錦織選手全米オープン決勝戦のパブリックビューイングにWOWOWの許可は必要か?
多くの人がこの記事を見る頃には既に決勝戦は終わっているのでもう遅いとは思いますが、今度似たような事態があった時のために書いておきます。論点は「スポーツ試合のテレビ中継を大勢の人で見るイベントを権利者の許諾なく行なうことが合法的にできるか?」です。
錦織選手の決勝戦の中継番組はWOWOWが著作権および著作隣接権(放送事業者の権利)を持つ著作物であるという前提で話を進めます。
著作権法で、テレビ番組を公衆に見せる時に効いてくる権利は「伝達権」です(上映権でも公衆送信権でもありません)。
スポーツ中継をパブリックビューイングする上で最初に考慮すべきポイントは、放送事業者の伝達権です。
要するに、「影像を拡大する特別の装置」(プロジェクターやビル壁面等の巨大スクリーン)を使用する場合には、権利者(この場合は放送事業者としてのWOWOW)の許可がいります。なお、この条文は非営利のケースにも適用されますので、たとえば、錦織選手の故郷の自治体が市民を集めて大画面を見て応援というケースでもWOWOWの許可は必要です(WOWOWが敢えて黙認ということになるかもしれませんが、それは別論です)。
では、(パブリックビューイングと呼ぶかどうかは別として)「影像を拡大する特別の装置」を使わない場合はどうなのでしょうか?
この場合は、100条は効いてきませんが38条3項が効いてきます。
これは、非営利・入場無料ならテレビ中継をみんなで見るのに権利者(この場合は番組製作者としてのWOWOW)の許可はいらないという話です。とは言え、プロジェクターを使う場合はどっちにしろ100条に基づく許可が必要なのであまり意味がないですね。
しかし、「通常の家庭用受信装置」(要するにテレビ)を用いた場合は、たとえ営利目的であってもテレビ中継をみんなで見るのに権利者の許可はいりません。喫茶店や飲み屋にテレビが置いてあって客が見るのは営利目的ですが、これにいちいち許可が必要というのでは現実的でないことから設けられた例外規定です。
さらに、もうひとつのポイントとしてWOWOWのサービス約款の問題があります。4条2項に以下の記載があります。
通常の地上波放送の場合は契約なしで勝手に電波が送られてくるわけなので放送局との契約は観念しにくいですが、WOWOWのような有料放送の場合は、視聴者が明示的に契約を行なっているので、視聴者はこの条文に拘束されると考えられます(とは言え、著作権法の権利制限規定をオーバーライドする契約はそもそも有効かという議論は残りますが)。
ややこしくなったのでまとめます。
1.放送番組をプロジェクターや業務用大型スクリーンでみんなで見るイベントは(たとえ非営利・入場無料でも)権利者の許可が必要(ほとんどのパブリックビューイングはこのパターンでしょう)
2.地上波番組を家庭用テレビを使ってみんなで見るイベントは権利者の許可不要
3.有料放送を家庭用テレビを使ってみんなで見るイベントは著作権法上はOKだが、有料放送事業者との契約違反になる可能性あり
ということで、今回のケースでははWOWOWの許可なしにパブリックビューイングを行なうのは難しそうです(もちろん、友だちで誰かの家に集まって見たりするのは黙認されるでしょうが)。一方、たとえば、ワールドカップのように地上波で放送される番組を家庭用テレビでみんなで見るのであれば(それをパブリックビューイングと呼ぶかどうかは別として)たとえ営利目的であっても権利者の許可はいりません。