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断片的報道でわかりにくいが茨城県一家4人殺傷事件は深刻な問題を提起している

篠田博之月刊『創』編集長
5月8日付新聞各紙が一斉に報道(筆者撮影)

なぜ報道がわかりにくいのか

 5月7日に岡庭由征容疑者が逮捕された茨城県一家4人殺傷事件の報道はいささかわかりにくい。そもそも事件が起きたのは2019年9月と1年半ほども前だし、テレビで何度も流れた逮捕時の映像は昨年11月のものだ(今回の逮捕後の送検時の映像も使われてはいるが)。警察は容疑者を別件で逮捕し、証拠を固めたうえで今回、殺人容疑で逮捕したわけだ。なぜ逮捕が今になったのかを含めて全容を説明しないとわかりにくいのだが、新聞・テレビの報道は断片的で全体が見えにくいのだ。

 それは偶然ではなく、そもそもこの事件、いろいろなことを考えて報道しなければならない、ある意味で極めて深刻なものだからだ。警察もその事情を考え、二度にわたる別件逮捕によって証拠を押収し、そのうえで今回、殺傷事件で逮捕に至るという経緯をたどっていた。逮捕に至るきっかけは岡庭容疑者が10年前に逮捕された事件なのだが、当時彼は16歳で少年法が適用されていた。報道する側もそういう経緯を踏まえたうえで慎重な対応を余儀なくされたのだろう。

『週刊新潮』の大きな取り組み

 前の事件も詳しく報じ、全体の構図を明らかにしたのは『週刊新潮』と『週刊文春』だ。特に『週刊新潮』5月20日号は、グラビアと本文8ページという大特集だ。そもそも同誌は以前から少年法を批判し、同法によって匿名報道すべきとされる事件も敢えて容疑者の実名を報じるなどしてきた雑誌だ。今回も少年法に斟酌することなく、というかむしろこの事件の元凶は少年法だというキャンペーンを張っている。

『週刊新潮』5月20日号(筆者撮影)
『週刊新潮』5月20日号(筆者撮影)

 『週刊新潮』によると、逮捕に至る経緯はこうだ。

 2019年の事件発生後、警察は当初、室内を物色した形跡がないことから怨恨による犯行を疑い、被害者家族の交友関係を洗っていた。しかし、手がかりがないまま、昨年4月に刑事部長が交替。それによって捜査方針が変わり、類似事件の洗い出しに注力することになった。その結果、それまでノーマークだった岡庭容疑者が浮上したという。

 昨年夏、容疑者の実家近くに住む男性が所有する月極め駐車場を警察は借り上げ、監視カメラを設置した。そこからは容疑者の家がはっきり見わたせる。警察は岡庭容疑者を二十四時間態勢で行動確認したのだった。

 そして昨年11月、火災予防条例違反容疑で逮捕。2021年2月には警察手帳の記章を偽造した容疑で逮捕。いずれも別件逮捕なのだが、その捜査過程で家宅捜索などにより押収した物から、殺傷事件につながる手がかりを押さえていったようだ。

 岡庭容疑者が捜査線上に浮上したのは、2011年、彼が2人の少女を襲った通り魔事件で殺人未遂容疑で逮捕されたという経緯があったためだ。当時16歳だったため、少年法の適用を受け、医療少年院へ送られた。

『週刊文春』が報じた出所後の経緯

 『週刊文春』5月20日号「茨城一家殺人犯を育てた地主一族の地獄」によると、岡庭容疑者が医療少年院で5年間過ごし、満期出所したのは2018年だったという。つまり社会復帰してそうたたない時期に今回の凶悪な殺傷事件を起こしたわけだ。同誌によると、医療少年院を出た後は、2018年夏から地元の社会福祉法人が運営する精神障害者のためのグループホームに入所。そして1年もたたないうちに埼玉県三郷市の実家に戻ったという。

『週刊文春』5月20日号(筆者撮影)
『週刊文春』5月20日号(筆者撮影)

 医療少年院やグループホームで具体的にどういう措置がとられ、岡庭容疑者がどういう状態だったのか、一昨年の事件を防ぐ手立てはなかったのか。そのあたりは今後、徐々に明らかになっていくのだろう。

 前の事件でもこの容疑者が中高生時代から動物虐待をしていたことや、2011年11月に切断した猫の生首を入れた瓶を学校に持参したことなどを含め、いろいろな点で岡庭容疑者は、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の元少年Aとの類似点が少なくない。しかも医療少年院での治療を経ていたのに今回の事件を起こしたというわけで、事態はかなり深刻だ。

元少年Aとの類似点と違い

 『週刊新潮』5月20日号の特集タイトルは「少年法が生んだ『茨城一家4人殺傷』の怪物」だ。少年法は、事件を起こした少年の「可塑性」つまり成長とともに変わっていく可能性を考慮して処罰よりも保護や治療に重きを置くのだが、同誌はそういう対処の仕方が今回の凄惨な殺傷事件を生んだという捉え方だ。「少年法が生んだ~」云々は扇情的な見出しとしてつけたもので、それ自体は短絡的と言えるし、同誌の少年法の捉え方には賛同できない。だが、少年法の趣旨が結果的に生かせなかったという点では深刻な事件であることは認めざるをえない。

 元少年Aが2015年、社会復帰の過程で『絶歌』という著書を上梓し物議をかもした時も、本当に彼は治療によって更生したのかどうかが議論されたが、今回の岡庭容疑者の場合は、報道された経過が正しいとすれば、医療少年院を出てからわずかな間に凶悪な事件を起こしてしまったわけだ。

 ちょうどこの国会で少年法改正が審議されているが、今回の茨城県一家4人殺傷事件は、こういう凄惨な事態を防げなかったのか、きちんと検証し、議論することが必要だろう。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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