規制を強化する方向で考えるべきです。

 三菱電機で多くの労災が発覚した件は、改めて、裁量労働制の在り方について根源的な問いかけをしてきているものと思われます。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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