「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(7)
それパク第7回目のネタはパテントトロールでした。ドラマを見たことを前提に、簡単な法的解説と感想を書いていきます。なお、未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。
「パテントトロール」のトロールとは、欧州の昔話に出てくる怪物(妖怪)です。橋のたもと等に隠れており、旅人の前に突然現われてびっくりさせたりすることから、特許を使って突然攻撃してくる企業のことをこう呼ぶようになりました。日本語では「特許怪物」と訳されることもありますが、「特許ゴロ」という呼び方の方が適切かもしれません。
簡単に言えば、特許法の目的である産業の発達などおかまいなしに、特許制度を悪用して、不正な利益を上げようとする企業のことです。特に米国では特に大きな問題となっています。
知財関係だと、ドラマとして成立させやすい「大ネタ」なので、今回だけでなく、次回でも扱われそうです(かなり大胆なキャスティングと思われる板尾創路さんがからんできそうなので楽しみです)。
パテントトロールの最大の特徴は、自社では実業を行っておらず、特許権のライセンスをビジネスの中心にしていることです。実業を行っている企業どうしでは、クロスライセンスによってお互いの特許をライセンスしあうことでWin-Winの関係を築くことができますが、パテントトロールにはその戦略は使えません(実業をやってないので特許のライセンスを受けてもうれしくもなんともないからです)。結果的に、相手は不当なライセンス料や和解金を支払わざるを得ない結果になってしまうことがあります(先述のとおり、米国でパテントトロール問題が特に深刻なのは米国の訴訟費用(弁護士費用)や損害賠償金額が高額になる傾向があることから、パテントトロールもボってくることが多くなるからです)。
なお、特許発明を自身では実施せず、特許権ライセンス収益だけをビジネスにしていることだけで、パテントトロールになるかというとそんなことはありません。たとえば、ARMやドルビーラボラトリーズは、パテントトロールと呼ぶことはありません。
今回のケースではパテントトロールと呼ばれる企業が実業を行っており(その点では厳密にはパテントトロールの定義に合致しないです)、自社の実業において死蔵特許を侵害していたことから、一応の解決となったわけですが、現実世界ではパテントトロールは実業を行っておらず、特許権の侵害も発生し得ないのでこういう結末にはなり得ないです。
ところで、ドラマにおけるパテントトロールというと、米ドラマ「シリコンバレー」のパテントトロールの描写がなかなかリアルでおもしろかったです。ネタバレになってしまうのでここで書くのはやめておきますが、ちょっと古いとは言え、今観てもおもしろいドラマと思いますのでご興味ある方は是非観てみてください。
メインストーリーとは直接関係ないところで、新規性・進歩性と先行文献の話が出てきました。パテントトロールの特許を無効にするために、新規性を否定する先行文献を探す必要があるという話でしたが、「なぜ、特許庁の審査官は先行文献を見付けられなかったのか」という点については触れておいた方がよかったと思います。「審査官は全世界のすべての資料をチェックできるわけではないので新規性・進歩性があるという一応の心証を得られれば特許査定する、その見落としを後で見付けられれば特許を事後的に無効にできる」という無効審判の概念が視聴者に伝わったかどうかがちょっと気になりました。
また、休眠特許の権利者から特許を譲渡してもらったことを示すために特許証を見せてましたが、特許権を譲渡しても、特許原簿が更新されるだけで、特許証の内容は変わりませんので特許証を見せる意味はないのですが、テレビの演出としてはしょうがないでしょう(原簿は単なる白黒の紙ペラだからです)。