「パラシュートなしで飛行機から飛び降りてもケガしない」ハーバード大学の衝撃研究の真相は
「飛行機から飛び降りるときに、パラシュートをつけていてもいなくても、死亡や大けがのリスクは変わらない」
そう聞いて、どう思います?
わたしの率直な印象は「アホか?そんなわけないでしょ」というものでした。
実はこの内容、今月13日、世界的に有名な医学誌BMJ(英国医師会雑誌)に掲載された「検証実験」の結果です。しかも研究したのはハーバード大学などに所属する、れっきとした「医療専門家」たち。
うーん…。だとすると、信じられることなのでしょうか…?
どうにも不思議な研究論文。しかし良く読むと、その内容には深~い意味が…。お願いですので、最後まで読んでみてくださいね。
世界初!?「パラシュートの効果」を検証する実験
論文(※1)によれば、研究チームは次のような実験を行いました。
協力したのは、18歳以上の男女23人。参加者はランダムに2つのグループに分けられ、片方には飛行機から「パラシュートをつけて」飛び降りるように、もう片方には「単なるリュックサックを担いで」飛び降りるようにお願いしました。
飛び降りた後、地面に衝突して何が起きたか?研究者が専門の調査用紙を使って確認し、それぞれのグループで「死亡」や「大けが」になった人がどのくらいいたかを調べました。
普通に考えると「そりゃパラシュートをつけていた人のほうが安全でしょう!ていうかリュックサックの人たち大丈夫なの?」と思いますよね。
ところが結果は驚くべきもの。
パラシュートをつけた人とつけなかった人で、死亡や大けがの発生件数は変わりませんでした。
ど
う
い
う
こ
と
?
訳が分からなくなったところで、種明かし。
この写真を見れば一目瞭然です。
そう!
「飛行機は飛んでいなかった」のです。
地上に止まった小型飛行機から飛び降りたのなら、パラシュートをつけていようがいまいが、ケガはしませんよね。
「結果が変わらなかった」のは、どちらも死亡・大ケガが0人だったからでした。
「なんだよ!一杯食わされた!」と思った方もいるかもしれません。
実はこの研究を掲載したBMJ(英国医師会雑誌)はクリスマス特集号。なので、こんなユーモア感たっぷりの研究を掲載したわけです。
一見しっかりした研究でも、「前提条件」しだいで「ありえない結論」が出せてしまう
ちょっとした悪ふざけのようにも感じるこの論文。でも筆者は、研究者たちからの大切なメッセージが暗に示されていると考えています。
それは『一見しっかりした研究でも、前提条件しだいで、いかようにも結論を導き出せる』ということ。
だからこそ、研究やデータを参照する場合には、常に注意しなければならないということです。
実は今回の研究は、「ランダム化比較試験(RCT)」という方法を使っています。
世界中で、医薬品や手術などの効果を確かめるために使われている方法で、とても信頼度が高いものとされています。
わたし自身、論文に「ランダム化比較試験を行った」と書いてあれば、ついつい「信頼できそう!」という先入観を持ってしまいそうな気もします。
※ランダム化比較試験については、下の記事で詳しく解説しています
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研究やデータを「批判的」に見る姿勢が大切
しかし、どんなに一見しっかりしていそうな研究でも、前提条件次第で結果はいかようにも変わり得ます。
過去に日本でも、「ある薬の効果を大きく見せたい」という意図によって研究成果がゆがめられ、大きな問題になったことがありました。
「ハーバード大学の研究」「世界有数の医学雑誌に掲載」などと聞くと、ついつい頭から信じてしてしまいそうになります。
でも重要なのは、研究成果やデータを「批判的」に見る力です。このデータは、本当に実態を反映しているのか?前提条件は適切なのか?
たとえ権威ある組織や研究者が出したデータであっても、あえて「疑ってかかる」姿勢こそが本当に役に立つ。今回ご紹介したユニークな研究は、そのことを改めて意識するきっかけになりました。
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BMJ 2018; 363 (Published 13 December 2018)