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来季目前だが、F1の先行きが全く見えてこない!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
レッドブルのジュニアチーム「トロロッソ」も含め来季は?

アメリカGPでルイス・ハミルトン(メルセデス)が今季カレンダーの中の3戦を残し、自身3度目のワールドチャンピオンを決定した。新時代のパワーユニット規定になったF1はメルセデスが独走体制を築いて、ハミルトン2連覇。コンストラクターズタイトルも連覇した。

そんな中、秋からのF1は既に決まりきってしまっていたシリーズタイトル争いの行方をよそに、今後のF1を取り巻く状況がどう変わるのかという部分に関心が移行し、来年2016年の状況すらも全くもって先行き不透明な状況になっている。

レッドブル撤退問題

来季に向けた不穏な状況変化の最たるものが、2010年〜2013年にセバスチャン・ベッテルと共にドライバーズ選手権、コンストラクターズ選手権で4年連続のワールドチャンピオンに輝いた「レッドブル」が来季以降で使用するパワーユニットが決まっていないことだ。

「レッドブル」は「ルノー」のパワーユニットを使用し、チームのタイトルスポンサーには傘下のニッサンの高級車ブランドである「インフィニティ」を付けるなど、実質的なワークス待遇のチームとして機能してきた。しかし、「メルセデス」の2シーズンに渡る独走と「ルノー」のパワー不足により、V8エンジン時代に築いた蜜月の日々は崩壊。「レッドブル」はルノーとのワークス体制を解消し、他メーカーのパワーユニットを探すことにした。

しかし、そうは問屋がおろさなかった。現在、「ルノー」の他に「メルセデス」「フェラーリ」「ホンダ」の3メーカーが供給している1.6L・V6ターボエンジン+ERS(エネルギー回生システム)のパワーユニット。新時代F1で最強を誇る「メルセデス」、今年になって大幅な改善が見られる「フェラーリ」共にそれぞれのワークスと同等のパワーユニット供給を渋っているとされる。というのも、明らかな劣勢である「ルノー」を搭載する今季の「レッドブル」の戦闘力の高さを見れば、「レッドブル」の車体開発能力の高さが非常に優れていることは誰の目にも明らかで、「メルセデス」や「フェラーリ」にとっては脅威となるからだ。

進まぬ交渉に嫌気を示した「レッドブル」のオーナー、ディートリッヒ・マテシッツは「レッドブル」と若手育成チーム「トロロッソ」のF1撤退を示唆。2016年からアメリカの新規チーム「ハース」が加わるものの、2チーム共に撤退となれば全9チーム18台となり、F1が各主催者やスポンサーに約束する20台の参加台数を下回ることになる。そればかりか、近年のF1のイメージ作りに貢献してきた「レッドブル」の撤退はF1にとって大きなマイナスとなる。何が何でも撤退は避けてほしいのが本音だ。

今のままでは難しいF1の先行き

レッドブルは撤退をチラつかせながら、様々な交渉を優位に進めようとしているのが本当のところだろう。例え「フェラーリ」がパワーユニットの供給をしてくれるとしても、チャンピオンを4回獲得している「レッドブル」がワークスチームと同等ではない旧型を供給されるなんてことは参戦する意味がないからだ。

「レッドブル」と決別した「ルノー」は財政難に苦しむ「ロータス」の買収に合意。実質的には元「ルノー」だった「ロータス」を買い戻す形でワークス活動を再開する方向である。

もう10月後半である。来季のウインターテストの開始は2月後半からを予定しており、例年よりも遅いスケジュールとなっているが、来季用マシンのコンセプトは早急に決定しなければならない状況。そんな中で「レッドブル」「トロロッソ」にはもうタイムリミットが近づいてきている。進退の決定はどう着地するのか全く不透明だ。

そもそも現在のF1にはパワーユニット規定に移行した段階から、潜在的にこういう問題が起こる可能性は存在した。「ロータス」は昨年「ルノー」を使用したが、今季は「メルセデス」のパワーユニットにスイッチした。「ロータス」「ウィリアムズ」「ザウバー」「フォースインディア」といったメーカーに依存していない独立系F1チームは、メーカーにとってみればパワーユニットをレンタルしてくれるカスタマー(お客さん)であるため、お金さえ払えば比較的自由にパワーユニット供給の契約を取り付けられる。本来、「レッドブル」も独立系F1チームなのだが、プライベートチームとしては実力、実績がありすぎるため、今のような状況となっている。

かといって、現行のパワーユニット規定下では、1年遅れて参入した「ホンダ」を除いては新規のパワーユニットサプライヤー参入も見込める状況ではなかった。現在のパワーユニット規定は「熱エネルギー回生」「運動エネルギー回生」を行うハイブリッドであり、自動車メーカー以外の会社が製作、開発するのは技術的にも予算的にも難しい。だからこそ、次なる規定に移行するまでは、各チーム、各メーカーには大人しくしていて欲しかったというのがF1サイドの本音だろう。

1戦あたり2億円。年間予算650億円

4つの自動車メーカーしか作っていないパワーユニット。独立系F1チームがパワーユニットの供給を受けるためのリース料はメーカーによって異なるとされるが、年間1800万英国ポンドという試算がある。日本円に直すと約33億4000万円となり、1戦あたりは1億7000万円程度。新規チームが活動しようとも、動力源だけで1戦2億円近くが必要な現在のコスト高騰ぶりは異常である。

トップチームの年間予算は約600億円以上と試算されており、この予算はパワーユニット規定になってから急激に高騰した。様々な規制を設けても、F1チームや自動車メーカーの覇権争いに対する予算投下は留まることを知らず、レギュレーション(規定)もシーズン前はもちろんシーズン中も細かく変わり、ファンにとっては非常に難解な状況を生み出している。F1が昔からゴシップだらけなのは変わらない事実だが。。。

また、迫力不足の排気音問題も新規定に移行してからの懸念事項である。来季以降は別個のエキゾーストテイルパイプを設ける規定に変更され、パワーユニットの音量アップが期待されているが、これも音量アップのための苦肉の策だが走り出して見るまではわからない。

そして、「レッドブル」「トロロッソ」の撤退を見越してトップチームが3台目のマシンを走らせることも議論されている。また、F1商業面のボスであるバーニー・エクレストンが2013年まで使用したV8エンジン規定の2016年からの導入、さらにはかつてF1のプライベートチームに数多くエンジンを供給した「コスワース」のような独立系エンジンメーカーが標準エンジンを開発、販売できるようにしたいとの意向を示したとの報道もある。各メーカーが挑戦した「熱エネルギー回生」はあっさりやめてしまうことになるのか。

来季に向けて様々な調整を行わなければいけないこの時期に及んで、伝わってくるニュースは突拍子もない話ばかり。高齢のバーニー・エクレストンは引退が目前で、エクレストンに代わってF1を統括することになる新しいオーナー候補が3つあり、今年末までに新オーナーに売却できる見込みであるとも語っている。

世界最高峰のモータースポーツ、F1はいったいどの方向に進むのか、今後どうあるべきなのか。何が議論の中心かすらも分からない状況になってきた。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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