1度目は天真爛漫、2度目は貫禄。全米女子オープン2勝を挙げた笹生優花が大切にしてきたもの #ゴルフ
笹生優花が2度目の全米女子オープン制覇を果たした。
初めて勝利した2021年は、米LPGAのオフィシャルから即座に米LPGAに出場できる権利を獲得したことを告げられ、「Are you kidding me(冗談でしょ)?」と驚き交じりに大きな声を上げて喜んだ場面が印象的だった。
後に聞いたところ、あのとき彼女は、レギュラー大会で優勝したら2年シードがもらえることは知っていたものの、メジャーで勝ったら5年シードとは「知らなかったので、びっくりした」そうで、そんな天真爛漫さと初々しさが眩しく輝いた初優勝シーンだった。
そして、2度目の勝利を挙げた今年は、18番グリーンでしっかりパーパットを沈め、大観衆の拍手や歓声に応える姿にも、優勝トロフィーを掲げる姿にも、落ち着きと貫禄が漂っていた。
初優勝から今日までの3年の歳月は、それほど彼女を成長させたということなのだろう。
いや、正しくは、3年の歳月が流れた中で「それほど彼女が成長した」と表現するべきなのだと思う。
1度目の優勝から、少し時間を置いた2022年に、笹生と1対1で、じっくり話をする機会があった。そのとき彼女の幼少期の話や日ごろの移動時の話を、たくさん聞かせてもらったのだが、強く印象に残っているのは、人知れずコツコツ積んできた彼女のひたむきな努力の数々だった。
笹生はフィリピン生まれの22歳。父・正和さんは日本人、母フリッツィさんはフィリピン人で、笹生は4歳まではフィリピン、5歳からは日本で暮らしていた。
だが、ゴルフに興味を覚え、プロを目指すと決めた8歳からは、より良い練習環境を求めてフィリピンへ。そこで下半身強化のために重りを付けて歩いたり走ったりの厳しい鍛錬を積んだ。
10歳からは「アメリカを目指すなら絶対に必要」と考えて、毎日、ゴルフの練習後に英語学習にも3年間、通い続け、英語をマスターした。
何よりも驚かされた彼女の努力は、2021年に全米女子オープンで勝利してメジャー・チャンピオンになった後も、転戦時には空港のバゲージクレームでスーツケースやゴルフバッグを拾い上げると、全部、自分で担いでレンタカーのシャトルバス乗り場まで運び、シャトルバスに乗せ、レンタカー置き場で再び自分で下ろし、そしてレンタカーに積み込んでいるという告白だった。
「カートは使わないです。だって、日本はカートはタダですけど、アメリカは6ドルとか、7ドルとか高いです。だったら自分で引っ張ろうって!」
厳格ではっきりモノを言う父・正和氏は、「チーム」という名のスタッフを大勢伴って集団で移動する転戦スタイルを嫌い、「アメリカでそんなことをやっているのは日本人だけですよ」と言っていた。その言葉を聞いた私も「本当に、その通りですね」と思わず頷き、意気投合した。
そして笹生自身は、重い荷物を運ぶスタッフを伴わずに自分自身で運ぶことは、「これをやるだけで、筋肉が付くので」と笑顔で言った。そんなふうに彼女は何に対しても前向きで明るかった。
2021年の全米女子オープン制覇以来、勝利は無かったが、彼女は決して焦ってはいない様子だった。
「もちろん勝ちたいけど、勝つまでのプロセスが大事。やるべきことをしっかりやっていれば、結果はついてくる。勝ちたいし、メジャーは全部勝ちたい気持ちはあるけど、一番の目標は世界一になること。1日でも、そこに近づくことができたらって思っています」
最初の勝利から今日までの3年間、笹生は「やるべきことをしっかりやって」勝利に近づいてきた。その歩み、その成長こそが、彼女が言った「大事なプロセス」だったのだろう。だからこそ、「結果はついてきた」のだろう。
米TV中継局のアナウンサーが、こう明かしていた。
「ユーカ・サソウは、毎朝3時半に起きて、ミラーの前で素振りをするのだそうです。アメイジング(素晴らしいですね)!」
その通り、笹生が積んできた努力、大事にしてきたプロセスは、本当にアメイジング(素晴らしい)だが、何よりも素晴らしいのは、彼女がもっとも重んじてきたものが、ゴルフの技術や成績ではなかったという点だ。
「まずは人間性だと思うんです。フィリピンにも日本にもジュニアのころから応援してくれて今も支えてくれている人たちがいる。みんながいなかったら自分はここにいなかった。いろんな経験をしたら、いい人間になれる気がしているので、そうなれるように頑張ります」
表彰式で笹生は、フィリピン国籍でエントリーした2021年の勝利は「母へ捧げたい」、日本国籍で戦った今回の勝利は「父へ捧げたい」と言った。「私が勝った」「私の勝利」とは言わないところが、いかにも彼女らしかった。
いつぞやのインタビューのあと、私は自ずと拳を握り締め、自分の原稿の最後に「優花、頑張れ!」と記した。
彼女が2度目の全米女子オープン制覇を果たした今は、原稿を書く前から、「優花、やったね!」と拳を握り締めた。