世界最長寿の樹木発見? 樹齢には謎がいっぱい
先日、チリで世界最古の樹木が見つかったというニュースが流れた。学術誌「サイエンス」に掲載された記事である。樹齢5400年を超えるパタゴニアヒバが確認されたというのだ。幹の直径は4メートル以上あるという。
これまで世界一長い樹齢の樹木は、樹齢4853年とされるアメリカのカリフォルニア州にある「メトセラ」と名付けられたブリスルコーンパイン(イガゴヨウマツ)だ。それを大きく上回ることになるから世界一というわけだ。
そこで日本人なら思い浮かべるのが、屋久島の縄文杉ではないか。もっと長生きじゃなかったのか? という疑問を持つだろう。縄文杉は樹齢7200年以上とされたこともあるからだ。幹の太さだって5メートル以上ある。今回のパタゴニアヒバよりデカいではないか。
7200年という数字は、発見時に幹の直径から推定されたものだが、残念ながら現在はほぼ否定されている。おそらく3000年前後だろうとされる。幹の中心部がウロとなっているためもっとも古い部分がないのだが、残された中の古い部分を炭素法によって調べると、2170年程度だった。
また約6000年前に屋久島全体が火山噴火の火砕流に覆われたこともあって、その前から生えていたとは思いづらい点もある。
今回発見されたパタゴニアヒバの樹齢も、まだ確定的ではない。樹齢の調べ方は、穿孔器での幹に穴を開け、抜き取ったコアサンプルの年輪を調べるというもの。ただし幹の中心部まで到達できなかったため、他のパタゴニアヒバの年輪データを参考に、コンピューターモデリングによって分析して出した数値である。
結果は、この個体は80%の確率で5000年以上、推定5400年と導き出した。しかし、周辺の樹木とあまりにもかけ離れていて、懐疑的な声もあるようだ。
ここで、どの木が世界最長寿かを判定するつもりはない。ただ樹木の寿命を判定するのは非常に難しいということを知ってほしい。
一般に幹が太ければ長生きしたと思いがちだし、太くなれたのは気候や土質などが樹木の生長に向いているところ、と思ってしまう。だが現実は反対だ。生長に適した土地に生えた木は、早く太るので寿命はそんなに長くない。
むしろ逆境に育つと生長が遅い分だけ年輪が詰み強度が増す。すると折れにくく風害にも強くなるから長生きしやすい。また太い木には、合体木の可能性もある。何本かの木の幹が癒着して太くなるケースもあるからだ。
私は、それ以上に樹齢がはっきりしないのは、人間の思惑が加わるせいだと思っている。人は長生きな木を尊ぶゆえに、無意識的、あるいは確信的か、長めの推定値を出したがるからだ。
日本各地に「樹齢〇〇〇年」と示された説明板のある大木があるが、ほとんどは水増しされていると思う。
以前、太いツバキが発見され、樹齢700年と判定されたのだが、命名されたのは「千年椿」。そして説明板もいつのまにか書き換えられて樹齢1000年になってしまった。専門家は、実際のところ300年くらいだろうと言っていた。
また樹齢300年などと言われているサクラなのに、実は苗を植えた人が今も生きているケースもあった。
巷間示される大木の樹齢は、半分から3分の1程度と思った方が無難だと思う。(個人の感想です。)
もちろん穿孔器で芯の部分の木片を抜き取り、炭素法で調べたような科学的に樹齢調査をされた木もある。そんな場合はある程度の信頼はおけるが、そもそも萌芽などクローンで世代を重ねることも可能な植物の場合、何をもって本当の樹齢とするべきか難しい。
アメリカのユタ、フィッシュレイク国有森林の中に43ヘクタールものポプラの森があるが、これは根が全部つながっており一つの植物とする見方がされている。そして約8万年経っているとされるのだ。つまり樹齢8万年?
ほかにも根の部分は1万年前から生えている(地上部は生えかわった)と推定される木もあった。
ちなみに今年は、世界最大の植物も発見されている。それはオーストラリア西海岸シャーク湾で発見された海草だ。1個体で180キロ以上に広がっていたというのだ。大きさもさることながら年齢は約4500年と推定された。
そもそも樹木、いや植物に年齢という概念を当てはめるのは、無理なのかもしれない。