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【最新研究】アトピー性皮膚炎の予防法と治療法 - 皮膚科医が解説

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎とは?その症状と原因】

アトピー性皮膚炎は、乾燥した痒みのある炎症を伴う慢性の皮膚疾患です。世界中で子供の13%、大人の5%が罹患していると推定されており、QOLに大きな影響を与えます。多くの場合、生後6ヶ月以内に発症し、25%は成人まで持続します。

アトピー性皮膚炎の原因は複雑で多岐にわたりますが、皮膚バリア機能の低下と免疫調節の異常が主な要因と考えられています。皮膚バリアを形成するタンパク質の遺伝的な欠損や、掻破などの物理的ダメージ、化学物質やアレルゲン、刺激物質による障害が皮膚バリアを損なうことで、表皮角化細胞からIL-33やIL-25、TSLPなどのサイトカインが放出され、炎症やアレルゲンへの感作が引き起こされるのです。

【アトピー性皮膚炎の予防法 - 最新の研究から】

アトピー性皮膚炎の予防法については、皮膚バリアの強化、免疫調節、アレルゲン曝露の制御などに焦点が当てられています。

皮膚バリアの強化策としては、保湿剤の使用が試みられてきました。初期の小規模な研究では保湿剤の使用がアトピー性皮膚炎の予防に効果があるとされましたが、最近のより大規模な試験では、高リスク児に対する明確な予防効果は示されませんでした。ただし、セラミドを含む特殊な処方の保湿剤を生後早期から使用することで、ある程度の効果が期待できる可能性があります。

プロバイオティクスについては、妊婦や乳児への投与が試験されてきました。35以上のランダム化比較試験(RCT)で6000人以上の参加者が検討されていますが、個々の試験結果の解釈は容易ではありません。プラセボ対照試験が多く、母親、乳児、あるいはその両方に投与するかなど、試験間の差異が大きいためです。2015年のWAO-McMaster University GLAD-Pガイドラインでは、妊娠中の母親へのプロバイオティクス投与がアトピー性皮膚炎を予防する可能性があるとしています。ただし、どの菌株が最も有効なのか、長期的な予防効果があるのかは不明確です。

プレバイオティクスについては、6つのRCTのメタ解析で、アトピー性皮膚炎の予防効果を示唆する結果が得られましたが、バイアスのリスクが高く、エビデンスの確実性は低いとされています。シンバイオティクス(プロバイオティクスとプレバイオティクスの組み合わせ)については、限られた数の小規模試験しかなく、予防効果は不確実です。

ビタミンDサプリメントについては、妊娠中の母親への投与がアトピー性皮膚炎のリスクを軽度に下げる可能性が示唆されていますが、新生児や乳児への直接投与の効果は不明です。母乳育児や加水分解ミルクの使用については、観察研究では予防効果を支持する結果が得られていますが、RCTによる検証は困難であり、エビデンスの確実性は低いままです。

ダニアレルゲンの除去や免疫療法も検討されてきました。7つのRCTのメタ解析では、ダニアレルゲンの除去によるアトピー性皮膚炎の予防効果は示されませんでした。ダニ抗原による経口免疫療法もアトピー性皮膚炎の発症を抑制しませんでした。

一方で、妊婦の抗生物質使用はアトピー性皮膚炎のリスクを28%高めることが観察研究のメタ解析で示されています。妊娠中の抗菌薬の適正使用が重要と考えられます。

【アトピー性皮膚炎の治療法 - 安全で効果的な選択肢】

アトピー性皮膚炎の治療では、保湿剤や抗炎症外用薬、経口抗炎症薬など、複数の選択肢が存在します。

保湿剤は、皮膚バリア機能を改善し、外的刺激から皮膚を保護するために不可欠です。

抗炎症外用薬としては、ステロイド軟膏やカルシニューリン阻害薬が広く使用されています。ステロイド軟膏は炎症を速やかに抑える効果がありますが、長期使用による皮膚萎縮などの副作用に注意が必要です。カルシニューリン阻害薬は非ステロイド系の外用薬で、中等症から重症の患者に適しています。

経口抗炎症薬としては、シクロスポリンなどの免疫抑制剤が用いられます。重症例や外用薬で効果不十分な場合に適応となりますが、腎毒性や肝毒性などのモニタリングが必須です。近年では、JAK阻害薬などの新しい経口薬も登場し、選択肢が広がっています。

そのほか、掻破行動を抑えるための抗ヒスタミン薬、皮膚感染症の合併に対する抗菌薬、紫外線療法なども症例に応じて用いられます。

アトピー性皮膚炎の治療では、患者の年齢、重症度、生活スタイル、価値観などを考慮し、個別化された治療計画を立てることが大切です。単一の治療法ではなく、スキンケアと薬物療法を組み合わせ、必要に応じて段階的にステップアップしていくことが求められます。

また、アレルゲンの特定と回避、ストレスマネジメント、生活指導なども治療の一環として重要です。患者教育を通じて、疾患に対する理解を深め、セルフケア能力を向上させることが、長期的な症状コントロールにつながるでしょう。

アトピー性皮膚炎は完治が難しい慢性疾患ですが、適切な治療とケアを継続することで、多くの患者でQOLの改善が可能です。新たな治療選択肢の開発も進んでおり、今後さらに個別化された効果的な治療戦略が確立されることが期待されます。

参考文献:

- Chu DK, et al. How to prevent Atopic Dermatitis (Eczema) in 2024: theory and evidence. Journal of Allergy and Clinical Immunology. Accepted Manuscript.

- 日本アレルギー学会. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. https://www.jsaweb.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=34

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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