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代理人制度が独占禁止法違反!?プロ野球契約交渉のリアルを上原浩治が明かす

上原浩治元メジャーリーガー
上原のメジャー移籍時の入団会見(写真:ロイター/アフロ)

 日本のプロ野球の代理人制度がこのオフ、大きく変わりそうだ。

 選手が球団と契約交渉を行う際の代理人は2000年に代理人制度が導入されて以降、弁護士に限定されてきた。

 ここに球界からではなく、公正取引委員会(公取委)から“メス”が入った。報道によれば、公取委は、プロ野球12球団などで構成する「日本プロフェッショナル野球組織」(NPB)が制度導入時に球団と選手会に求めた弁護士に限定したルールが、独占禁止法に違反する恐れがあるとし、NPBに警告と再発防止を求めた。毎日新聞によれば、NPBは「スポーツ競技の分野における社会情勢の変化なども踏まえ、公取委の調査を機に本件申し合わせを撤廃する。引き続き関係法令を遵守しつつ適正・適切に選手との契約交渉に臨む」とのコメントを出し、NHKによると、今オフ以降の契約交渉から見直す方向になったという。

 私自身も09年にメジャーへ移籍する以前から、当時所属していた巨人とは代理人の弁護士に契約交渉を任せてきた。

 当時の報道によれば、03年オフに金銭交渉を弁護士に一任して球団と年俸を妥結しているが、これが巨人で代理人交渉を実行した最初のケースだった。球団代表は「弁護士会登録番号などを文書で通知する行為がなされていない。代理人の手続きに瑕疵(かし)があったので、代理人交渉ではない」と否定したとあるが、実際に代理人交渉を行ったのは間違いない。当時の記事では、私が「希望通りで満足している。お金の話を僕自身はしたくなかったので、やってよかった。満足いく結果が出たので(来年も)続けていくつもり」と語っていたようだが、いま振り返ってもまさにその通りである。

 代理人交渉の最大のメリットは、「選手本人がお金の話をしなくていい」ということだ。プロ野球選手にとって、お金(年俸)は大事な評価軸であり、限られた現役生活の中でできるだけ高い評価を得たいのは当然だろう。一方で、プロ野球選手は交渉のプロではない。球団側は代表クラスと査定担当の2人がテーブルにつくのに対し、選手は一人。圧力を感じることもあれば、自分が希望する金額が妥当かを判断する材料も乏しい。そもそもが、お金の話を球団の人とするということが好きではなかった。それならば、交渉のプロである弁護士に任せて、トレーニングに集中したいという考えは理にかなう。

  お金の話をしたくないから代理人に任せるにもかかわらず、当時は代理人が同席すると、「お金にシビアな選手」などと悪いイメージを持たれることが残念だった。

 メジャーリーグでは、選手会から認証された公認代理人(エージェント)に契約の細部に至るまで任せた。メジャー契約を前提とすることや、ポストシーズンに出場できる可能性がある戦力を持つ球団などの条件を代理人と共有し、実際の交渉は代理人が進めてくれた。

 時代は変わり、現在は日本球界でも、数多くのトップ選手が代理人に交渉を任せるようになり、外国人選手やメジャーから復帰した日本選手の場合には、弁護士ではない代理人が交渉を担っている実情もある。導入当初のルールは事実上、形骸化しているとも報道される。私の場合には、メジャーから巨人に復帰した後は、代理人はつけず、自分が交渉した。このころには、自分の評価もだいたいわかっていて、球団ともあうんの呼吸で交渉が進むことが多かったからだ。「1円でも多く稼ぎたい」ではなく、「1年でも長くプレーしたい」というのが本音でもあった。

 日本のプロ野球選手会は、以前から弁護士以外の代理人を認めるなどの条件緩和に向けた働きかけを行っており、公取委の警告に端を発した今回の見直しは追い風となるだろう。

 ただ、誰でも代理人になれるというのではなく、選手会が公認代理人の登録を実施しているように「線引き」は必要だと考える。弁護士は交渉のプロだが、それ以外にもプロ野球界のことを熟知していない人もいる。その点では、マネジメント業務などに携わり、選手の評価を客観的なデータを用いて交渉の場に持ち込めるような人材であれば、弁護士に限らず、選手も安心して任せられるケースが増えるのではないだろうか。家族や親族でも、感情的な交渉になるのではなく、登録資格を満たす知識や実務経験があれば問題ないだろう。

 日本のプロ野球では、ドラフト会議での指名を拒否して海外の球団と契約した選手が日本に戻っても、一定期間は日本の球団と契約ができない「田澤ルール」も公取委の調査中に撤廃されたケースがある。今回の代理人制度の見直しも、「プロ野球界」と狭い世界での“掟”で縛ることができない時代になっていることを浮き彫りにした格好だ。

 プロ野球選手になれる人は限られているが、代理人制度の見直しは、スポーツビジネスの世界で活躍することを夢見る子どもたちの選択肢が広がることにもつながるはずだ。

 代理人制度に関しては、代理人による不当な条件のつり上げにつながるなどのネガティブな意見を耳にすることもあるが、選手の年俸は活躍の度合いに応じて決まるものであり、選手が正当に評価される環境を望みたい。

元メジャーリーガー

1975年4月3日生まれ。大阪府出身。98年、ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目に20勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠、新人王と沢村賞も受賞。06年にはWBC日本代表に選ばれ初代王者に貢献。08年にボルチモア・オリオールズでメジャー挑戦。ボストン・レッドソックス時代の13年にはクローザーとしてワールドシリーズ制覇、リーグチャンピオンシップMVP。18年、10年ぶりに日本球界に復帰するも翌19年5月に現役引退。YouTube「上原浩治の雑談魂」https://www.youtube.com/channel/UCGynN2H7DcNjpN7Qng4dZmg

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