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〈カムカムエヴリバディ〉算太、モモケン、虚無蔵 おじさまたちが大活躍で、ヒロインひなたはどうなる?

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
『カムカムエヴリバディ』より 写真提供:NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)第83回では映画『妖術七変化 隠れ里の決闘』を巡る2代目モモケン(尾上菊之助)と大部屋俳優・伴虚無蔵(松重豊)の確執が描かれた。一本の映画がひなた(川栄李奈)、算太(濱田岳)、五十嵐(本郷奏多)たちの運命をも動かしていく。胸が熱くなる第18週を担当したのはこれまで『カムカム』に助監督としてついていた28歳の若手・石川慎一郎さん。「第18週はひなたと五十嵐のラブストーリーをしっかり描くことを意識しました」と言う石川さん。ひなたと五十嵐の恋も若い感性で爽やかに撮った。石川さんに第18週の注目ポイントを伺いました。

――第18週ではひなたと五十嵐の関係が進展します。

石川慎一郎(以下 石川)「第15、16週の本読みを見て、ふたりには出会うべくして出会ったというような運命を感じました。川栄李奈さんと本郷奏多さんもそういう演技をされていたのでそれを忠実に撮りました。ひなたと五十嵐のやりとりはくすっと笑えるところがあって甘くなり過ぎないところが良さだと感じていましたが、時代劇好きで勇ましい印象のひなたも恋をすると変わっていって、甘く優しい雰囲気も出てきます。お祭りの場面の浴衣などもごくふつうな女の子の“恋“を意識して選びました」

ーー第83回の「妖術七変化」のオーディション場面はいかがでしたか。

石川「モモケンと虚無蔵は『カムカム』にとっての2大巨頭なので緊張もありましたがふたりの醸し出す雰囲気に乗っかって撮影ができました。虚無蔵が最後、笑顔で去っていくところはある種、虚無蔵とモモケンの物語が完結するところだったので撮っていて楽しかったです。虚無蔵とモモケンの物語ではあるけれど、ひなたもそこで救われるといいなと思って、松重さんにもうちょっと笑顔の塩梅をあげてもいいんじゃないかと相談しました。本番、振り返った虚無蔵さんの表情をみて、胸が熱くなりました。モモケンと虚無蔵のこれまでのわだかまりがスっと解けていく感覚。自分の想像を超えたお芝居のおかげで、そのあとのひなたの笑顔もより一層、味わい深いものになったと感じました」

ーー「私はスターですよ。大部屋なんかに軽々しくこえはかけません」というモモケンの台詞は両義的だしそれこそ微妙な塩梅が必要なのではと思いますが石川さんはどう捉えましたか。

石川「台本のト書きには『偽悪的に』と書いてありました。そのバランスがすごく難しいと思いましたが、尾上菊之助さんが、大部屋とおれは違うと言いながらも優しさがあふれているような表情を一発で表現してくださってすばらしいと思いながら撮影しました」

ーー『カムカム』にとっての2大巨頭とおっしゃるようにモモケンと虚無蔵の関わりは『カムカム』でとても重要な柱のひとつのように感じます。『カムカム』で初めての演出でこの重要な回を任されたお気持ちはいかがでしたか。

石川「個人的な話になってしまいますが、僕はBK(NHK大阪の略称)が初任地で、これまで朝ドラ『まんぷく』やよるドラ『閻魔堂沙羅の推理奇譚』に携わり、今回、はじめて朝ドラの演出をしました。『カムカム』に参加したときから最後までやりたいと願いながら現場について、ずっと皆さんのお芝居を見てきました。第18週の月曜日、虚無像とモモケンの芝居がはじまって、僕と年の近い、ひなたと五十嵐のエピソードの演出をさせてもらう中で、これまで先輩たちが紡いできたものを崩さないように心がけつつ、28歳の自分の感性で撮れるものをしっかり撮っていきたいと考えました」

――第84回の算太も印象的です。

石川「第84回では算太さんもすばらしい芝居をしてくださいました。小豆のおまじないのシーンはモモケンの話を受けて、親父との関係を思い起こし、「たちばな」の思い出が蘇ってほしいと濱田さんとは話しました。これまで物語がずっと繋がっていることを感じられるシーンになったと思います。そのまま算太が姿を消した理由は、安子(上白石萌音)がるいの元からいなくなった原因をつくったことに申し訳なさがあったのではないかと濱田さんとは話しました。算太はこの後(あと)もまた登場しますので楽しみにご覧ください」

◯取材を終えて

朝ドラは後半になると若手が演出を任されるようになる。こういうこともまた先輩から後輩へ、朝ドラの伝統が引き継がれていく儀式のようで楽しみのひとつ。スタッフの方々の取材はリモートで行っていて、制作統括の堀之内礼二郎さん、第17週演出担当の安達もじりさん、第18週の石川さんがリモートに参加していた。映画デートの話題になったとき、安達さんと石川さんの間で軽いやりとりがあった。ひなたと五十嵐の座り位置をるい(深津絵里)と錠一郎(オダギリジョー)と同じにしたと言う石川さんに「安子と稔(松村北斗)は逆でしたね」と笑う安達さん。その雰囲気が現場を共にしている人たちならではの空気を感じてほっこりした。もちろんほのぼのやっているわけではないだろう。緊張感ある制作の現場ながらチームでいろいろ話し合いながら作っているのだろうなあと思ったのだ。『カムカム』の放送もあと一ヶ月。みんなで練り上げたすばらしいクライマックスが待っているに違いない。

『カムカムエヴリバディ』 写真提供:NHK
『カムカムエヴリバディ』 写真提供:NHK

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

毎週月曜~土曜 NHK総合 午前8時~(土曜は一週間の振り返り)

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢

作:藤本有紀

プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香

演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史 二見大輔 泉並敬眞 石川慎一郎

音楽:金子隆博

主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈

語り:城田優

主題歌:AI「アルデバラン」

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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