ノート(91) 「乙号証」の開示が始まる
~整理編(1)
勾留36日目
「乙号証」の開示
10月下旬ともなると、さすがに朝も夜も肌寒い。1か月前の入所当時は夜中でも汗がダラダラと流れ、日中には官物のうちわをパタパタあおいで風を起こしたり、濡れタオルで身体を拭くなどしてしのぐ猛暑だったことを思うと、季節の移り変わりは早い。
この日は午後から弁護人の接見があった。検察側から公判で証拠として請求する予定の「乙号証」が開示されたので、弁護人の方でコピーを作成し、差し入れたとのことだった。
民事裁判では、当事者がそれぞれ取調べを請求した証拠のうち、原告側のものを甲号証、被告側のものを乙号証と呼ぶ。これに対し、刑事裁判では、甲も乙も検察側が請求した証拠だ。
このうち、乙号証とは、被告人関係の証拠、具体的には被告人の供述調書のほか、戸籍謄本や住民票など身上経歴に関する証拠や、前科調書、判決書といった前科前歴に関する証拠を意味する。
他方、甲号証とは、捜査報告書や被害者、目撃者、関係者の供述調書など、それ以外の証拠を意味する。また、弁護側が請求した証拠は、弁号証と呼ぶ。
これらの証拠は、取調べを請求した順に甲1、甲2、甲3とか乙1、乙2、乙3、弁1、弁2、弁3などと番号をつけ、峻別している。刑事裁判では、まず甲号証を取り調べ、次に乙号証、弁号証の順に取り調べるのが基本的なルールだ。
憲法も刑事訴訟法も自白だけでは被告人を有罪にできず、それ以外の補強証拠を求めているし、有罪の立証責任を負う検察側の立証が弁護側の反証よりも先行すべきだからだ。
証拠分け
検察は、事件の捜査を終え、被疑者を起訴すると、捜査段階で収集した多数の証拠に改めて目を通す。公判を担当する検察官の仕事だ。その上で、起訴した事実を立証するために公判に提出する証拠を選び出し、請求すべき順に並べ替える。それ以外の証拠が、不提出分となる。
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