天才・藤井聡太七段(17)の快挙に世間が脱帽する時、佐藤紳哉七段(42)のカツラも宙に舞っていた
「聡太ロス」の長いトンネルを抜けてみると、そこには将棋界の新しい景色が広がっていました。
コロナ禍により2か月弱ほど対局から遠ざかっていた藤井聡太七段(17歳)。6月に入って復帰するやいなや、すさまじい対局ラッシュの中、目の覚めるような快進撃を続けます。
復帰後の6月2日には棋聖戦準決勝、4日には挑戦者決定戦を勝って棋聖挑戦権獲得。史上最年少タイトル挑戦者として臨んだ8日の棋聖戦五番勝負第1局では先勝。13日の王位戦リーグ最終戦にも勝って5戦全勝で白組優勝。
瞬く内にいろいろなことが起こりました。将棋ファンの皆さんも、ビクトリーロードを疾走していく藤井七段の姿を目で追うだけでも大変ではないでしょうか。
藤井七段の強さは以前から、誰の目にも明らかでした。そしてこうしてまた新たに結果を出されてみると、将棋界の景色もわずか半月で、ずいぶんと変わったように見えます。
さて、そんな怒涛の日々の中。6月2日の棋聖戦準決勝、ABEMAの中継では解説者の一人として佐藤紳哉七段(42歳)が登場しました。
戦型は角換わり腰掛銀となりました。序盤から桂馬(けいま)がどんどん跳ねていくのが現代最新の手法です。
佐藤「▲3七桂から▲4五桂という戦型になったら、僕、ウズウズしちゃうんですけど」
はい・・・。聞き手の中村桃子女流初段が少し警戒気味に笑います。
佐藤「桂馬じゃないですか」
中村「桂馬ですね」
佐藤「(桂の字は)『カツラ』って読むじゃないですか」
中村「はい・・・はい」(苦笑)
佐藤「カツラがとぶわけじゃないですか」
中村「・・・でもまだ午前中ですよ。先生・・・」(警戒気味に苦笑)
カツラ(駒ではない方)が飛んだのは昼食休憩時でした。佐藤七段とともに棋界きってのエンターテイナーである橋本崇載八段(37歳)が大盤の前に立っています。
難しい中盤戦。先手の藤井七段が銀を一つ前に進め、後手の佐藤天彦九段の桂を取ったらどうなるか。
橋本「カツラを外す時は元気よくポーン!」
その声に合わせて佐藤紳哉七段がカツラを投げ上げる。ネットの向こうの将棋ファンは、いつものようにどよめき、拍手喝采を送ります。
ミュージシャンのジェームス・ブラウン(1933-2006)はライブの際、マントをかけられ、それを脱ぎ捨てる定番のパフォーマンスがありました。このマントショー(ケープアクト)をJBのファンは何十年も見守り続けた。同じように、将棋ファンもまた、佐藤七段のパフォーマンスを心待ちにしているわけです。
佐藤紳哉七段の存在は、将棋界の外でも広く知られているようです。
さてその佐藤七段。ABEMAでは次のようにも語っていました。
佐藤「僕、以前、生放送で解説したのが藤井聡太君が29連勝した日だったんですけど、その時僕、カツラを3回飛ばしたんですよ。1回はかつら占いで。2回目は桂馬が跳んだ時にカツラが飛んで。3回目は『29』って書いて29連勝おめでとう。3回カツラを飛ばしたら、3年間ABEMAに生放送、呼ばれなくなったんですよ。だから、僕の予想だと1回につき1年呼ばれないと思って、だから今日はもうね、絶対飛ばさないようにってね、心に決めてやってきたんですよ。だから今日は絶対飛ばさないですよ」
絶対飛ばさないと言うのならば、なぜカツラをかぶってくるのか・・・。視聴者の皆さんは内心、そう突っ込むところでしょう。そして必ずカツラを飛ばしてくれるのが、佐藤七段の素晴らしいところです。
さて、それにしても。人気者の佐藤紳哉七段がABEMAに3年出演していないとは、うかつにも筆者は気づきませんでした。
3年前の竜王戦決勝トーナメント・増田康宏四段-藤井聡太四段戦(段位はいずれも当時)。藤井四段はデビュー以来無敗で、将棋史上最多記録となる29連勝目に挑みました。
将棋界にとっては過去に例のないほどの熱い一日でした。そして藤井四段は見事に新記録を樹立します。
藤井現七段はその後も史上初めて3年連続勝率8割超えを達成するなど、圧倒的な戦績を残してきました。
藤井七段はそれだけ勝っていながら、タイトル挑戦はあと一歩というところで逃してきました。
3年ぶりにABEMAに登場したという佐藤紳哉七段の話を聞いて、なるほど、と得心がいきました。
紳哉さんのあのパフォーマンスと、藤井七段の大記録更新はもしかしたら関係があるのではないか――。
一瞬、そう思いました。・・・関係ないですか。そうですか。
ともかくも、今後も紳哉さんの出演と、アマチュアにもわかりやすく楽しい解説、そして変わらぬ芸に期待したいものです。