「僕からの解散は絶対にない」。「女と男」が17年貫くルール
ファイナンシャルプランナーなど40以上の資格を持つ市川義一さん(39)とポップなキャラクターで愛されるワダちゃん(38)のコンビ「女と男」。関西テレビ「よ~いドン!」、ABCラジオ「Monday! SPORTS JAM」など関西で多くのレギュラー番組を持つ人気者ですが、最近は市川さんが“井上小公造”として日本テレビ「ウチのガヤがすいません!」などに出演し全国的な知名度も得ました。一方、和田ちゃんは初の個展「WADACHANCHI」(8月28日から30日、大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKA)を開催。難しいと言われる男女コンビで仕事が途切れることなく17年。歩みを支えた“ルール”を明かしました。
初めて一人で
ワダちゃん:アートというほどのものではないんですけど、作るのが好きで、消しゴムはんこを作ったりはしてたんです。5年前くらいからですかね。それを少しずつSNSにあげたりはしてたんですけど、あくまでも自分の趣味でやっていることだし、芸人がやっていることをあんまり打ち出すのはアーティストの人とかに失礼かなと思いまして…。そんなに言うこともなく、ひっそりとやってたんです。
でも「シャンプーハット」こいでさんの個展に少しだけ出品させてもらったり、たむらけんじさんの自宅の寝室に飾る絵を描かせてもらったりとか、そんなことが重なる中で、いろいろな人から「ワダちゃん、せっかくいろいろ作ったり、描いたりできるんだから、それをもっと広めた方がいいよ」と言っていただきまして。
そこに新型コロナウイルスでのステイホームも重なり、時間ができました。今まで以上にいろいろなものを作る中で、消しゴムはんこだけでなく、デザインにも興味があった帽子も新たに製作して個展をさせてもらうことになったんです。
市川:消しゴムはんこを作ってるのは僕も知ってて「これは絶対に外に出して、形にした方がいい」と言ってたんです。ただ、僕の言葉はあんまり響かなかったのか(笑)、たむらさんのところの絵を描いたりする中で、いろいろな方々から「ワダちゃん、すごいな!」と言ってもらうことが増えて、自分の中でも少しずつ自信が出てきたみたいで。
ワダちゃん:ライブにしろ何にしろ「何かを自分一人でやる」ということがこれまでなかったんです。一歩踏み出す前に躊躇してしまうというか、スベッたらどうしようと考えてしまうというか。プレッシャーがかかることを避けていたのかもしれません。
でも、今回、例えば、たむけんさんの寝室に飾る絵を描かせてもらった時に、もちろんプレッシャーもあったんですけど、すごく楽しかったし、出来上がって喜んでもらえたら、すごくうれしかったんです。なので、今まで自分では考えもしなかった個展にも踏み出せましたし、今回の流れは、自分の中ですごく大きなことだったなと思いました。
あと、意識改革というほど大げさなものじゃないですけど「自分で決める」ということも身についたと思います。今までは周りの人の話を聞きすぎるところがあったんです。もちろん、周りの声は大事なんですけど、聞いたら聞いた分だけ影響されるというか、流されてしまう。でも、結局、決めるのもやるのも自分だし、そこは大事にしつつ自分で決める。それをするようになりましたね。
どちらかが出て、どちらかが蓄える
市川:コンビを組んで17年やってきましたけど、ずっと“どちらかが出て、また次はどちらかが出て”という繰り返しやったなと。
最初はワダちゃんが関西のいろいろな番組でレポーターをやらせてもらうようになって、たくさんの方に知ってもらえた。まずこれはすごくありがたいことなんですけど、その間、僕は資格を取ったりとか、ワダちゃんがメディアに出ている間にやるべきことをやっておく。
そして、これこそ本当にありがたいことに、僕が“小公造”で2~3年ほど前から、ちょいちょい全国の番組に出してもらうようになりました。そして、今このタイミングでワダちゃんが個展を開いて、アートの方の顔を見せるようにもなってきた。
どちらかが世の中の皆さんに知ってもらって、その間、もう一方は力を蓄える。またその蓄えが実を結んで世に出たら、一方がまた力を蓄えて。どうにかこうにか、そうやって、僕らはなんとかここまで芸人をやってこられたのかなとは思っています。
市川:なんだかんだでコンビを組んで17年ですもんね。今、感じている相方の良いところですか?そうですね、曲がったことはしないという正義感。あとは、華とセンス。これは本当にすごいと思います。ここは僕には明らかにないところですからね。
ワダちゃん:市川君のいいところですよね?…ないですね。
市川:いやいや、ある前提で聞いてもらってるから。
ワダちゃん:いや、ホンマにないんやけどなぁ…(笑)。資格もそうですけど、私と違って、臆せず一歩を踏み出す。とにかくやってみる。それはすごいなと思います。あと、器用やとも思います。おしゃべりも、人付き合いも。
人付き合いというか、そこで言うと、実は、市川君も私も、苦手なタイプが同じなんです。仕事場とかで苦手なタイプの人がいたら、どちらからともなく二人で目を合わすんです。例えば、昔のプロデューサーさんみたいに、カーディガンを肩から羽織ってみたいな人がいたら、どちらともなく「すごい人がいた!」とパッと目があいます。
市川:「この人はイヤやなぁ」というセンサーも同じですし、逆に「この人は好き」というのも合うんです。人付き合いの足並みが揃うというか。
だから、普通コンビで同じ食事の場には行かない人の方が多いんですけど、僕らの場合は、好きな人が一緒なので、どなたか好きなプロデューサーとかがいらっしゃる場だったら、二人とも本当に楽しく過ごせるので、何の抵抗もなく行けるんです。
コンビを組んだ時はそこまで考えて組んだわけじゃないですけど、この人のセンサーが合致しているのは本当に良かったです。
二人のルール
ワダちゃん:あと、これは私がやっていることなんですけど、徐々に“流す”ということを覚えてきました。なんだかんだ言っても、コンビでやっていると腹が立つ時ことはたくさんあるんです。
そんな時に、市川君から何かを言われたら、そこでけんかになったりして、結果、仕事がやりにくくなったりもする。そのトーンでのやり取りで、前向きな感じになることはほぼないので、そこはスパッと流そうと。市川君の言葉を右から左へ受け流す。そのモードになった瞬間、頭の中にムーディ勝山さんの曲が流れます(笑)。
多分、市川君的には「めっちゃ流されてる」というのは気づいてると思います。でも、結果、その方がもめることが少なくなるかなと。ただ、この前は流して無視してたら、そのまま私が行くカフェまでついてきて「うぜぇ」と思いましたけど(笑)。ま、兄弟げんかみたいなものかもしれませんけど、それをどうやって流していくか。そこに17年の進化があるのかもしれませんね。
市川:兄弟げんかという部分もあるでしょうし、あとは夫婦じゃないですけど、男女コンビは価値観が合わないと難しいかなと。男同士のコンビって、笑いの価値観があっていれば性格が合わなくてもやっていけると思うんですけど、男女コンビはそれプラス価値観の一致がないとやっていきにくい。ウチはたまたまそこが合ったのがラッキーだったと本当に思います。
あと、何があっても、僕から「解散しよう」とか「辞めよう」とは言わないでおこうと決めてます。僕はずっとやりたいし、ずっとやるつもりですから。
もちろん人の人生ですし、例えば、この先ワダちゃんがアートですごく人気になって、また別のことがやりたいとなったら、それはそれで頑張ってもらいたい。でも、僕から辞めることはありません。ワダちゃんが結婚しても、コンビは変わらないでしょうし、子どもができたら産休もとってもらいながらも、コンビは続けていきたいと思っています。
ワダちゃん:結婚か…、もちろんそれはそれであったらいいんですけどね。でも、もし産休とったら、その間、持ちこたえられるの?
市川:なんちゅうシンプルな疑問を提示すんねん!?そこはどうにかするわ。ムチャクチャ不安ではあるけど(笑)。
(撮影・中西正男)
■女と男(おんなとおとこ)
1980年9月26日生まれの市川義一と81年1982年6月7日生まれのワダちゃん(本名・和田美枝)のコンビ。吉本興業所属。互いに別のコンビを経て、2003年に「男と女」を結成。08年、笑福亭仁鶴のアドバイスでコンビ名を「女と男」に変更する。市川は井上小公造のキャラクターで日本テレビ系「ウチのガヤがすいません!」などでも注目されるほか、ファイナンシャルプランナーなど40以上の資格を持っている。市川は11年に結婚。また、ワダちゃんは8月28日から30日まで大阪・LAUGH & PEACE ART GALLERY OSAKAで初の個展「WADACHANCHI」を開催する。以前から作りためてきた消しゴムはんこや自作の帽子、絵画などを展示する。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、事前予約制となっている。詳細はhttp://id.mailmag.yoshimoto.co.jp/blog/2020/08/post-718.phpで見ることができる。