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矢作萌夏 AKB48卒業から3年、沈黙を破り1stライヴ。「私の人生はこれから。今日始まったばかり」

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
『1st Live “Rebirth”』(7月5日 shibuyaWWWX)

シンガー・ソングライター矢作萌夏として『1st Live “Rebirth”』を開催

2020年2月にAKB48を卒業した矢作萌夏が7月5日、『1st Live “Rebirth”』をshibuya WWWXで行なった。矢作は5月23日にSNS上で突然『1st Live “Rebirth”』を行なうことを発表。2022年7月5日に20歳のバースデーの報告をしたのを最後に、SNSの更新もストップしていただけに、復活を待ちわびていたファンは歓喜した。そして今年7月5日の21歳のバースデーかつライヴの当日、新曲「Don't stop the music」が「この楽曲は、頑張っている人に寄り添った応援ソングでもあり、過去の自分へ向けたメッセージソングでもあります。どんな瞬間も、後に振り返れば輝かしい瞬間であること。皆さんの心に、少しでも届いてくれると嬉しいです!」というメッセージと共に届けられた。

「やっとこの日が来たね!」

会場は新曲と矢作からのメッセージを受け取ったファンで満員。女性専用エリアが設けられ女性ファンも多く駆け付け、フロアにはドキドキ感とワクワク感が充満していた。開演直前の会場内のBGMはテイラー・スイフト「You belong with me」だ。<君は私の運命の人 私と結ばれるべきなんだよ>という歌詞も、矢作からのファンへのメッセージなんだろう……そんなことを考えていると大きな拍手に迎えられ、バンドが登場。そして矢作が登場すると大歓声が起こる。「やっとこの日がきたね!」と感激した表情で語り、オープニングナンバーはこの日配信リリースしたばかりの「Don’t stop the music」だ。

矢作が作詞・曲を手がけ、アレンジは矢作と宗本康兵の共作で、宗本はバンドのキーボードとして参加していて、この日が約3年振りにステージとなった矢作にとっては心強い存在だったはずだ。<弱い味方がさ 待っているんだ 歌っては歌っては 君に届けたくて>と、3年間の空白の時間の心模様をしたためた歌詞が胸に響く。“その先”へと向かう推進力と希望を感じるサウンド、伸びやかな声が印象的だが、それ以上に、言葉一つひとつをきちんと伝えようとする真摯な思いが表現力となって、歌が輝く。2曲目、3曲目が客席に歌声が聴こえてこないという機材トラブルに見舞われたため、歌い直すというハプニング 。2曲目の「Shake it」は2021年にTikTokで披露したカラフルなポップスで、タンバリンを片手に披露。続く「愛されたいガール」はリズムが心地いいシティポップ風の作品で、ここまでの楽曲からも、彼女のシンガー・ソングライターとしての実力と可能性を十分に感じることができる。

MCでは「おかえりー!」を客席にリクエストし、ファンとステージに帰ってきたことを噛みしめているようだった。しかしすぐに「違うコ推してたでしょ?」と、コケティッシュな表情で客席に語りかけ、ブランクを全く感じさせないやり取りだ。

「恋のスパイス」もTikTokで披露していた、誰も笑顔になるキュートなポップス。同じくTikTokで歌っていた「夏のソーダ」は、これからの季節にピッタリのサマーソングで、リズム隊の太いリズムと歌うようなギターが絡む、ライヴ映えする曲だ。

ここで空白の3年間のことを語り始める。この日公開された「日刊スポーツ」のインタビューでも語っていたが「私、新潟の旅館で住み込みで働いてたの。自分が今まで置かれていた環境や、周りへの感謝を忘れないために」と衝撃の告白に、客席は静まり返る。AKB48で大きな期待を背負い、スポットライトを浴びていた華やかな舞台から突然姿を消し、沈黙を貫いていた彼女は20歳になり、自分を見つめ直していた。そして音楽と向き合っていたのだ。

『死に花に、生命を』は「行き詰った時に書いた」

ピアノの弾き語りで披露した、17歳の時に作ったという「ピーターパン」は、一刻も早く大人になりたいと思ったけど、でもやっぱりやめた、子供のままでいいや、だって<大人って、なんだか、弱いじゃん>という、揺れ動く少女の感情を鋭い言葉で紡ぎ、等身大の世界を鮮やかに描いている。表情豊かな歌が印象的だ。「行き詰った時に書いた」という「死に花に、生命を」は「音楽のいいところは、聴いた人が歌詞を勝手に解釈できるところ」と、もがき苦しみながらも、希望を捨てずに生きてきた自分に向けた言葉であるとともに、聴き手の心に寄り添うことを忘れない一曲。矢作が書く歌詞とメロディ、そして歌は“影”の部分にもきちんと光を当てて、苦しみや悲しみの濃度を薄めることなくポップスの中に昇華させている。

「旅館で働いていた時、私のことを知らないそこのスタッフの前で歌ったら、驚かれた」という宇多田ヒカル「First Love」のカバーでは、芯がある、でも柔らかな歌声で、誰もが知る名曲の世界観を表現すると、客席に感動が広がっていく。

「Be My Self」では「萌ちゃん」コールが飛び交い、客席はタオルを振り回している。そして矢作が「あの曲やっちゃう?」と煽り、AKB48第3章の幕開けを飾り、17歳の矢作が初センターを務めた「サステナブル」を“カバー”。踊りながら歌う矢作に、ファンは涙を流しながらコールを贈る。続いて大塚愛「さくらんぼ」をカバーし“アイドルタイム”は終了。矢作が作詞を手がけたサマーソング「Summer Of Love」で本編を締めくくった。

「3年間辛くてたくさん悩んだけど、ぶつけるところもないので、全部音楽にぶつけていた」

アンコール一曲目はギターを弾きながらミディアムナンバーの「アンコール」を披露。「3年間辛くてたくさん悩んだ。でもぶつけるところもないし、全部音楽にぶつけていた。前は辛いことがあっても、握手会とかでみんなに会えて話せたけど、それもできなくて本当に心細かった。今日も始まるまで本当に不安だった」と涙ながらに心に溜まっていた3年間の思いを吐露した。客席も涙を流しながら一言ひとことを受け止めている。すると「みんな、泣かないでよ!鼻すするの聞こえてるよ!」と矢作が突っ込み、泣き笑いの素敵な時間になっていく。「私は何も変わらない。みんなにもついてきて欲しい」とこの日一番伝えたかったであろう言葉を、まっすぐ伝える。

そして最後の曲に行く流れで、バンドが突然「Happy Birthday」のイントロを弾き始め、ケーキが登場。この日が21歳の誕生日の矢作へのサプライズだ。ファンと共に誕生日をお祝いするのは3年振りで「超幸せ者」と感激した様子だった。

「『Don’tstop the music』は応援ソングと思うかもしれないけど、自分に向けて書いた曲」

ラストはオープニングナンバーでもあった「Don't stop the music」だ。「この曲は応援ソングと思うかもしれないけど、自分に向けて書いた曲。この曲を聴くと自分の嫌なところが見えるから、前は嫌いだった。でも向き合ううちに大切な曲になった。過去の自分にいいきかせられるようになりました」と語り、「私の人生まだまだこれから。今日始まったばかり」と凛々しく語るその姿はどこまでも美しかった。ライヴの一曲目に聴いた時とガラッと印象が変わって聴こえてきた。<変わらない 変われない 今が一番輝いている>という歌詞に誰もが大きく頷いたはずだ。

「みんなから離れない、寄り添うアーティストになりたい」

「みんなから離れない、寄り添うアーティストになりたい」とファンと“約束”しステージは終了した。沈黙の期間、辛さや苦しみ、悲しみを全部音楽にぶつけてきたことが、ソングライターとしての彼女を進化させ、そしてその嘘偽りない思いを昇華させた言葉とメロディを表現することでシンガーとしての彼女を深化させた。いい意味で、恐ろしいシンガー・ソングライターが誕生した。そう感じさせてくれた1stライヴだった。

10月25日1stミニアルバムを発売

10月25日1stミニアルバムを発売することを発表し「会いに行ける機会もたくさん作りたいと思ってます!」と、シンガー・ソングライター矢作萌夏がいよいよ本格始動する。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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