風船構造のやわらかい乗り物や給電を無線で行う技術など 東大・川原教授のプロジェクト成果報告会が開催
JST ERATO川原万有情報網プロジェクトとは
東京大学の川原圭博教授の率いる「JST ERATO川原万有情報網プロジェクト」は2015年に立ち上がりました。
総括の川原教授は、「IoTの次の時代を考えるプロジェクトです。ラズベリーパイやドローン、スマホなど様々な機器が登場していますが、どれも大きかったものを小さくするというものです。マーク・ワイザーが提唱した『日常のあらゆる物に埋め込まれた見えないコンピュータ』を今の技術を使って再考して、万有引力のように情報網が溶け込む技術を目指して『万有情報網』という言葉を使いました。」と言います。
「日常に溶け込む技術を実現するために、電池をわざわざ交換するのではなく、給電を無線で行う技術を研究するエネルギーグループ(グループリーダー:高宮 真教授)。ロボットというと人よりも強くて、重たいものを持てるといった印象がありますが、環境の中に溶け込むために人を傷つけない、しなやかな動きをするロボットなどを研究するアクチュエーショングループ(グループリーダー:新山 龍馬講師)。3次元プリンタが登場して何回でも作り直しができる時代になりましたが、造形物を素材に帰すことによって何度でも作り直せる技術などを研究するファブリケーショングループ(グループリーダー:筧 康明准教授)。この3つの柱でグループを立て、エンジニア、サイエンティスト、デザイナー、アーティストなどダイバーシティに富んだメンバーが集まるプロジェクトとなっています。」(川原教授)
トップの写真に写っているのは風船構造モビリティである「poimo」。普段は小さくたたんでしまっておき、必要なときに取り出して膨らませて使う乗り物です。やわらかい乗り物を実現するために、従来硬質な素材で構成されている車輪やステアリングなどを風船構造で製作しています。
川原ERATOのプロジェクト成果には、ホタルのように空中を飛びまわり自ら発光する極小スケールのデバイス、折りたためる翅をもち環境中を自在に飛び回れるロボット、柔軟な身体を変形させ狭小な場所に入り込むイモムシ型ロボット、衣服など人間が日常生活で使うスケールの道具を生み出したり活動状況をセンシングしたりする技術、人サイズのやわらかいロボットや、人が乗って移動できる乗り物、居住空間を生み出すような造形装置など、魅力的な研究がたくさんあります。
葉っぱの葉脈からヒントを得た無線給電シート
重いバッテリーを必要としない無線給電技術に取り組んだエネルギーグループ。
切り取り可能な無線給電シートはユーザが欲しい形状にカットして使用することができます。配線の工夫については、葉っぱの葉脈からヒントを得たとのこと。葉っぱは虫が多少食べたとしても、葉脈から栄養を取ることができます。同じように中央から放射状に広がるように配線をすることで切り取り可能な充電シートを実現しています。
タイル型の無線給電「Alvus」はマルチホップ型無線給電で、タイルを敷き詰めるだけで無線給電できる範囲をどんどん拡大させることができます。今ある無線給電は位置合わせがかなりシビアなのですが、このAlvusは広い範囲にルーズに置いても給電できることが特徴です。
3次元空間を自在に飛び回るLED光源「Luciola」はまるでホタルのよう。通常であればLEDを光らせるために電池が必要になるところを、無線給電により電池を不要にし、最低限必要な回路だけを専用の半導体チップにまとめることで、小型軽量化に成功しています。
このようにさまざまな無線給電技術が研究されています。
自然の進化の中で昆虫が獲得した翅の折り畳み構造をヒントに
アクチュエーショングループではさまざまな機構・構造を研究していますが、着想のきっかけを身近な自然界を観察するところから得ている点も興味深いです。
昆虫の翅は普段は平面に折り畳まれていますが、飛ぶときにはそれが大きく開きます。例えば「平面に折り畳むことができる」というのは、「山折りと谷折りの本数の差が2」という定理を満たす必要がありますが、多くの昆虫の翅を観察して特徴的な折り畳みパターンの構造を研究することで、可変機構を開発したり、ハサミムシの扇子の展開図を明らかにしたりといったことを行っています。
また、イモムシ型ロボット「Caterpilike」では、シャクトリムシ、イモムシ、ミミズは、それぞれ動きが違うということに着目し、骨もなく柔らかくて全身筋肉でできてる虫がなぜ枝につかまれるのか?などの構造を解明することで、柔らかいものを骨なしで制御するヒントとしたそうです。
様々な3次元プリント技術を使って
ファブリケーショングループでは、様々な素材を用いたものづくり手法が研究されています。
折り畳める素材を利用したラピッドプロトタイピング「Pop-up print」は、大きな造形物を3次元プリントするのは時間も材料も無駄で収納できないといった問題を解決。畳んだ状態で印刷することができる手法です。
また、カラフルで美しいフラワーゼリーは、従来は専用のヘラと針が一体になった道具を用いて手作業で作るといった大変な作業でした。これを解決したのが「Flower Jelly Printer」です。少ないパラメータを組み合わせることでパラメトリックに花をデザインできるCADを作成し、自作のフードプリンターでゼリーに注入していくことで自動化に成功しました。
他にも熱によって膨らみ巨大化する「ExpandFab」や、素材を再利用できる動的な3次元立体造形の「Dynablock」などがあります。
JST ERATO川原万有情報網プロジェクトの最終報告会一般展示
このように魅力的な研究が多いJST ERATO川原万有情報網プロジェクトですが、最終報告会一般展示が2021年10月1日(金)~14日(木)まで開催されます。
■ 一般展示
日時:2021年 10月1日(金)~10月14日(木) 10:00-17:00
場所:東京大学 目白台インターナショナルビレッジ
https://goo.gl/maps/h5qEuXKPCBCZrpx49
入場料:無料
申し込み: 一般展示をご覧いただく際には、事前予約が必要です。リンク先のWebサイトよりご登録ください。
https://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/eratoforum2021
(JST ERATO川原万有情報網プロジェクトHPより引用)
コロナ禍につき、密を避けるため事前予約制での開催となっています。
ここに紹介した以外にもたくさんの技術が展示されておりますので、お近くの方は是非、足を運んでみてはいかがでしょうか。
オープニングイベントではプロジェクト全体を総括するトークが交わされた
また、9月17日に開催されたオープニングイベント(YouTubeLive配信)では、プロジェクトの進め方やアイデアの生まれた背景、異分野の研究者が集まってどのような議論を交わしたのかなど、プロジェクト全体を総括する幅広いトークが繰り広げられました。
2019年頃に川原ERATOプロジェクト内で意識して使い始めた言葉に「Con-vivial(コンヴィヴィアル)」という言葉があるとのこと。
「自立(律)共生」「他者との共存」といった意味がありますが、「同質なものが一緒にいる」「ただそこに一緒に存在している」というわけではなく、この言葉には「同じ場所・時間を分かち合う」「生き生きとしたにぎやかさ」といったニュアンスがあり、「人間同士、人間と環境、人間と自然、人間とテクノロジー、など多面的にとらえて、プロジェクトを進めてきた」とおっしゃる川原先生。
「人工物があらゆる環境に溶け込み、実世界に働きかけ、人間と自立共生しながら新しい価値を生む世界の実現」を目指して、川原ERATOプロジェクトの中で行われた考察は、メンバーの緒方 壽人氏(Takram)の手によって1冊の書籍「コンヴィヴィアル・テクノロジー 人間とテクノロジーが共に生きる社会へ」にまとめられています。
オープニングイベントのアーカイブについては、こちら(https://www.akg.t.u-tokyo.ac.jp/eratoforum2021/#opening-program)から視聴することができますのでご興味のある方はこちらもご覧ください。