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韓国で「鬼滅の刃」大絶賛 「反日」乗り越えた現地の評価は

韓国で発売中のコミック版「鬼滅の刃」。記事は主に劇場版アニメを紹介するものです(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

鬼滅の刃が韓国でも大人気だ。

「劇場版の無限列車編は、韓国でも封切り初日の1月27日からディズニー系アニメーション『ソウル』※をかわして興行成績で1位を獲得。初動こそ一日天下でしたが、拡大版が封切りになるや1位を奪還。これ以降も『ソウル』と1位を争っている状況です」(「スターニュース」芸能担当カン・ミンギョン記者 ※邦題は「ソウルフルワールド」)

韓国メディアを対象とした取材を続けていくなかで「コロナ禍では大成功といえる」という評価も聞こえてきた。2月13日現在の累積観客数は59万367人。2月上旬には韓国全体で前売り券の50%が売れるという状況にまでもなった。

韓国国内の配給会社「CGV」はこの好況に音響効果などがダイナミックな4DXとIMAXのフォーマットでの公開も決定。これも人気を後押ししている。

そもそも、前評判から凄かったという。カン記者が続ける。

「無限列車編は公開前から熱い関心は予想されていましたよ。マニア層からは『日本では千と千尋の神隠しを超えて歴代興行記録1位』という触れ込みでしたから。韓国では封切りを指折り数える、という人もいましたよ」

「鬼滅」の存在が韓国で初めて報じられたのが、2019年4月のことだった。この月からアニメ専門のケーブルテレビ局で放映が始まった。同年秋には「日本でのコミック本の販売数が『ONE PIECE』を超えた」と話題に。また2020年4月には韓国内で本作を巡る盗作騒ぎまで起きた。国内のゲーム開発会社が配信したモバイルRPGのタイトルがなんと「鬼殺の剣」。イラストもそっくり。盗作は由々しき事態ではあるが、逆に短期間で「パクられるほどの人気」となった証でもある。

(国内大手の劇場「MEGA BOX」公式アカウントでは、昨年11月に試写会に参加したスタッフが涙を流す様子がアップされている)

韓国での「日本アニメ」のポジション。“日本人像”のひとつ! 

鬼滅の刃がどれほど韓国で人気か、という本論に入る前にまず重要な大前提を。

“アニメとは間違いなく「韓国の見る日本像」の大きな比重を占めるもの”

「イルパ」あるいは「イルポン」という言葉がある。イルは「日本(イルボン)」の「日」。「パ」「ポン」の由来を説明し始めると話が長くなるのだが…この言葉の意味については、2019月8月11日の「ソウル新聞」ではこんな解説がなされている。

「日本を妄信的に愛する人だと卑下するスラング」

いわば”反日ワード”のひとつなのだが…ここで重要なのは「国家間の関係が悪くとも、思わず楽しんでしまうほど魅力のある分野」が存在するということだ。

一般的に「イルパ」「イルポン」が好む分野は「アニメ、漫画、アダルトビデオ」とされる。また2019年夏の「ホワイト国除外問題(不買運動)」が起きる前までは、LCCを活用した「日本旅行マニア」もこのカテゴリーに入っていたと言っていい。

その名も「イルポンドッコム」。日本流のアスキーアートや漫画を好む様子がうかがえる。サイトトップページをキャプチャ
その名も「イルポンドッコム」。日本流のアスキーアートや漫画を好む様子がうかがえる。サイトトップページをキャプチャ

この好まれるジャンルのうち、日本の漫画については、韓国では長年海賊版が横行していた。この国が文学的及び美術的著作物の保護に関する「ベルヌ条約」に加盟したのは1996年だったためだ。いっぽう、アニメについては日本側と正規契約したものが見られてきた。今の45歳以上なら、「ドラゴンボール」「スラムダンク」などは日本と変わらないほどの認知度だ。50代の国内スポーツ新聞元デスクが言う。

「私のような古い世代だと、70年代に『妖怪人間ベム』『海底少年マリン』という作品を見たところから始まります。地上波で放映されていましたよ。その後は『マジンガーZ』『銀河鉄道999』『1000年女王』も人気がありました。しかし80年代に入り、全斗煥政権になってからは日本のアニメがテレビで見られなくなったんです。大統領夫人が『アニメは有害』と夫に意見した、との噂もずっとありました」

90年代中盤からは、韓国でPC上の通信やネットカフェが流行。この時代に過去の日本アニメの思い出を共有するやりとりも大いに活発になったという。その後2000年代以降は「千と千尋の神隠し」など宮崎駿作品が流行。これは受験熱の高い国にあって「アニメは悪いもの」という認識を変えた。作品性を楽しむものとしても捉えられはじめているのだ。近年では「ONE PIECE」も大きな人気を得た。世界での評価と同じく「日本アニメ=クオリティの高いものが多い」と見られているのだ。ちなみに「キン肉マン」「キャプテン翼」の認知度は低い。

韓国にとっては「日本統治時代の話」でもある

こういった流れの上に登場した「鬼滅の刃」。

なぜ人気が出たのか。もちろん「”名門・日本”から出てきた最高傑作」という触れ込みがあった。

いっぽうでこういった見方もできる。

この作品のストーリーの時代設定は「大正時代」。西暦では1912年から26年までの間だ。

つまり韓国にとっては「日本の統治時代の話」ということでもある。これは忌々しい時代には違いないが、いっぽうで韓国の歴史の教科書でも長い分量が割かれる時代でもある。時代背景が「ピンと来やすい」という面はあるだろう。

とはいえ、韓国での劇場版では「炭治郎のイヤリングが旭日旗を想起させるため、デザイン変更になった」という批判的な面も国内で記事になっているが。

「国内の劇場を占領した日本の右翼漫画? 『鬼滅の刃』とは何か?」

(「朝鮮日報」2月10日)

「韓国上陸の日本アニメ『鬼滅の刃』…旭日旗が消えた理由は?」

(「毎日経済新聞」2月2日)

後者は国内最大の経済紙による記事だが、こんな解説が加えられている。

「作品のみをしっかり作ればいいという時代は終わった。映画産業でも『政治的な正しさ』の風が強く吹いている影響。つまりは政治的な思想を伝える場合、人種・民族・宗教・ジェンダーを考慮した用語を使用しなければならないという考えだ」

そのほかには「戦闘シーンがリアル過ぎてトラウマになる心配がある」と医師が指摘する記事が見られたりもした。

韓国の伝統思想にもハマった?

とはいえ、「家族の教えを守り、家族のために戦う」というストーリーは、儒教思想の影響からも共感を呼んでいる。「スポーツ京郷」のイ・ユジン記者がいう。

「鬼滅の刃を見た韓国人は作画の素晴らしさと演出が見どころだと言っています。ストーリーに没頭できる、圧倒的に優れた音楽に対する賞賛も相次いでいます。私も見ましたよ。個人的な考えですが、明瞭なストーリー、高いクオリティの作品だということに合わせ、家族愛を扱っているという点でもアニメマニアのみならず大衆の好みにばっちりハマったのだと思います」

家族愛、という点は大いに重要なキーワードだ。1月28日に国内メディア「インサイト」がこんな記事を掲載した。

「涙腺崩壊 大人の男性も泣かせる 鬼滅の刃 4つの感動シーン」

韓国の目線から「無限列車編」の印象的なシーンを紹介しているのだ。

①冒頭の家族を失うシーン

②鬼殺隊の柱であり、炎柱である煉獄の死

③妹に向けた炭治郎の子守唄

④師匠と夢で再会する善逸

いずれも儒教的な「孝(目上の家族に尽くすこと)」「忠(家族以外の目上の者に尽くすこと)」が描かれたシーンでもある。

…もちろんそういったおカタい話でアニメを楽しんでいるわけではない。国内最大のポータルサイト「NAVER」内の「NAVER映画」での評点は次の通りだ。 

記者 6点/10点満点

映画観覧者 9.62点/同

ネットユーザー 9.23点/同

「大絶賛」というところ。

ここには読者がコメントを書き込む欄があるが、「いいね!」などのリアクションの多かったもののうち、上位を最後に紹介しよう。

本当に面白かった。最後の戦闘シーンはアニメーションとしては最高だったんじゃないか。

共感(いいね!、以下) 1087 非共感 320

うわー これを見なかったら人生の半分を後悔しないといけないでしょう。

共感1302   非共感608

映画を見て泣いたことはほとんどなかったんだけど 煉獄…愛していますT.T.

共感891   非共感312

ストーリーと作画、BGMすべてが完璧な映画。観ないと後悔します。

共感705  非共感245

40代のおじさんが涙・鼻水がでズルズルになって枯れました…

共感684   非共感265

映像美が本当に素晴らしい。アクションシーンが予想より派手で観ていて楽しかった。

共感508   非共感166

二言で片付く。絶対 後悔しない

共感471  非共感181

作画、映像美、ストーリーすべてが最高でした。戦闘シーンは本当に歴史的と言っていいほど。

共感409  非共感140

何も言わず観てみてくださいTT 演出がすごく良くて、悪いところがなかったT.T.

共感348   非共感127

好評を受け、2月21日にはアニメ編のシーズン1がNetflix韓国版で公開となった。こちらも4日目にして韓国内での再生回数トップ3に入る人気ぶり。国境を越えた人気は当分続いていきそうだ。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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