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Appleが組むべき相手は、TimeWarnerではなくDisneyだ

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

KNNポール神田です!

FT.comはAppleのTime Warner買収策をスクープ
FT.comはAppleのTime Warner買収策をスクープ

FTによれば、「iTunes Store(アイチューンズ・ストア)」や「アップルミュージック」「iCloud(アイクラウド)」の統括責任者であるエディー・キュー氏がタイム・ワーナーの企業戦略責任者、オラフ・オラフソン氏との会談で、買収提案の構想を持ち出した。

出典:メディア狙うアップル タイム・ワーナーに一時買収打診

AOLがTimeWarnerを買収してから16年。世紀の買収として、当時は話題になったが、すでにAOL部門はスピンナウトでもはや、ネット企業と従来メディアのシナジーの悪さが定着していたが、Appleの役員のエディー・キュー氏が暗躍していたようだ…。しかしだ、TimeWarnerのコンテンツをAppleのプラットフォームにラインナップすることがどれだけ魅力的になるだろうか?

確かにメディア・コングロマリットのTimeWarnerは、活字媒体、映像媒体、CATVネットワーク、ワーナー・ブラザーズ映画に至るまで、コンテンツが豊富と読み取れる。HBOからCNNまで傘下にある。しかしだ…。

Appleとのシナジーがどれだけあるのかというと、筆者は首をかしげる。

時価総額で比較すると…

本日のTimeWarnerの時価総額

Market cap 57.69bn USD 577億ドル(6兆3602億円)

本日のAppleの時価総額

Market cap 545.66bn USD 5,457億ドル(53兆7511億円)

プラットフォーマーが、コンテンツメーカーと組むと他のコンテンツメーカーは嫌がる傾向がある。なぜに、AOLとの座組みでバツイチ歴があるTimeWarnerを選んだのだろうか?

ましてや交渉は、CEOであるティム・クック氏ではなく、Internet Software and Services 部門のトップである、エディー・キュー氏であるところから、iTunesやAppleTVとのシナジー狙いが容易に想像できる。買収金額としては全株としても600億ドルもあればお釣りがある計算だ。Appleの時価総額は5500億ドルだから11%の規模。

しかし、Appleにとって、いや、Appleユーザーにとって、TimeWarner傘下のコンテンツ群である、HBOやCNN、ワーナー・ブラザース映画、バックスバニーはどれだけ魅力的に映るのだろうか?

これらがApple,Inc,の傘下としてはいっても、ニュースアグリゲーションとしての魅力や価値が劇的に向上するとは思えない。

AppleはDisneyとタッグを組むべき!

むしろ、Appleが買収(もしくは提携)するならば、TimeWarerではなく、Disneyではないだろうか?

本日のDisneyの時価総額

Market cap 162.02bn USD 1,620億ドル(17兆8,200億円)

Disneyは、Appleの時価総額の30% だ。TimeWarner

Disneyの傘下には、テレビ局のABC、映画会社のディズニー、そして、テーマパーク&アトラクション施設のランドまでがある。こちらのほうが、Appleとはシナジーがあるのではないだろうか?

もちろん、Disneyには、映画のルーカスフィルムの「スター・ウォーズ」も、もれなくついてくる。MARVERコミックもまたディズニー傘下だ。また、何よりも個人の筆頭株主は、スティーブ・ジョブズの未亡人であるローレン・パウエル・ジョブズだ。なんとディズニー株の7%所有しているのだ。買収とまではいかなくとも、ローレンさんが強力な事業提携を、株主提案すれば、承認される可能性は非常に高い。

そして、さらに、ジョブズがジョージ・ルーカスの離婚費用を捻出するために放出したILMのコンピュータ部門から創設したピクサーが、現在、ディズニーの傘下である。それがローレンさんの7%株につながったのだ。

ピクサーの「トイ・ストーリー」の成功がなければ、NeXT社は存在できなかった…。NeXT社がなければ、現在のApple社もなかったのだ。つまりDisneyはAppleの最大の恩人でもあるのだ。ルーカスの浮気がジョブズを救ったという説もあるが…。

ジョブズとディズニーという時代を超えた双生児

それほどまでに、AppleとDisneyは、何らかの赤い糸を感じざるを得ないのだ。

創業者のカリスマ性も非常に近似している。

社員や映画会社に裏切られるディズニー。幸せウサギのオズワルドの権利関係のどん底からミッキーマウスを生み出したディズニー。大反対を押し切り、長編アニメ事業へ。さらに大反対を押し切り、テーマパーク事業へ参入。ジョブズとディズニーは双生児といっていいほどビジネスの境遇が似ている。そして、二人共「妥協」という言葉を知らない。リスクテイカーであり、ヴィジョナリーである。

AppleもDisneyも伽藍タイプ、バザールではない

Appleとのシナジーは絶対的にTimeWarnerではなく、Disneyである。基本的にファミリー層に支持も厚いディズニーとAppleこそベストな座組みだ。

なぜならば、Appleのコンテンツは徹底的に管理された状態で提供されているので、ウィルスやアダルトコンテンツは介在する余地がない。Google Android的なゆるさがない。伽藍とバザールで言えば 、Appleは伽藍タイプなのだ。そして、Disneyも伽藍タイプだ。徹底的に自社ブランドを完全管理下においている。子供に害のあるものは一切介在させないという強烈なポリシーを持っているから親も安心なのだ。

TimeWarnerと組むよりも、Disneyと組んで、ハードウェアとアトラクションの協業で、ディズニーランドの中に「アップル・パーク」を作り、自動運転カーやVRとAIとドローンのアトラクションで、次世代のAppleのヴィジョンを体験させて欲しい。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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