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部活動はファンを生み出す場所

杉山茂樹スポーツライター

スポーツの部活動。一番の矛盾は、全国大会出場とか、県大会出場とか、部員全員がウソでも同じ目的で活動しなければいけないことだ。レギュラーも、サブも、サブにも入らない部員も、だ。

試合に出ている部員、プレイが巧い部員と、そうではない部員とでは、モチベーションに差があって当然。どんなに頑張っても、試合に出られそうもない部員に、レギュラーが確約されている選手、レギュラー争いをしている選手と同じレベルのモチベーションを課すことは現実的に無理。理不尽な話だ。

サッカー部は、ひとつの高校にひとつしかない。サッカーをしたい生徒はそのまま入部するのが自然な流れだが、サッカーをしたいといっても、程度はそれぞれ。死にものぐるいでやりたい部員もいれば、本音を言えば、そこそこでいい部員もいる。学業との兼ね合いもある。

通学時間もそれぞれだ。みんな同じ境遇で部活に参加しているわけではない。週4日なら喜んで練習に出るけれど、6日はきついと思っている部員の方が多いはずだ。サッカーがものすごく好きでも、だ。

サッカーで上を狙えそうな部員、将来、飯を食っていける可能性のある部員は、死にものぐるいで頑張れるかもしれないが、部員の中には、サッカーは高校までと決めている部員もいる。サッカー部に所属する目的も様々だ。

だが全員、上を目指すかのような真剣さで毎日の練習に参加する。一度も試合に出なかった部員が、3年までやり続けたことがよく美談になるが、これは本当に美しい話だろうか。美しい話として処理をしておかなければならないところに部活動の嘘くささがある。

大学には体育会サッカー部と同好会がある。一応、選択肢がある。それが高校にはない。中学にももちろんない。繰り返すがチームは一校にひとつ。部員が50人いれば、補欠は大量に発生する。最近はAチーム、Bチームに分かれているところも珍しくないが、Bチームが出場できるのはあくまでも非公式戦。ひとつの大会に同じ学校から2チーム以上出場できる公式な大会はない。

全国高校サッカー選手権は、高校サッカー日本一を決める大会ではあるけれど、補欠を大量に発生させる大会でもある。試合に出て活躍する部員のための大会、弱者を切り捨てる大会とも言い表せる。

高校時代、控えだったその経験が、その後の人生に役に立つ時が必ず来ると大人は言う。実際、そうしたケースはあるのかもしれない。だが、それがよい経験に思えるのは、ずいぶん先の話だ。その前に、もうサッカーはこりごりと、サッカーから離れる人の方が多いだろう。

Jリーグの選手を見ていても、補欠がいかに面白くないかは一目瞭然になる。チームが勝っても、試合に出場しなかった選手は明らかに浮かない顔をしている。日本代表もしかり。W杯の最終メンバーに入っても、1試合も出場しなかった選手は哀れを誘う。監督を殴り倒したい気持ちでいっぱいだろう。

実際、不満を隠さない選手もいる。もっと言えば、チームが勝っても、自分が活躍できなければ一緒に喜ぶことはできない。少なくとも9割はそんな感じだ。これが選手の自然な姿だと僕は思う。

とはいえこちらはプロなので、それも致し方ない面もあるが、部活動はプロではない。運動部の部活動は精神を鍛錬する場という側面がある一方で、スポーツを楽しむ場であり、スポーツ好きを養成する場所でもある。将来優秀な選手を生み出す場所でもあるが、ファンを生み出す源でもある。視聴率や販売部数、観客数を支える人たちでもある。

スポーツに対して良いイメージをもって卒業することが、部員にとっても、日本のスポーツ界にとっても一番重要なことではないかと思う。

そしてそれをいい感じで後押しするのが、顧問の務めに他ならない。

「あの先生と出会ったことで勉強が好きになった」とは、先生に対する最高の褒め言葉だと思うが、

「あの顧問の指導を受けて、いっそうサッカー好きになった」も同じことだと思う。

指導者にはスポーツの、サッカーの面白さ、魅力を伝えられる人に就いて欲しいものである。でなければ、苦しい練習を強いる資格はないと思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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