果たして「世代を超えたヒット曲は生まれにくい」のか? カラオケ年代別ランキングから検証する
”2021年のヒットの主役”は優里、BTS、YOASOBI、Ado
年末は大型音楽番組のシーズンだ。30日には『第63回 輝く!日本レコード大賞』が放送され、Da-iCEが「CITRUS」でレコード大賞を初受賞。新人賞はマカロニえんぴつが受賞した。31日には『第72回NHK紅白歌合戦』が放送される。
どちらも長い歴史を持ち、昭和の時代には今とは比べ物にならないほどの高視聴率を記録した番組である。であるがゆえに、レコード大賞のノミネートや受賞、紅白歌合戦の出場者をめぐる話題の中で「最近は世代を超えたヒット曲が生まれにくい」というような論旨のコメントがなされることも多い。
でも、実際のところはどうなのだろうか? 果たして今は本当に「世代を超えたヒット曲が生まれにくい時代」なのだろうか? データをもとに検証していきたい。
まず2021年の「Billboard JAPAN HOT 100」の年間総合チャートを見てみよう。CD、ダウンロード、ストリーミング、ラジオのオンエア回数など複数の要素を合算した複合型チャートである「Billboard JAPAN HOT 100」の上位には、現在のJ-POPを代表するヒットソングが並ぶ。その趨勢からわかるのは、ニューカマーの躍進によってJ-POPシーンにさらなる世代交代が起こっているということだ。TOP10は以下の通りである。
1位 優里「ドライフラワー」
2位 BTS「Dynamite」
3位 YOASOBI「夜に駆ける」
4位 LiSA「炎」
5位 YOASOBI「怪物」
6位 BTS「Butter」
7位 Ado「うっせぇわ」
8位 YOASOBI「群青」
9位 菅田将暉「虹」
10位 Eve「廻廻奇譚」
1位は優里の「ドライフラワー」。TikTokをきっかけに注目を集め2020年にメジャーデビューを果たした男性シンガーソングライターの楽曲が息の長い支持を集め、2021年を代表するヒットソングとなった。新曲「ベテルギウス」もスマッシュヒットの兆しを見せている。レコード大賞にはノミネートされず、紅白歌合戦には不出場となったが、優里が2021年の主役の1人であることは間違いない。
そして上位には、もはやグローバルなポップスターとしての地位を確立したBTS、そしてJ-POP代表となったYOASOBIらの名前が並ぶ。Adoの「うっせぇわ」は7位だが、曲名のフレーズは流行語大賞にもなった。こちらも2021年を象徴する曲の一つと言えるだろう。
流行歌の傾向が変わってきた
では、カラオケランキングではどうなっているのか。
株式会社エクシングが12月14日に発表した「JOYSOUND 2021年カラオケ年間ランキング」の上位10曲の結果はこうだ。
1位 優里「ドライフラワー」
2位 Ado「うっせぇわ」
3位 YOASOBI「夜に駆ける」
4位 LiSA「炎」
5位 DISH//「猫」
6位 高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」
7位 あいみょん「マリーゴールド」
8位 YOASOBI「怪物」
9位 あいみょん「裸の心」
10位 菅田将暉「虹」
【参考】 2021年JOYSOUNDカラオケ年間ランキング(総合):
https://www.joysound.com/web/s/karaoke/contents/annual_ranking/2021
カラオケの年間ランキングは、その年の流行や世相を反映する。楽曲が多くの人に口ずさまれた回数のランキングは、ある意味、CDの売り上げやYouTubeの再生回数のランキングよりも的確に流行歌の指標を示す。
そのうえで目を引くのは、優里、Ado、YOASOBI、LiSAなど10曲中6曲が「Billboard JAPAN HOT 100」の年間チャート上位と重なっているということ。また、定番曲の「残酷な天使のテーゼ」を除き、TOP10の全曲がここ3年以内に発表された楽曲であるのも印象的だ。
当たり前のように思う人もいるかもしれない。が、00年代から10年代にかけては「残酷な天使のテーゼ」に加え、MONGOL800「小さな恋のうた」、一青窈「ハナミズキ」、中島みゆき「糸」といった曲が何年にもわたってランクインし、上位を定番曲が占めるのが当たり前となっていた。あきらかに流行歌の傾向が変わっているのである。
「ドライフラワー」も「うっせぇわ」も、10代から50代まで歌っている
では、これらのヒット曲は実際に「世代を超えたヒット曲」になったのか?
JOYSOUNDは総合ランキングだけでなく、会員サービスをもとにした10代から60代までの年代別ランキングも発表している。この結果を見ると、興味深いことがわかる。
【参考】2021年 年代別カラオケ年間ランキング:
https://www.joysound.com/web/s/karaoke/feature/annual_age_2021
詳しいランキングはリンク先を見てもらうとして、率直に言えば、人気曲が意外なほど幅広い世代に受け入れられているのが一目瞭然な結果となっている。
「ドライフラワー」は10代〜50代でTOP5入りし、「うっせぇわ」も同じく10代〜50代でTOP10入り。「夜に駆ける」と「炎」は全世代でランクインしている。
ただし、60代のランキングは他の世代とはがらっと様相が異なっている。1位は『水戸黄門』主題歌の里見浩太朗/横内正「あゝ人生に涙あり」で、2位は高橋真梨子「桃色吐息」。この世代の上位は演歌・歌謡曲が中心だ。
こうして見ると、2021年においては、少なくとも10代から50代までの世代では「最近のヒット曲」を共有していることが明らかになったと言えるだろう。
”ボカロの壁”と”演歌・歌謡曲の壁”
ちなみに、10代のTOP10が20代〜60代のランキングでどういう順位になっているのかをまとめると、下記のような結果になっている。
ここから見て取れるのは、10代のTOP10のうち、50代で5曲、60代でも3曲がそれぞれの年代のTOP20にランクインしているということ。ただ、その一方で、Kanaria「King」、バルーン「シャルル」、DECO*27「ヴァンパイア」といったボーカロイドのヒット曲は上の世代に届いていない、ということ。だいたい30〜40代のあたりに“ボカロの壁”があると言っていいだろう。
一方、60代のTOP10はこちら。
こちらは下の世代とは断絶した往年の名曲中心のランキング。ただし、あいみょん「裸の心」や菅田将暉「虹」が上位に入っているのが興味深い。これらは最近の曲でありながらも、中高年層にも馴染みの深い“現代版フォーク/ニューミュージック”として歌われているのだろう。
世代の断絶は解消してきている
こうした世代間のギャップは、現在に至るまでどう変わってきたのか?
JOYSOUNDは2014年以降、毎年、年代別ランキングを発表している。これらを過去にさかのぼって検証すると、現在に比べても数年前は「世代を超えたヒット曲」が少なかったことがわかる。たとえば5年前の2016年を見ると、世代間のギャップはもっと激しい。
【参考】2016年 年代別カラオケ年間ランキング:
https://www.joysound.com/web/s/karaoke/feature/annual_age_2016
こちらでは、10代がボカロやアニソン中心、30〜40代がJ-POP中心、60代が演歌・歌謡曲中心のランキングとなっている。
ボカロ曲に加え、10代〜20代の間でヒットしているUNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」やMay'n/中島愛「ライオン」は、40代以上には届いていない。一方で60代が歌っている曲も若者にはまったく知られていない。世代を超えたヒット曲としては。この年の総合1位となっているauのCMソング、浦島太郎(桐谷健太)「海の声」が数少ない例外だ。
こうして見ていくと、少なくとも5年前、10年前に比べて、今はむしろ「世代を超えたヒット曲が生まれるようになってきた時代」と言うことができるだろう。