ひとり親家庭の相談は8月に 困りごとの解決を
最近、ひとり親家庭の貧困という問題への関心が高まっている。
どうすれば、ひとり親家庭の子どもと親の苦境は少しでも減らすことができるのだろうか。
銚子市で、家賃不払いで県営住宅明け渡しの日にお子さんを殺害してしまった事件でも、専門家からはもっとできることがあったということが指摘されている。
一方では困っている人にどうやってアクセスできるのかと言われる。
そこが大きなネックだろう。
実は、ひとり親家庭の親にアクセスするのに効果的な機会が1年に1度、8月にあるのだ。
約145万世帯のひとり親世帯。このうち106万世帯以上のひとり親家庭の親が、児童扶養手当を受給している。
ひとり親家庭の多くが受給する児童扶養手当は、8月に現況届を提出することが義務づけられている。そのときに、様々な困りごとや相談をできる体制ができないか。
こうした提案はしんぐるまざあず・ふぉーらむで行ってきた。
昨年から厚労省も乗り気になってきている。
この取り組みを明石市で実際に実施した。
明石市では、8月が現況届の時期だが、お盆休み前後の8月8日~17日までの平日7日間、児童扶養手当の現況届時を「ひとり親家庭総合支援月間」と名付け、生活相談、子育て相談、ハローワークによる就労相談、健康相談、離婚後の子育てガイダンス(面会交流支援等)を行った。
私たちも全面的に協力、相談員を派遣した。
アンケート提出してもらい図書券をお渡しする
仕組みは以下のようである。明石市子ども未来部児童福祉課は、本館の隣にある。現況届を提出にまずはひとり親のお母さん、お父さんがいく。手続きは混んでいるときもあるが、朝はわりにすいている。お盆前はかなり並ぶこともある。ここで現況届のチェックを受け提出が終わったあと、職員が案内して本庁舎を抜けて南庁舎の相談会場にきていただく。ここが50メートルくらいあった。
相談会場に到着した受給者に事前にお送りしていた、アンケートを提出していただき、図書券を子どもひとりに対し500円を渡す。2人なら2枚。3人なら3枚である。
この部屋には「まったりスペース」と名付けて、本やチラシなどを置いておき、ここで、少し待ってもらえるようなスペースを設けておいた。
子どもにも絵本を用意し、離婚にまつわる子どもの本や、10代の子ども向けの性教育の本なども用意した
ひとり親の皆さんには、今日は相談をやっているので、生活相談や就労相談、子どもの養育相談を受けていかないか、と職員から話しかけていただき、じゃあ、という方には生活相談や就労相談等受けていただいた。
児童扶養手当受給1年目の方たちには、全員子育てガイダンスをご案内した。
実際には、現況届の窓口でかなり待たされている、ママ、パパはここでもまた待たされたくないとそそくさと帰る人の方が多い。それでも、じゃあ、ちょっとだけでも話していこうかと相談ブースに入られる方もいらした。
私たちは、7日間で95件の生活相談を受けた。
シングルマザー、シングルファーザーは忙しい。お声かけしても、「これから子どもと出かける予定がある」など断る方がいる一方、こうした相談の機会があってよかった、と行って、相談を受けていく人もいた。
約2800世帯の児童扶養手当受給者のうち、相談につながったのはごく一部である。
しかし、将来的な困りごとが、ここで解決の道筋が少しでものではないかという手応えがあった。
母子家庭が9割、困りごとは子育て(教育費)が多かった
95件のうち、相談者母子家庭がほぼ9割、父子家庭が1割、障害家庭が一人だった。
困りごとは子育てに関するもの、経済的な問題、仕事、人間関係と多様で会ったが、その中で特に注目点を伝えよう。
今回は、「教育費どうする? 教育費サバイバル準備読本」(しんぐるまざあず・ふぉーらむ作成)を500冊提供し、年齢の高い(中学3年生以上程度)の子どものいる親にはわたし、合わせて、教育費についての情報提供をするので、相談しないかと聞いた。
多くの親が、教育費についての情報不足を感じており、お誘いすると多くが相談ブースに入っていった。ここで、子どもたちの進路も含め、様々な相談を受けることができた。
明石市のシングルマザーの月収は手取りで10万円から15万円というところが多く、10万円台後半の人は少ない印象であった。この収入であると、養育費がもらえている、家賃が掛からない、等の条件がない限り、生活そのものがギリギリである。大学や専門学校に通うためには、教育ローンと日本学生支援機構の奨学金を借りる選択肢が最も多いと思われる。母子父子寡婦福祉資金貸付金を借りる条件は厳しく、多くのひとり親は保証人の条件で借りられそうもなかった。
保育所不足、病児保育、ホームヘルプサービス
明石市も保育所に希望しても入れない「待機児童」問題がある。シングルマザー、シングルファーザーは優先的なポイントがあるとはいえ、求職中のシングルマザーは保育所に入れず、就職できない悩みを抱えている人が5人いた。仕事が決まっても保育所に入れないために諦めざるをえなかったという悩みを切々と訴える人、保育所に預けて働き始めたが子どもの病気で失職した人、保育所に入れないために近居の祖母が昼間は働いているので夜に子どもを見てもらって深夜12時〜朝6時まで働いており、祖母ももう限界だという人。
明石市は保育所増設をしているが、解決に至っていない。
また、県が行う日常生活支援事業はほとんど利用できないため、安価な一時的な保育を頼むことができず、親族支援がないひとり親にとっては厳しい状況だと想像できた。
低年齢の子どもがいる世帯にとっては、保育の整備が何よりも先決だろう。
また学童保育のお迎え時間が早いためにパート就労しかできないという声も聞いた。
こうした問題についてはすぐに解決策を提示することはできないが、お話を聞き、孤立しがちな一人親の状況を傾聴することにも意味があると思われた。
経済的な困窮
来月からどう暮らしていけばいいのか、経済的に困窮しているひとり親も數人いた。病気で働けていない、あるいは、体を悪くして失業した、介護で働けなくなった、というひとり親がいた。
経済的な困難の解決ができなければ、生活保護を受ける道もあることを伝えながら、本人が就労相談を希望した場合は隣につないだ。このあたりはむずかしいところであった。
声をかけお話するだけではらはらと涙を流すシングルマザーもいらした。
東京と状況が違い、すぐに繋げられるフードバンク事業がなかったようだったので、悩みながら私たちのお米支援の情報提供をした方もいらした。
仕事についての悩み
専門的な就労相談は隣のブースで行っていたのだが、それでも就労にまつわる内容の相談は受けた。
全体として思うのは、離婚後2〜3年でパート就労など、親子がギリギリ暮らしていく仕事に就き、なんとか生活ができている状況の方が多いが、その先のスキルアップと転職をめざす人が少ないという事実だった。体力的にもギリギリなのはわかっている。子どもが高校生など待ったなしの教育費の相談を受けながら、もう少し前に、ライフプランを考えて転職を提案したかったと感じることが何度かあった。仕事と生活をやりくりするだけで精一杯なひとり親に酷なのかもしれないと思いつつ感じたところである。
父子家庭の相談
今回の相談で、手応えを感じたのは父子家庭の相談である。
ひとり親家庭の声を聞こうとしても、なかなか届かないのが、シングルファーザー、父の声である。今回は、おとうさんには必ず声かけをして、お話を聞かせてもらった。
声掛けのときに、「何も相談することがないからいい」というお父さんが多かったが、やや強引に相談ブースに入っていただくと、いろいろな悩み事が出てきた。
例えば「子どもの祖父が要介護となり、父が働けななくなり祖父の年金で暮らしている」というようなお話も聞いた。「料理が作れなくて惣菜ばかりだ」という声や「PTA委員に決められ、仕事を休んでいたら会社を退職せざるをえなくなった」という声もあった。解決は一筋縄ではいかない。一人で頑張らないように伝えた。あるいは、「子どもだけで登校準備をしている」ご家庭もあった。
父親の相談の間に、一緒に来た女の子には、性教育本を見せて気に入ってもらい、「本を買いに行こうね」と親子で行かれた方達もいた。
まったりスペースも効果を上げたのである。
その他、養育費の相談、お子さんの障害による複合的な悩み、児童扶養手当の運用への貴重な意見もあった。
相談の展望
8月の現況届を利用するこうした試みは、今後他の地域でも検討してもらいたい。実際に、ハローワークとの連携を実施した自治体など新たな試みが始まっているという情報が入ってきている。
できれば、窓口対応とは別の、親身になった相談が好ましい。
私たちは、当事者団体であることを自己紹介し、相談者との距離を縮める努力もした。
容易ではないひとり親家庭の状況だが、8月には受給者は全員が来ることになっている。このときに困りごとを解決していくことが、受給者自身にも伝わっていき定着していけば、かなりの効果を生むことだろう。
そのためにも相談員の質の向上もまた図らねばならないのである。
既存の枠組みを効果的に利用することで、やれることがある。そう実感した。