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今週末、どこ行く? はじめての「女性ひとり温泉」で”絶対に外さない”オススメの宿

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)
標高2000メートルにある野天風呂(撮影・筆者)

長野県高峰温泉 忘れられない絶景に会いに行く 

息を呑むような景色――。

人生観が変わってしまうような風景に、温泉で出会ったことがあるだろうか。

まだの人はぜひ一度、浅間山麓に湧く秘湯・高峰温泉を訪ねて欲しい。

ランプの宿として知られる一軒宿に到着して、雲上の野天風呂へ向かう。

チェックインをして、すぐに標高2000メートルにある野天風呂へ行くと、まだ空は真っ青。息をのむ碧さとは、このことを言うのだろう。

「ざっば~ん」と湯船からお湯を溢れさせながら、「どっぼ~ん」と入る。

お湯の感触を確かめるために、両手で温泉をすくいあげ、手でこすり合わせる。

少し軋む感じがする。硫黄が含まれているからで、肌の皮脂や角質を洗い流したり、血管を拡張する作用があると言われている。

太陽の光の強さを感じながら、空を見上げて、温泉に身体を委ねる。

1時間ほどすると、太陽が沈んでくる。目の前の2000メートル級の山々の稜線に太陽が消えていくと、瞬く間に空一面が茜色に染まる。

刻々と変化する空の表情を、お湯から出たり入ったりを繰り返しながら、眺めていた。

もう10年も前の出来事だが、空とはこんなにも表情豊かなのかと、あの感動は忘れられない。景色の中に吸い込まれそうで、あまりにも強烈な記憶としていつまでも残っているから。

素っ裸で温泉に浸かるという、人として最も無防備な状態だったのも、インパクトを増していたのだろう。そこには雄大な自然とちっぽけな自分がいた。

運転免許を持っていない私は、どんな秘湯へ行くにも、いつも公共交通を利用する。

高峰温泉へは、東京駅から長野新幹線で小諸駅へ。そこからバスでアサマ2000スキー場まで。冬季期間中は、スキー場に「高峰温泉」と書かれた真っ赤な雪上車が待っている。雪上車で行くようなロケーションの秘湯だからこそ、自然がすぐそこにある。

それゆえに、温泉の本来の力にも触れられる。

高峰温泉の宿の主・後藤英男さんは、源泉の蒸気や湯量から、浅間山を観察している。

「平成16年に起きた浅間山噴火の数日前、温泉をくみ出す地下ポンプが一日に何度も止まるようになりました。その様子で、火山ガスが影響しているのではとすぐに思いました」と後藤さんは言う。直後、浅間山の小規模な噴火が起こった。

マスメディアの過熱報道に対しても、後藤さんは落ち着いて、独自に分析したデータをもとに、宿泊客らに情報を伝えていった。

「ちょうど山開きをして、山歩きのお客さんが増える時期でした」

 自然と向き合いながら、源泉管理をする後藤さんは、まさにお湯を守る「湯守」。

日々、真摯に温泉と向き合うが、そんな後藤さんに深い後悔もある。

それは、ご自身のお母さんを病院で看取ったこと。

最後は闘病生活でやせ細ったお母さんを、温泉での治療をしないまま、見送ってしまったことが大きな悔いとなったそう。

そこで「温泉で健康管理ができたら、どんなにいいだろう」と考え、毎日、夕食前の17時から18時に温泉健康講座(サロン)を開いている。

白衣を着た後藤さんがお客さんの前に現れ、高峰温泉の源泉の説明と泉質ごとの効果効能、サロンに参加したお客さんの体調に合わせた入浴方法などをレクチャーしている。個別に入浴法を聞くことができるのは珍しいので、後藤さんはいつも質問攻めにあうそうだ。

「講座に参加してくださる若い方から年配の方まで、みな、肩こりや腰や膝の痛みで悩まれていますね。ノルディックウォークの指導員の資格も取得していますので、温泉の交互入浴での筋肉のほぐし方と体の矯正の方法、肩甲骨の動かし方を中心に指導することが多いです」と、後藤さん。

高峰温泉では26度の源泉と42度の加熱したお湯に入れる。交互浴は、筋肉のほぐれとともに疲れも取ってくれる。私も身体がだるいと感じる時は、温度の異なる湯に交互に入るようにしているが、湯上がりはすっきりとする。

大自然が手に届く距離にある高峰温泉。宿泊施設は簡素だが、とても清潔だ。

「防寒対策に窓を三重サッシにしています。野天風呂も全面改修したんですよ。入った時に広く感じられるように、以前の湯船よりも5センチ深くしました。また高野槙を使いまして、肌あたりの優しさにこだわりました」

山のいで湯だから、登山基地として利用するお客さんもたくさん。山歩きを目的としていなくとも、野鳥観察や星空を眺めることができるなど、宿にいながらにして自然に触れられる環境が高峰温泉の最高の特色だ。

雪上車で行く冬もいいが、緑が芽吹き、高峰温泉が最も美しくなる春が私は好きだ。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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