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【杉並区】「うな丼」ランチは驚愕の1800円!国産鰻の希少部位を串で堪能できる荻窪の老舗酒場『川勢』

酔街草エディター・ライター(東京都杉並区)

鰻と言えば、「土用の丑の日」の風習からして真夏が旬だと思われがちだが、鰻が最も美味しくなるのは、産卵や冬眠に備えて脂の乗りが良くなる秋から冬だと言われている。

諸説有るものの、江戸時代に平賀源内が「土用の丑の日」のキャンペーンを発案した理由も、夏場の鰻屋が閑散としていたからという実態に基づいているそうだ。

酔街草も鰻好きの端くれとして、老舗店の存在感溢れる鰻重に愛着があるが、そうそう高嶺の花に手を伸ばす訳にはいかない。

そんな中、荻窪にあって”我が意を得たり”とばかりに足を運ぶのが、「うな串」を肴に酒が呑める『川勢(かわせ)』である。

中野の名店『川二郎』で修行した店主・鈴木康治さんが営む『川勢』は、昭和61年(1986年)の創業。国産の鰻にこだわったリーズナブルな価格設定が持ち味で、多くの荻窪民からの支持を得ている老舗の酒場だ。

昭和を感じさせる古き良き商店街の一画に『川勢』はある。
昭和を感じさせる古き良き商店街の一画に『川勢』はある。

一見さんには入るのに勇気がいる店構えかも知れない。
一見さんには入るのに勇気がいる店構えかも知れない。

JR荻窪駅の北口を右折して徒歩で約1分、バスロータリーが途切れた先の「荻窪北口駅前通商店街」のアーケード内に入り、ラーメン店『丸福』、喫茶店『邪宗門』を横目に奥へ向かうと『川勢』の白いスタンド看板が見えて来る。

店内の1階には12席のカウンターがL字に配され、2階にも卓上席がいくつか用意されている。鰻の煙に燻されて飴色になった厨房の壁や戸棚は、店の歴史と昭和感溢れるノスタルジックな趣を漂わせている。

ランチタイムの正午前や夜営業の始まる17時前には常に行列が出来る人気店で、「土用の丑の日」ともなれば、アーケードの駅寄りの端まで列が伸びるというのも、もはや恒例となっている夏の風物詩だ。

『川勢』の「うな串」は、もともと希少な国産鰻の希少な部位を使用するとあって、その日に提供される数量は限られる。17時に掲げられたばかりの暖簾が19時前には下げられてしまうことも日常茶飯事なため、常連客は開店と同時に一斉に店内へとなだれ込む。

原則、予約は不可。最近では、店主ともう一人のみで切り盛りしているため、焼き台から手が離せずに電話が鳴りっ放しとなる事もしばしばだ。

壁には串の部位が良く分かる図が貼られている。
壁には串の部位が良く分かる図が貼られている。

そもそも「うな串」とは、鰻を部位ごとに捌いて串焼きにしたもの。

今でこそ「焼き鳥」や「モツ焼き」、「串揚げ」と並んでスタンダードになった感があるが、意外にも始まりは戦後からとその歴史はまだ浅く、東京をはじめとする関東圏を中心としたローカルな串焼きのスタイルでもある。

小さめのスツールに着席するや否や、「お通し」であるキャベツとシソの実を和えた浅漬けの小皿が出される。

「うな串」は、最初に『一揃(ひとそろい)』の6本を食してから、単品を追加注文するというのがこの店の流儀なのだが、メニュー表のどこにも『一揃』とは書かれていないので、初めて訪れるなら「串焼きをセットで~」と注文するのが無難であろう。

ちなみに夜の〈うな丼〉(2000円)は、本来なら『一揃』を平らげてから注文できる〆(しめ)の飯である。〈うな丼〉のみが目的なら、昼のランチタイムに訪問するかテイクアウトすることをお勧めしたいところだ。

ランチサービスの〈うな丼〉は、1800円と夜に比べて安価で提供している。酔街草は値段のサービスではなく”『一揃』をスキップして食べてもいいと言うサービス”だと思っているのだが、真偽のほどは定かではない。

お通しの浅漬けと〈きも刺し〉。
お通しの浅漬けと〈きも刺し〉。

カリカリとした〈カルシューム〉はビールによく合う。
カリカリとした〈カルシューム〉はビールによく合う。

まずは瓶ビールを注文し、浅漬けを串2本を箸代わりにして摘みながら、焼き上がりを待つことになる。

サッと出してもらえる〈カルシューム(骨せんべい)〉(250円)や、ニンニク醤油で食べる〈きも刺し〉(650円)を頼むのもいい。ただし、〈きも刺し〉は開店と同時に売り切れ必至なので、うかうかしていてはあり付けない。

炭火で丁寧に焼き上げられる串は、最初に〈ばら焼〉〈きも焼〉〈ひれ焼〉の3本が、次に〈串巻〉〈八幡巻〉〈短冊〉の3本がデフォルトで提供される。

売り切れの品がある場合は、店主の「有りものでいい?」との断りが入って、他の串に代わったり本数が減ったりする。いずれの場合も『一揃』の料金は、出されたものの合計金額だ。

酔街草の場合、前半の3本をビールで嗜み、後半の3本からは日本酒か焼酎に移行して、別串を2本ほど追加するのがいつもの流れである。

左から〈ばら焼〉〈きも焼〉〈ひれ焼〉。好みで山椒を振って。
左から〈ばら焼〉〈きも焼〉〈ひれ焼〉。好みで山椒を振って。

〈ばら焼〉(290円)は、鰻の腹骨周辺の身を集めて焼いたもので、脂が乗っていて凝縮した鰻の旨みが感じられ、最高のイントロとなる。

〈ひれ焼〉(290円)は、背びれ、腹びれなどをニラと一緒に巻きつけた串で、このニラが良い仕事をしており、風味も抜群。

〈きも焼〉(290円)は、肝臓(れば)以外の腸や胃袋、浮き袋などの内臓一式をまとめた串で、プリッとした歯ごたえとほんのりとした苦味に酒が進む。

運が良ければ超希少な〈れば焼〉(290円)に代わる場合もあり、こちらは1串に10匹分の肝臓を使うとあって、仕込みの大変さを想像してしまう代物だ。

左から〈串巻〉〈八幡巻〉〈短冊〉。
左から〈串巻〉〈八幡巻〉〈短冊〉。

〈串巻〉(290円)は、縦に細長く割いた鰻の身をくねらせるように串に刺して焼いた、いわゆる〈クリカラ焼〉である。味わいが異なる背中の身と腹の身が同時に楽しめる逸品なのだ。

〈八幡巻〉(400円)は、〈串巻〉と同じように縦に細長く割いた鰻の身をゴボウに巻きつけて焼き上げたもの。鰻とゴボウの見事な調和に絶句すること請け合い。

〈短冊〉(400円)は、ひと串サイズの蒲焼で鰻本来の身の旨味を堪能できるとあって最高のフィナーレとなる。

〈はす焼〉は塩味でオーダーしてみたい。
〈はす焼〉は塩味でオーダーしてみたい。

もちろん、この『一揃』だけでも鰻を丸ごと食べ尽くした満足感があるのだが、別メニューにある、頭の部分の身を集めて串にした〈えり焼〉(290円)や、ニラの代わりに蓮根を使った〈はす焼〉(290円)も外せない。

〈ねぎ焼〉〈ししとう焼〉〈しいたけ焼〉や、季節物の〈ぎんなん焼〉(各250円)といった野菜を追加するのもいい。

年季の入ったタレはきつ過ぎず、かといって鰻の脂に負けない濃さで、やや甘めなのが特徴。もし同じ串を追加したいなら、好みで塩味で注文するのも一興だ。

開店当初から変わらない品書き。
開店当初から変わらない品書き。

〈まぶし丼〉は鰻の身を細かくして混ぜご飯にしたもの。
〈まぶし丼〉は鰻の身を細かくして混ぜご飯にしたもの。

日本酒は、秋田の「両関」が定番。10センチ幅しかないカウンター上部に置かれる受け皿付きのコップに並々と注がれるので、溢さぬように降ろす際にはコツが必要だ。

燗酒は、以前はやかんで燗をつけた後、保温用のポットから注がれる独特なスタイルで、中野『川二郎』からの伝統なのだそう。

キンミヤ焼酎は、梅割りなどはなくストレートでの提供となる。注文は3杯までと、これまた古典的な酒場では常套の呑兵衛への戒めである。

店中に鰻の香ばしい匂いが漂う。
店中に鰻の香ばしい匂いが漂う。

夜バージョンの〈うな丼〉。これに吸物が付いて2000円は庶民の味方だ。
夜バージョンの〈うな丼〉。これに吸物が付いて2000円は庶民の味方だ。

ご存じの通り、昨今の鰻の高騰ぶりには目を覆うものがある。

『川勢』とて度重なる値上げを余儀なくされて来たのだが、それでも庶民的な価格を維持しているのは、店主の並々ならぬ努力の賜物であろう。

文字通りの”燻し銀のうな串”を、いつまでも提供し続けていただきたいものだ。

さてさて今宵も大満足、ご馳走様~!

川勢

住所:東京都杉並区上荻1-6-11

営業時間:12:00~14:00、17:00~22:00 (売り切れ次第終了)

定休日:日曜日

*支払いは現金のみ

エディター・ライター(東京都杉並区)

中央線沿線の街並みとお酒をこよなく愛する、元・雑誌編集者です。長年に渡って杉並区の荻窪に在住。居酒屋、グルメに関する話題・スポットをはじめ、季節のイベントなどを中心に、皆さんの役に立つ情報を発信して行きます。

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